第6話 準備万端

 広大な「豊潤平野」の中心部に位置する「シーロ」は初心者が最初に立ち寄る街である。


 異世界ファンタジーのような中世的な建物はまるで海外旅行にでも来たような感覚を彷彿させる。思わず、ここに来た目的を忘れてしまうほど美麗な街並みであった。


 夏休み期間中ということもあり、自分含め、多くの初心者ユーザーで賑わっていた。街中では武器や防具、アイテムがNPC経営のショップで販売されているとのことだ。


「いらっしゃいませい!」


 ショップに訪れた俺は、髭の生やした、中年のおっさんNPCに声をかけられる。何ら人間と大差のない見た目に若干萎縮するも、ここに来た目的を述べる。


「おっさん、アイテムを売りにきたんだが……」


「おう。お前さんの目の前にあるパネルで売ることができるぜい。それに俺はおっさんじゃないぜい」


 どうみてもおっさんだろ……というのはさておき、冗談交じりに言った「おっさん」という言葉に反応を示したことに驚いた。


 それに、その気持ち悪い語尾は何だ。


 それはともかく、言われた通りパネルに触れてみる。


「俺のインベントリが同期されてる……」


 恐らく、パネルに触れた瞬間データを読み取ったのだろう。

 ちょっとしたシステムに感動しつつ、ドロップアイテムを全て売り、Gに変えた。


「もともと持ってる金を合わせて合計10300Gかぁ……ってドロップアイテム超重要じゃんか!」


 ドロップアイテムの重要性を確認したところで、続いて武器欄を見る。


 ・双刀 10000G


 ・乱刀(五月雨) 50000G


 ・真刀(暁) 75000G


「んん、一番安いので10000Gはちょっとなあ……」


 プレイヤーが最初に所持している武器は初心者ボーナスなのか耐久力が存在しない。チュートリアル(ホラゲー)で武器が壊れたのは、裏技攻略を防ぐためのシステムだろう。まあチートでも使わない限り不可能だとおもうが。


 てなわけで、武器はそのままでいいかな。ついでに装備も見たけど高かったので却下。


「回復薬は……買いだな」


 ・回復薬(小) 50G

 ・回復薬(中) 100G

 ・回復薬(大) 500G


 防御力が過疎いとはいえ、余程のことがない限りワンパンで殺られることは無いだろうと自分に言い聞かせ、悩みに悩んだ末、小、中、大の回復薬を5個ずつ購入した。


「また来いぜい」


「いや、それは無理あるだろ……」


 謎の語尾につっこみをいれつつ、ショップを後にする。


 さて、準備が整ったところで次のエリアに――と行きたいところだが、ステータスポイントを振るのを忘れていた。高い武器や防具を買わなかったのはそのためだ。


 ―――――――――――――

【プレイヤーネーム】ルア

 Lv.9

【職業】サムライ

【所持金】7050G


【HP】 50/50

【MP】 10

【ATK】30

【DEF】 5

【ST】 20

【DEX】15

【AGI】30

【CRI】10

【LUK】 10


 守護霊:無し


 スキル

 ・ムーンスラッシュ

 ・スピードブースト

・ラックカウンター


【装備】

 右手 日本刀

 左手 無し

 頭 猫の仮面(黒)

 胴 ロングコート(赤)

 腰 無し

 足 無し


【アクセサリー】

 ・なし


【称号】

 ・なし

 ―――――――――――――――

 40ポイントを懐に、ステータスと睨めっこし、振り方を試行錯誤していると……


「ん……ラックカウンター? 新しいスキルか!」


 確か――レベル5で手に入ったスキルだったはずだ。狩りに夢中で存在そのものを忘れていた。


 ・ラックカウンター

 使用すると、赤いエフェクトが発生。攻撃を防いだ際、LUKの数値に応じてカウンター発生率と威力が増加。


 「これ……幸運振り確定案件だよな……」


 幸運はアイテムのドロップ率や、その他もろもろに作用するとガイドに書いてあった。そして、ラックカウンターは幸運値によってカウンターの発生率と威力が上がるスキルである。


 要は、ポイントを幸運に振ることによって、一石二鳥以上の価値があるということだ。


 てなわけで、振り終えた結果がこちら。


 ―――――――――――――

【プレイヤーネーム】ルア

 Lv.9

【職業】サムライ

【所持金】3050G


【HP】 50/50

【MP】 10

【ATK】45

【DEF】 5

【ST】 20

【DEX】30

【AGI】30

【CRI】10

【LUK】 20


 守護霊:無し


 スキル

 ・ムーンスラッシュ

 ・スピードブースト

 ・ラックカウンター


【装備】

 右手 日本刀

 左手 無し

 頭 猫の仮面(黒)

 胴 ロングコート(赤)

 腰 無し

 足 無し


【アクセサリー】

 ・なし


【称号】

 ・なし

 ―――――――――――――――

 結果的に、LUKに10ポイント、ATKとDEXに15ポイントずつ振った。スキルしだいではあるが、暫くはこの3つをあげていくことになるだろう。


 ATK、LUKを振るのは確定として、最初はDEXではなくAGIに振ろうとしていた。

 しかし、俺にはスピードブーストと言う神スキルがある。このぶっ壊れスキルのおかげで、AGIをあげなくても済むと判断したのだ。


「結構消費したな……金」


 ステータスポイントを振るには1ポイントつき100Gかかる。これが地味に痛かったり痛くなかったり。


「準備もできた事だし、行くか!」


 そう言って俺は「車厘ゼリー森林」の奥地へと足を運んだ。



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