第96話 オッサン齢53歳にして交渉する。
翌日イレギュラーが発見された所よりも未確認ダンジョン寄りの場所から、捜索が始まった。
「ん?なんか急に動物タイプのモンスター増えてきてないか?」
「そうっすね、未確認ダンジョンが動物系ダンジョンなんすかね?」
「そんなダンジョンあるのか?」
「割とあるっすよ、正式な呼ばれ方じゃ無いっすけどスラング的にFAなら動物、FOなら妖魔系、UUならアンデッドオンリーって感じっすね」
「そんなのもあるんだな」
「あ!反応ありました!」
天網恢々に引っかかったようだ。
「とりあえず向かうか」
情報が無さすぎてなにを警戒すれば良いかも分からないが、とにかく接触してみる事にする。
山林の中を進むとバカでかい鹿が佇んでいた。
『どうした?人の子よ、我と戦うか?』
喋った!
「戦わないという選択肢はあるのか?」
『んー、無いな』
全員が戦闘態勢にはいる。
『だが、会話をする猶予なら与えてやっても良い』
「その猶予を貰えないか?」
『よかろう』
「この氾濫をさせたのはお前の力か?」
『さよう』
「なぜこの様な事をしたのだ?」
『異な事を述べるのだな、そなたらの
「やっぱりっす、ババァっす」
笹かまが憎々しげに声を漏らす。
「どうやってやり取りしていたんだ?」
『使いのものが来ていたな』
「氾濫を止める事は出来ないのか?」
『一度結んだ約定を違える事は出来ぬのだ、すまんな』
「このまま、何もしないでダンジョンに戻って貰うのも無理なのか?」
『出来ぬわけでも無いが…』
「出来るのか!」
『我を負かさねばならぬぞ』
「え?」
『言ったであろう、戦わぬという選択肢は無いとな。
敵対しても、敵対しなくても、戦わねばお主らの希望通りには出来ん』
「ぶっちゃけ、人間側であんたに要請したの誰なんすか?」
『分からぬな我には人間の区別など、男か女かくらいしか判別出来ぬ』
「じゃあ、せめて男か女かだけでも教えて欲しいっす」
『最初に我と交渉したのは女だったのう、その後は男が連絡に来ておった』
「ダンジョンの卵って、あれもお前が置いたのか」
『うむ、この辺のダンジョン全てを氾濫させろという無理な注文だったからのう、我の身体を使って作りだした』
「あれの効果は氾濫を起こすだけなのか」
『多少モンスターが活性化するだけのものだ、結果的に氾濫になるが、その程度のものだ』
「聞きたい事はこれくらか?」
笹かまの方を俺が見る
「そっすね」
「じゃあ始めるか」
『戦うのか?』
「出来れば穏便に済ませたかったがな」
『残念ながらそれは無理な話だな、我らは自分より強いものの話しか聞かぬからな』
「烈火!」
「おうよ!豪火!」
ゴウッという音と共に、イレギュラーが火柱に包まれる。
ここに来る前にイレギュラーが会話のできる存在だという可能性は考慮してた。
その時の対応として時間を稼ぎ、烈火の大技を叩き込む話をしていた。
この技は時間をかければかけるほど威力が上がる。
たっぷり時間をかけて話し合った今なら、最大威力でスキルを叩きつけれた。
火柱が消えた。
そこに千紗の全スキル乗せのアイススピアジャベリンを叩きつける。
そこには、無傷のイレギュラーが立っていた。
「クソ!」
空中機動からの笹かまの一撃で俺が近づくまでの時間を稼ぐ。
つもりだったが、完全に無視をする。
「まずいっす!こいつ障壁持ちっす!」
『クオォォン』
鳴き声が衝撃派として叩きつけられた。
踏ん張ったが耐えきれず後ろに吹っ飛ばされる。
視界の隅でイレギュラーが光ったのが見えた。
まずい!
スローモーションのように相手が突進してくるのが見えた。
身体が全く動かない。
イレギュラーの角が自分を貫い…。
…
…
…
「みーーーーーーー!」
俺とイレギュラーの間に強引に自分の身体を捩じ込み、貫かれ血を吐いてる小さな身体がそこにあった。
「いやぁぁぁぁ!」
千紗の悲鳴が聞こえる。
「みー!みー!みー!」
何も考えられず、ただ、名前を連呼することしか出来なかった。
ズルリとツノから地面に落ちる魅夢。
イレギュラーがトドメを刺すために踏み潰す。
「うわぁぁぁ!」
必死に魅夢に覆い被さる。
「ダメ…逃げて…ゴポッ」
口から血を吐き出しながら、俺を気づかう魅夢。
「ガァァァァァァ!」
背中にとんでもない衝撃が走る。
「わた…しの…ちか…ら…をうけ…と…って」
魅夢が自分のありったけの力を首のロザリオに注ぎ込む。
今までロザリオに留まっていた力と今注ぎ込まれた力がすべて俺に受け渡される。
「ダメだ!みー!死ぬなあ!俺の全てを持っていって良いから死ぬなぁぁ!」
俺の思いにロザリオが反応する。
俺の背中がイレギュラーの脚でもう一度踏み潰される刹那。
「わらわのパパ…あるじに仇をなすものは私…わらわが許さない!」
見た目は3頭身キャラのままだが、その存在感は何十倍にも増していた。
空中に浮いた状態でイレギュラーの脚を片手で支えていた。
「堪忍袋の緒をきりゅ!」
あ、かんだ。
じゃなくて俺のスキルまで持っていかれてるのか。
全てを渡すと宣言してから何も力が入らない。
癖のあるスキルだから上手く使えるのかな?
「ウリャウリャウリャウリャウリャァァァ!」
赤いオーラを身に纏いすごい勢いでイレギュラーを殴りつける。
『これは堪らん、大人しくダンジョンに戻るとしよう。
小さきものよ、名前はなんと言う?」
「魅夢!」
「そうか、いずれ又会う事もあるかも知れぬな」
そう言うと未確認ダンジョンの方へと歩いて行った。
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