第8話 猫の変人VS堅牢堅固のスライム

 ノーマルクエスト【堅牢堅固のスライム】。クリア報酬5000G。推奨レベル10。


「ひとまず、当たりってこといいんだよな?」


 片方の道がどうなっているのか気になるところではある。


 一応、スピードブーストを使用し、全力で引き返せば、片方の道を確認しに行くことも可能だが――罠だった時のことを考えると悪手だ。


 というのも、このゲームはモンスターにやられる、もしくは落下ダメージなどによる自滅で所持金から1割引かれるというペナルティが存在する。これが新参者には地味に痛い。


 そんなわけで、もちろんクエストに挑戦する訳だが、その前にポイントを割り振っておこう。

 ―――――――――――――――

【プレイヤーネーム】ルア

 Lv.14

【職業】侍

【所持金】3050G


【HP】 50/50

【MP】 10

【ATK】55

【DEF】 5

【ST】 20

【DEX】35

【AGI】30

【CRI】10

【LUK】 30


 守護霊:無し


 スキル

 ・ムーンスラッシュ

 ・スピードブースト

 ・ラックカウンター

 ・月影返し


【装備】

 右手 日本刀

 左手 無し

 頭 猫の仮面(黒)

 胴 ロングコート(黒赤)

 腰 無し

 足 無し

 ―――――――――――――――

 奇襲してくるスライムをひたすら狩っていたらいつの間にかレベル14になっていた。スキルも1つ増えている。どうやら、5の倍数で習得できるみたいだ。


 25ポイントを握りしめ、ステータス画面とにらめっこした結果、ATKとLUKに10ポイントずつ振り、残ったポイントはDEXに振った。


「さあ、クエスト開始だ」


《ノーマルクエスト【堅牢堅固のスライム】を開始しました》


 堅牢堅固のスライム。文言的に硬いスライムと言ったところか。スライムなのに硬いというのは謎ではあるが、所詮ノーマルクエスト。ゴリ押しすれば余裕だろう。


 数秒待つと、フィールドの奥から3Dプリンターのようにみるみると実態を現したスライム。


「でけぇ……」


 それが率直な第一印象だった。見た目は手足のないスライムの巨大化バージョン。全くもって硬そうには見えない。それに、召喚されたスライムはなぜかスヤスヤと寝ている。


「ノーマル」クエストという事もあり、自信に満ち溢れていた。しかし、この後地獄になる事を俺は知る由もなかった。


「速攻で倒してやる! このスピードでなあ!」


 初手でスピードブーストを使うのには2つの理由がある。


 ①スタミナが一定期間無限になるため、バフとの相乗効果で敵の攻撃を回避しやすくなる。


 ②スピードアップのバフによる攻撃力傘増し。


 2つ目に関しては「豊潤の草原」でモンスターを狩っていた際、気づいたものだ。


 どうやら、このゲームはスピードが乗った攻撃と通常の攻撃で威力に差が出るらしい。


 つまり、スピードブーストを使用することで、攻撃力を物理的に上乗せできるということだ。初めてそれに気がついた時は、度肝を抜かれた。


 まだこんな強みが隠されていたのか……と。


「からの、ムーンスラッシュ!」


 三日月のような弧を描き、切りつける攻撃系のスキル、ムーンスラッシュは大きな巨体に命中した。


 しかし――


「ん……?」


 違和感のある感触を感じた。斬りつけたスライムの胴体を見ると、ダメージを与えた時に発生する赤いエフェクトが見当たらない。すぐさまHPバーに目を移すと、たった1ミリしか削れていなかった。


「……どうなってんだ」


 一度立て直すため、後方へ下がる。すると、スライムがまぶたを開け、こちらを見つめる。


 対して俺は刀を構え、様子をうかがう。


「ピキー!!!!」


「ああ?」


 耳に悪そうな奇声の後、スライムの青い身体は、橙色に染まって行く。表情の変化を見ればわかる。このスライムは――睡眠を邪魔されてブチ切れている……と。


 嫌な予感が脳裏によぎる。


 そして、全身が橙色に染まりきった瞬間――


「……と、飛んだ?」


 ギリギリ動体視力で追える位の速度で巨体のスライムは宙を舞う。


 その着地場所は――


「ぬわぁッ!」


 もちろん、狙われたのは俺だった。地面に現れた円形状の影を注視し、何とか影の外側に避難する。スピードブーストを使っていなければ押しつぶされていただろう。


「またか!」


 一度回避した後も、巨体のスライムは躊躇なく――どすん、どすんとスタンピング攻撃を繰り返す。それに、的確だ。大きい胴体の中心で確実に踏み潰そうとしてくる。


「くっそ、攻撃する隙がねぇ!」


 回避した後、刀で攻撃しようと試みるも、スライムは着地した瞬間、すぐに飛び上がり既に上空で待ち構えている。巨体なのにも関わらず、機動力が半端ない。


「――ッ! 避け続けるしかねえか」


 その後もスライムのスタンピング攻撃は続き、20回ほど跳ねたところでようやく動きが止まった。そして、全身が青色に戻った後、スライムは定位置にもどり、眠りにつく。


「や、ヤバすぎる……」


 腰に手をつき、呼吸を整えつつそう呟いた。スピードブーストが切れたとき、一時期はどうなるかと思ったが、何とか気合と根性で交わし続けた。


 一連の流れでわかったことは、スライムに攻撃はほとんど通らないということ、そして、無限スタンピング攻撃の二点だけ。攻略の糸口は特に見えなかった。


「もしかして……スタンプ中に下から攻撃すればいいのか?」


 回避しながらそんなことも考えたが、ノーマルクエストでそれをやらせるとは思えない。というより、押しつぶされて死ぬだけだ。チキったと言われればそれまでだが……。


「待てよ……逆に考えればスライムを起こさなければ、俺の勝ちってことだよな」


 俺は、1つの作戦を思いついた。


 題して「寝てる間にグサグサ作戦」である。ダサいのは許して欲しい。それ以外思いつかなかったんだ。


 俺は、そろりそろりと忍び足で巨体に近づく。その間、スライムはいびきを立てながらぐっすりと寝ていた。


 そして、巨体の目の前までたどり着くと、俺は刀を逆手に持ち、軽くグサッと刺した。


「……!」


 固くない。ダメージを表す赤いエフェクトが出ている。それに、スキルを使った時よりHPが削れる。


「マジでこれが正攻法なのかよ」


 本当にこれでいいのかと不安ではあったが、刺すこと計6回。堅牢堅固のスライムは、眠ったままポリゴンになり姿を消した。


《ノーマルクエスト 堅牢堅固のスライムをクリアしました》

《ドロップアイテム:スライムのジェル》

《報酬:5000G》


「だからノーマルクエストってわけか……」


 そう呟くと同時に、ドロップアイテム「スライムのジェル」を拾い俺は街へと向かう。


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