第99話 オッサン齢53歳にして女の子を泣かす。

 勝負はあっという間だった。


 囲んできたアスパラとマネンドを破砕の盾で撃退する。


 今回はHPを削り切るつもりで撃ってる。


「すまん」

 突進してきたプス子にメダイストライクを打ち込む。


 俺が近距離のモンスターを相手している間に、笹かまは、黄竜葵、厳竜葵を麻痺させ、マネンドのリーダー錦を仕留めていた。


「プス子ぉぉ!錦さぁぁぁん!」


 俺も、魅夢で体験したから分かる。

 使役してる相手にはパスが繋がっている。


 それが消えていく喪失感は尋常じゃない。


 完全に喪失しなかった俺ですらそうである、間接支配の奴らはまだしも、直接支配の奴らからの精神的ダメージは相当だと思う。


「やめてぇ、もうやめてぇ」

「そう思うなら、攻撃をやめて大人しくするっすよ」

 村重さんはコクコク頷き、モンスターの戦闘をやめさせる。


「どうして、こんな事したんだ?」


「お姉さまがここからは誰も通すなって…」

 泣きながらそう答える。


「お姉さまって氷妃っすか?」

 コクンと頷く。


 分かってはいたけど、気が重い。


「村重さんは、とにかくこのダンジョンから外に出るんだ!いいね?」

「…はい、すいませんでした」

 ちょっと心配だが実力的には問題ないだろう。


 俺たちは最下層へと降りていく。


「お前マネンドの時だけ手加減しなかっただろ?」


 手元のアプリを操作しながら、笹かまの行動を指摘する。


「あれだけは扱い方でとんでもない危険性があるっすからね、村重さんが気づかないうちに処理したかったっす。

 管理しきれないなら、抹殺しないとならない対象っす」


 笹かまが俺にアプリを覗き込みながら答える。


 この辺の切り替えはシビアだな。


 進んだ先にはグルグル巻きにされて座らされてる男が1人、その横に仁王立ちする赤い鎧の男が1人、そして明らかに氷妃のパーティと思われる集団がいる。


「やっぱりババァの差し金っすね、烈火も向こう側にいるっす」

「でも、証拠はないよな」


「そこなんすよね、ほんとムカつくっす」


「意外におそかったわね」

 氷妃が優しげな口調で俺に語りかけてきた。


「すまんな、この体型なんでな、これでもだいぶ急いで来たんだけどな」


「一応聞くけど、私に味方してくれるとかはないかしら?」


「むしろ、なぜそっち側かが謎なんだが」


「簡単な事よ、貴方私の名前は知ってるかしら?」


「いや、知ら…ない事はないな…あれだ」


 ー 「本日のゲストは現役探索者ランキング1位の氷妃こと飯田のぞみさんです」 ー


 テレビだ!


「飯田のぞみさん、だったかな」


「飯田…まさか!あの飯田さんの関係者っすか?」


「そうよ、娘よ…養子だから血は繋がってないけどね。

 それでも血には縛られてるわ」


「どういう事だ?」


「会長はババァに対して異常に甘いっす。

 で、飯田さんは会長のする事は100%肯定するっす。

 その娘なら無条件でババァのコマっすね」


「彼女の意思に関係なくか?」


「そうよ、私にはお父様に逆らう選択肢は無いの。

 お父様の為に現場で動く駒、それが私に存在意義なの」

 氷妃の右目から、涙がツーッと流れる。


「疑問なんすけど、ダンジョンの内容いじったの氷妃が指示したんすよね?

 なんで、自分に不利なヨトゥンにしたんすか?」


「あれは貴方のせいよ、急遽変えたでしょ、本当はアレに遭遇するのは貴方達でそこで始末される予定だったのよ」


「じゃあ、みんな苦戦してたんじゃなくて、本当は韋駄天が苦戦、うちらが全滅、氷妃が楽勝って流れだったんすね」


「そうよ、直前の変更で流石に対応しきれなかったわ」


「なぜ氾濫なんか起こさせたんだ?」


「探索者の選別よ」


「選別?」


「こちら側につくものは生かし、つかないものはこの騒動のどさくさで間引くためね。

 ついでに私達が活躍して協会内の地位が向上すれば尚良しって感じね」


「戦わないで平和的解決は無理なのか?」


「貴方達が私達に協力してくれるなら、平和的な解決は出来るわよ」

 氷妃が寂しく笑う。


「あのイレギュラーとはどうやって知り合ったんすか?」


「未確認のダンジョンはかなり前に見つかっているのよ、それを隠したまま独占しようとして私達が調査に入ったの、独占するだけの価値があるか調べる為に。

 そこであのイレギュラーに遭遇したのよ。

 あれね、冬場は半分も力が出ないのよ、それこそ私たちでも簡単に御せるくらい」


「いったいお前らは、協会を牛耳って何をしたいんだ?」


「それは言えないわ、教えて欲しかったら仲間になって、私が貴方を欲しいのは本気よ」

 真剣な表情で氷妃が俺を見つめてる。


 その顔は何か俺に救いを求めているようだった。


「君たちに仲間にはなれない」


「そうね、残念んだわ」


 その瞬間、俺の目の前が炎で真っ赤に染まった。

『豪火』


 烈火の声が聞こえたのと同時だった。

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