第12話 フレンド

 結局のところ、俺はヒナウェーブとパーティを組むことになった。ここで出会ったのは運命だとかよく分からない理由を付けられて、彼女から懇願されたのだ。


 相変わらず何か裏があるのではと疑いたくなるが、接近戦に弱い狙撃手なら妥当だろう。アタッカーがいることによって、狙撃手の強みを存分に生かせるようになるし、俺としても、裏に実力者が控えているのは心強い。


 パーティを組むのは良いが、バイトがあるから【イサルデ】に着いたらログアウトするという旨を話したところ、ヒナウェーブは難なく承諾してくれた。どうやら彼女もそこで辞めるつもりだったらしい。


「じゃあ先行っていい?」


「ど、どうぞ……」


 俺が先頭、ヒナウェーブが後尾を担当し、吊り橋を渡り歩く。木の板が軋む音に嫌悪感を抱きながらも、ほんの数秒で陸地にたどり着いた。


「……おーい大丈夫か?」


 振り向いて、声をかければ、おぼついた様子で手すりにしがみつき、カタツムリ並の速度で足を運ぶヒナウェーブの姿を捉える。


「し、死ぬぅ!」


 ヒナウェーブは悲痛な声で叫んだ。


 橋を渡る際の顔色で何となく察してはいたが、彼女は、紛れもない高所恐怖症だったのだ。


「急に情けない声出すのやめてくれよ、思い出し笑いしそうになるからさ」


 フウリの断末魔が頭から離れない。あれは一生俺の中の記憶に残るだろう。


「いいから、早く助けてよ!! さっきの借り!!」


 今にも泣きそうな声を振り絞り、彼女は俺に訴えかけてくる。


「わかったよ、ちゃんと返すって!」


 吊り橋を引き返し、差し出してきたヒナウェーブの手を取ると、引きずるかの如く、何とか陸地に連れ出した。


「ふぅ……た、助かった……」


 ヒナウェーブは武器のスナイパーを支えにして、地面に突き立て、深呼吸をする。


「ほら、早く行くぞ」


「うん」


「いや、切り替え早」


 ヒナウェーブを先導しつつ、道なりに進む――


「ねぇ、なんか来てない?」


 確かに真正面から砂埃を立てて、こっちに向かって走ってきているのが分かる。


「あれは……プレイヤーか?」


「棍棒……ってことはまさか……」


 恐らく『鬼怒哀楽』のメンバーだろう。


「ウェブは後ろから撃ち抜いてくれ。俺は無敵だから時間を稼ぐ」


「いや、その心配は無いよ」


「……?」


 先程の疲弊しきった時とは打って変わって、キリッとした顔でスナイパーを構える。


「フラッシュバースト!」


 すると、スナイパーの先端から青白い光が集約していく。その光は徐々に拡大し、サッカーボール程の大きさに落ち着いた。


「これでも食らいな!」


 ――引き金を引くと同時に放たれた弾丸は、光を纏い、レーザー状に飛んで行く。そして着弾したかと思えば、轟音と共に、溜め込んでいた光を放出し、俺は瞬時に腕を被せ目を瞑る。


「――ッ!」


 向かい風が全身を包み込む。数秒後、目を開けると、プレイヤーは全員消滅していた。そして、地面は大きく抉れ、黒い煙を上げている。


「さすがに、やりすぎじゃ……」


「分かってないね。スナイパーはリロードに時間かかるし、一人づつしか殺れないから、あの数を相手するにはあれしかないのよ」


「あ、はい。そ、その通りですな……」


 いや――怖いわ!


 ◇◆◇◆◇


「つ、疲れた……」


「綺麗な街だ……」


 完全にくたびれ、膝をつき猫背になっていた俺とは裏腹に、街の景色を見て目を輝かせるヒナウェーブ。


「じゃあそろそろログアウトするよ」


 ちょっとでも休憩したいがために、早く出たくてしょうがなかった俺は、ログアウトボタンに手をかける。


「待って、折角ならフレンドにならない?」


「え、まあ別にいいけど」


「オッケー。今から申請するね」


《ヒナウェーブからフレンド申請がとどきました》


《はい/いいえ》


「はいを……ポチッと」


《フレンド登録が完了しました》


「バイトが終わったら教えて。チャットでも電話でもいいから」


「りょーかい。ありがとな色々」


「ううん、こちらこそ!」


 彼女が微笑むと同時にログアウトボタンを押す。すると、視界がボヤけ、世界が閉ざされた。

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