第2話 キャラメイク
【Bounty Chronicle Online】――大衆の間では、「バウクロ」や「BCO」などと呼ばれているこのゲームは、最近発売された賞金付きのVRMMOである。
国内では、初の賞金付きVRMMORPGゲームとして話題となり、抽選にて参加者が選ばれるβテストでは、運営の想定していた人数を優に超える応募が来たとの事だ。
因みに、俺は抽選に外れ、βテストに参加することが出来なかった。発売前の人気からして、とんでもない倍率だったのだろう。
本当は発売当日にやりたかった所だが、"AI"の虜になってしまい、手が付けられなかった。
賞金を手に入れ、無事(?)サービス終了したことでようやく始めることが出来る。
「よっしゃ、やるか!」
夏休み2日目、珍しく朝の9時に起き、洗顔やら朝食やらを手っ取り早く済ました俺は、レジ袋の中に潜ませておいた未開封のパッケージを手に取る。
今までにない胸の高鳴りを感じつつ、パッケージを開け、VRヘッドギアにソフトを入れておく。
「エアコン……大丈夫か」
プレイする前に、朝つけておいたエアコンがちゃんと機能しているのかどうかを確認する。
というのも、去年の夏、VRゲームをしている最中にエアコンが故障し、危うく熱中症で死にかけたことがあった。その後直ぐに修理してもらったものの、それ以来、心配性になってしまったのだ。
「大丈夫そうだな……」
指差し確認をしたところで、すかさずベッドに横たわり、VRヘッドギアを着ける。
すると、意識が吸い込まれるような感覚がした。
◆◇◆◇◆
気が付けば、俺は半透明なウィンドウの前に立っていた。その画面には「プレイヤーネームを入力してください」と表示されている。
「プレイヤーネームの設定か……まあルアだな……」
長考するまでもなく「ルア」と入力する。
この名前は、俺がいつも使っている固定のプレイヤーネームである。
「月」下彩人の月をポルトガル語に変換しただけの名前。特に捻りもない安置な名前ではあるが、長年愛用しているだけあって、割と気に入っている。
「よし、プレイヤーネーム決定!」
――次は、このゲームの核となる職業の選択だ。
格闘家、剣士、狙撃手、など多種多様な職業。スクロールの秒数的に、50種類以上あるかないかくらいだろうか。
俺は試しに、一番端にあった格闘家をタップして、性能を確認してみる。
「……これ、俺にピッタリの
”AI”に染まってしまったせいか、最初はそう思った。しかし、格闘家はどうやら武器を装備出来ないらしい。初めてのオープンワールドで武器無しは不安なので辞めておこう。
「となると……剣士か侍かな……」
俺は中学生の時、剣道部に所属していた。それには理由がある。
先に結論から言うと、賞金のとれる選択肢を増やすためだ。
当時も今もそうだが、VRゲームというカテゴリーにおいて、剣を扱うゲームは無数に存在する。
そのため、俺のとっての剣道は賞金を手に入れるための修行と同義だった。
三年間みっちり修行し、かなりの実力を身に着けたものの、中学生最後の大会では予選敗退という素晴らしい結果を残したのは内緒にしてほしい。
ということで、剣道の経験を生かせる剣士と侍の二択な訳だが、侍にしようと思う。平凡感漂う剣士よりも侍の方がなんかかっこいいしな……。
そんなわけで、職業は侍に決定。
――次にキャラメイクだ。
画面に映し出されていたのは、いかにも『サムライ』って感じの柄の凝った袴を装備していた自分だった。
(俺の全身を読み込んだのか……)
この技術力には思わず関心する――というより怖いまである。なにせ、顔も体格も完全に自分そのものだったからだ。
「和服はなぁ……動きにくそうなんだよなぁ」
そこまで再現されているかどうかは置いておいて、剣道の経験から、この類の服は動きにくいことを知識として知っている。
それに、着心地があまり好みでは無い。
そんなわけで、適当にポチポチしていると……
「おぉ……」
顔と体型は変えるとめんどくさい事になりそうなのでそのままにして、袴をコートに変更した。客観的に見ても、意外と様になっている。
結果的に、袴より目立つ格好+動きにくい服装になってしまったが、その理由は、刀に似合う服がこれしか無かったからだ。独断と偏見という名の「センス」というやつである。
「んー、何か忘れてる気がするんだよな」
自分のキャラを眺めながら、顎に手を当て、何とか思い出そうとするもなかなか思い出せない。
賞金、賞金、ウキワ――
「あっそうだ、顔を隠すんだった」
というのも、このゲームが発売される前、メールでのやり取りで「バウクロ」の話題になり、「出会ったら殺す」と死刑宣告されたくらいだからな。
なので、
「よーし、キャラメイク終わり!」
猫が好きだからという理由で、よく分からない猫の仮面を装備し、全ての設定が完了した。
《バウンティ・クロニクルに転送を開始します》
柔らかな声色をした女性のアナウンスと共に、眩しい光に包まれる。
「さあ、待ってろよ賞金!」
賞金狩りは、新たな世界に初めて地に足を踏み入れる――
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