第5話 きまずい検証

 街に向かう前に少し検証したいことがあったことを忘れていた。なので、近くにいたプレイヤーに軽く声をかけてみる。


「ちょっといいかな?」


「うわぁっ! びっくりしたぁ!」


 後ろから声をかけると、狼を狩っていた小柄の少年「フウリ」は、仰け反った。そうなるのも致し方ない。この禍々しいコートに、猫の仮面だもんな……。


「あ、すまん驚かせて……」


「ああ、はい……」


 臆病な性格なのか俺の威圧のせいなのかはわからないが、フウリは若干怯えているように感じる。恐らく後者だろう。


 「いきなりだけど、その手に持ってる剣で、俺を斬ってくれないか?」


「ええと、それはどうして……?」


「判定を見たいんだよ。ギルドに所属している者同士は攻撃可能らしいけど、それ以外は攻撃不可能らしいからね」


「わ、分かりました……」


 このゲームはギルドにはいると事実上PK《プレイヤーキル》が可能になるらしい。


 わかりやすくギルドに所属している人を○、無所属を‪✕‬‪‪として、説明するとこうだ。

 ―――――――――――――――――――


 ○VS‪○ どちらも攻撃可

 ○VS‪✕‬‪‪ どちらも攻撃不可

 ‪✕‬‪‪VS‪‪✕‬‪‪ どちらも攻撃不可


 ――――――――――――――――――――

 バウクロは、このようなルールで成り立っている。


 それで、どんな判定なのか試したかったという訳だ。賞金に一歩でも近づきたいが為の「研究」である。


「ハァッ!」


 少年は先ほどの様子とは打って変わって、真剣な眼差しで容赦なく首を狙ってくる。


 しかし、その攻撃は不透明な結界によって弾かれた。


「――なッ!」


 フウリは弾かれた剣と共に尻もちをつく。


「なるほど……そういう判定なのか……」


 落ち着いている風を演出する俺だが、内心は、マジで怖かった。というか、首を狙ってくるなんて聞いてない。


「これで良かったですか?」


「ああ、うん。けどもう一つお願いがある。今度は、どこでもいいから思いっきり殴って欲しい」


 何言ってんだこいつという顔で仮面の奥の俺を見つめるフウリ。俺も、自分で何を言っているのかよく分からなかった。


「は、はい分かりました」


 まじまじと承諾した後、フウリは地面に手をつき、ゆるやかに立ち上がる。

 気のせいかもしれないが、さっきより威勢が良くなったような気がする。


「ハァッ!」


 予備動作なく繰り出された拳は、俺の腹目掛けて一直線。しかし、結界にはじかれ、フウリはまたしても尻もちをついた。


「……ど、どうですか?」


「ああ、良いデータが取れたよ。付き合わせて悪かったな……」


「いえいえ……お役に立て良かったです!」


 俺が手を差し伸べると、フウリも手を伸ばし握手を交わした。俺は自分の胸の方向に力を入れて少年を立ち上がらせる。


「フウリ、でいいんだよな? ちなみに高校生だったりする?」


別にフレンドになりたいとかそういう訳ではないが、何となく聞いてみた。


「いえ、大学生です!」


「え……ああ、そう」


(やべ、俺より年上だったか……)


 何とも言えない気持ちになってしまった。とりあえず、さっさと街に逃げよう――


「ルアさんも、もしかして大学生だったりしますか?」


「ギクッ……」


 振り向くと同時に、禁忌の質問をされてしまった。嘘をつくか、それとも本当のことをいうか……非常に悩ましい展開だ。


 まあ、嘘はつきたくない。後々、運に響きそうだからな。賞金のために運ゲージは貯蓄しておかなければ。となると、一択……か。


「いや、高校生ですけど……」


「わあ、そうなんですね……」


 うわー何だろう。フウリの発言がすっごい冷たくなった気がする。今すぐにでもログアウトしたい気分だ……。


「じゃ、じゃあまた……ど、どこかで!」


「ああ、はい!」


 あまりの気まずさに、スピードブーストを使い、爆速で俺は街へと向かった。




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