第7話 思ってたんと違う
ここは、始まりの街「シーロ」を抜けた先にある
「スライムかぁ……どんな見た目なんだろうな」
この手のゲームでは、当たり前のように登場し、多くの庶民に愛されているモンスター、スライム。
正直倒したくは無いが、賞金のためなら話は別だ。レベル上げとGを稼ぐために役立ってもらうからな……ぐへへ。
と、脳内で悪い笑みを浮かべながら、木々をかき分け、入り組んだ森林を進み続ける。スライムの生息地が沼地という設定のせいか、定期的に現れる泥溜まりによって足元を掬われる。
その間に奇襲されたら面倒だなと考えていると――
「お、出たなスラ……って何だコイツ……」
最初はスライムだと思った。まあそう……なのだが、俺の想像していたものと違ったのだ。
名は「スライムウッド」。スライムに細々とした木の棒が手足のように生えている。それに、クリっとした目。
例えるとしたら、小学生が図工の授業で作ったやつみたいな……そんな感じだ。
「ゆるキャラのパチモンか何か……か?」
見れば見るほどシュールではある。だが、可愛い。雑に改造されたとはいえ、さすがは愛されキャラと言ったところか。
「ピキッ!」
気が付けば、スライムウッドは木の足で地面を蹴り上げ、細い木の手で殴りかかって来た。
「おお……意外と俊敏だな」
俺は半身になって交わす。対してスライムウッドは角張った木材の足で着地し、再度攻撃を仕掛けてくる。
「そういう感じか……動きが分かればこっちのもんだぜスライムウッド!」
一度かわし、距離感を掴んだ俺は、スライムの胴体に刃先を向け、横一線に斬り下ろした。
すると、胴体が綺麗に半分となったスライムウッドは、赤いエフェクトと共に、消滅した。一撃だったようだ。
「さて、ドロップアイテムは……っと」
地面に落ちていたアイテムを拾い上げると、ウィンドウが自動的に開いた。
・木の棒
スライムウッドのドロップアイテム。
重要そうな情報は特になかった。果たして、何かに使えるのだろうか。火を起こすとかアイテムと組み合わせて、武器を作れるとかかな。
――すると
「ピキッ!」
「ん……!?」
音のした先を振り向くと、死角から殴りかかって来たのはスライムウッド――ではなくその亜種らしきモンスターだった。
「くっ!」
何とか反応して回避を試みたものの、その「銀色」の拳は俺の右腕を掠めた。
そいつ名は「スライムアイアン」。スライムウッドの手や足の部分が鉄の延べ棒に変化しただけのモンスターである。つまり、スライムウッドの「上位互換」だ。
「今度は鉄かよっ!」
俺は、削れた体力をものとも知らず、すぐさま攻撃に転じ、足を出すも泥が足元に纏わりつく。
スライムアイアンが着地した場所はおよそ2m。泥が纏わりついたことで間に合わないと判断した俺は、落ち着いて構える。
「ピキッッッ!」
俺に向かってくるスライムアイアンと視線が合う。スライムウッドとは違い殺意を感じる空虚な目であった。
「単純な攻撃にはもう慣れてんだよッ……!」
刀の刃先を直線的に迫ってくるスライムの胴体に定め、一突きを狙う。魚を突くモリのように、早く、鋭く――
――それは、完璧に捉えたかのように思えた。
「なっ……」
この瞬間、俺はスライムウッドとは明らかに動きが違うことを悟った。
コイツはスライムウッドや
正直舐めていた。ここまでスキルを温存していたのはそういうことだ。
「ピキッ!」
スライムアイアンはジャンプで交わした後、アクロバティックに着地すると同士に、片足で踏み切り、再び殴りモーションに入る。
「まずい……」
HPを横目に見ると、ちょっと掠っただけなのに何故か三分の一も持ってかれている。つまり、次の攻撃を喰らえば――即死だ。こんなところでやられるわけにはいかない。賞金狩りとしての威厳を保つために。
「ラックカウンター!」
そう宣言した瞬間、俺の周りに赤いエフェクトが発生した。
そして、刀の刃先を寄せ、スライムアイアンの振りかざす拳に焦点を合わせる。
――キンと、刀と鉄の拳が衝突した瞬間、刀に赤いエフェクトが乗り移り、自動的に前に押し出される。その時、俺は勝ちを確信した。LUKを上げておいて正解だったようだ。
その後、スライムアイアンの胴体は鉄の拳ごと粉砕し、消滅した。ドロップアイテムは落とさなかった。
「やっべ、死ぬぅ!」
「マジで来んなよ、スライム――振りじゃないからな」と心の中で祈りを捧げながら、回復薬(小)を飲み干し、全回復した。味は天然水に極めて近いものだった。
◆
スライムを警戒しながら、深い森を歩き続けると、整備された道に出ることが出来た。
そのまま道に反って行くと――
「何だこれ……」
二手に別れた道に連動した左矢印と右矢印の看板。その中間に配置されている看板には「神の御加護があらんことを」と書かれている。
「もしかして、当たり外れ系か?」
さて、どうしたものか。人間の思考的観点で行くなら右だが……。
「ここは敢えての左だな」
頭を使う必要なんてない。死に要素がなければ引き返せば良い。たったそれだけの事だ。罠なら罠で自分の運が悪かったということにしておこう。
左を選択した俺は、再び足を運ぶ。
引き続き、スライムの奇襲に最善の注意を払いながら、素朴な整備された道を進み続けると、円形状の広々とした空間に出た。
そこに立ち入ろうとすると――
《ノーマルクエスト 【堅牢堅固のスライム】に挑戦しますか?》
《はい/いいえ》
「はにゃ……?」
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