第13話 ゴートゥーヘル
俺は今、バイト先であるVRゲーム専門店「ノーススター」に半袖短パンで向かっている所だ。
「ノーススター」はVRゲームの専門店なだけあり、誰もが知ってる超有名なゲームから、誰も知らないコアなファンのつくゲームまで揃いに揃っている。見渡すだけでも、優越感と幸福感に浸れる最高の店である。
それでだ。他人に「あなたはなんのためにバイトをしているのですか?」と聞かれたら俺は迷わず「賞金付きVRゲームを買うため」と答えることだろう。
まあ、それに加えて、待遇がいいとか色々あるけども――最大の理由は、ソレだ。
賞金を得るためには本体のゲーム機とソフトが必要である。では、そのソフトやらを買うのには何が必要か――そう「金」である。
そこで、俺は考えた。VRゲーム専門店でバイトをすれば、「金」を貰いつつ、ゲームも帰り際とかで買えるし一石二鳥じゃね?
――と。
結果的に、俺の考えは正しかったと言えるだろう。気が乗らない時も過去にはあったが、最近は楽しくやらせてもらっている。
「相変わらず暑っついなあ」
アスファルトから上昇してくる熱と太陽の日差しに挟まれ、熱々のサンドウィッチ状態となり、身体が悲鳴をあげている今日この頃。
毎日が猛暑の夏は、引きこもりゲーマーの天敵と言っても過言では無い。
「これが、帰宅部の弊害……か」
俺は、歩きながら大きく溜息をついた。時間が経つ事に、削られる気力を噛み締め、頭の中に浮かぶのは、冷房が恋しいということと、馬鹿げた攻撃力を持つスライムのことだけであった。
「あのスライム……マジでさぁ……」
身体が脆い代わりに、俊敏で一発どかん系のバカ火力を叩き出すスライムの亜種は想像以上に厄介であった。
後半は、ヒナウェーブの活躍によりだいぶ気楽にはなったが、前半で、集中力と体力を大きく奪われ、かなり疲弊しきっていた。
昼食や仮眠を取り、身体的にもメンタル的にも回復したものの、この暑さで結局削られる始末である。
◆
無事、店に到着した。
入り口の自動ドアを抜けると、冷たい風が全身を包み込み、冷蔵庫の中にでもいるかのような演出を醸し出してくれる。
(……これが至高だよなぁ)
この瞬間が夏の醍醐味と言っても過言では無い。でも夏は嫌いだ。さっさと秋になりやがれ。
「
入荷した商品を棚に並べる作業をしていた先輩に対し、挨拶代わりに声をかける。
センター分けの金髪でシュッとした顔立ちをしている
表では、クールに振舞い、黙々と仕事をこなすタイプだが、裏では、結構鈍臭い所もあったりする。なんというか人間味があって、自然と親近感が湧くんだよなぁ。
「おう、裏に飲み物入れといたから取ってっていいぞ」
「了解っす」
浦戸先輩はいつも気が利く。疑う余地もなく、紛れもない善人であるのは間違いない人格者だ。いつも感謝している。
カウンタードアを押して、レジの裏に入ろうとすると――
「……ん」
謎の違和感を感じ取った。今日は、俺と先輩のシフトだったはずだ。それなのにレジに立っている「人間」がいる。オーナーはレジ打ちに参加しない為ありえない。
息を飲み込み、ゆっくり顔を上げると――
「お前……な、なんでここに……」
俺の横に立っていたのは、
「……ふふっ」
俺の反応を見て、微笑する来葉。他の人には、可愛らしく見えるだろうが、俺には狂気にしか映らない。
「あら、お友達? そういえば月下君には言ってなかったわね。最近雇ったのよ」
レジの裏からそろりと出てきて、言ったのは、この店のオーナーである
「なんでこんなゴミみたいな性格のやつ雇ったんですか!」
客が近くにいないのを確認した上で、小声で問いかける。
「えー、面接ではそんな子に見えなかったけどなー。ゲームについて凄く詳しいなぁと思ってね即採用しちゃったぁ」
オーナーは昔から浮いているところがある。何も考えてないというか……直感的というか……。
思い返せば、俺の面接の時もそうだった。ゲームについて質問された後、熱心にそのことについて語っていたら採用されたのだ。
(ああ……最悪だ……)
俺は心の中で落胆した。
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