第93話 オッサン齢53歳にして相談される。

 制圧と救援が終了して、本部に報告後自分たちのテントに戻ってきた。


「あ、お帰りなさーい」

 村重さんが出迎えてくれた。


「ん、あぁ、ただいま…えーっとそれは何かな?」

 村重さんの両隣に草花で作ったピクトグラムみたいなモノがヒョコヒョコ付いてきている。


 頭の部分が黒いブドウの様な丸いものが付いていて、手が葉っぱ、足と身体が茎でできている様な、そんな感じだ。


 プラントモンスターなんだろうけど、これは一体何者?


「イヌホウズキの黄竜葵さんと厳竜葵さんです」


「コウリュウキ、ゲンリュウキ、もしかしてネームド?」


「そうですね、氾濫モンスターの制圧任務に参加したんですけど、なんかやたら強いモンスターがいて、黄竜葵さんをテイムしたら、なんか絆が深いらしくて、厳竜葵さんも仲間になってくれました」


「お、おう」

「しっかし、イヌホウズキのどこに竜の字つくんすか?」


「イヌホウズキの漢方薬の時の名前が竜に葵でリュウキって言うそうですよ」


「へー知らなかったっす!ちなみにどんなスキル持ってるんすか?」


「黄竜葵さんが、矍鑠っていう攻撃力が上がるスキルと精密射撃で、厳竜葵さんが頑固っていう防御が上がるスキルと速射があって、2人とも種族特性で麻痺を持ってます」


 かくしゃくと精密射撃で黄…老将軍か?

 じゃあ、厳で頑固って事は定軍山コンビか、しぶいな。


 その夜、探索者たちの宿営地で騒動が起きた。


 ー探索者協会sideー

「ん?ここは使用されてないテントじゃなかったか?」

 見廻り業務を委託されている探索者のグループが目の前で休憩している人が使用しているテントに疑問を持った。


「お、確かにここは使用されてない事になってるな?」


 2人はテントの使用者に事情を聞くことにした。


「すいません、ちょっと聞きたいことがあるんですが?」


「はぁ、なんでしょう?」


「お名前を教えて貰って良いですか?」


「大町卓也です」

 名前をタブレットに打ち込み検索する。


「…その方は死亡届けが出ておりますが」


「そっちの間違いじゃないですか?俺は生きてますし…」


「確認するんで、探索者アプリ入ってる端末見せて貰って良いですか?」


「あ、はいちょっと待って下さいね」

 そう言って男は立ち上がると、おもむろに手を前に差し出した。


「え?端末は?」

 そう言って手を覗いた瞬間突然その手が槍の様に変化して探索者を突き刺した。


「ぎゃー!敵だぁ!」


 ー剣崎sideー

「剣崎さん、昨日の騒動知ってるっすか?」

「ああ、魔粘土が紛れ込んでたって奴だろ」


 マッドクリエイター、通称魔粘土と言われるモンスターだ。

 通常は泥の様な形状だが、死体に取り憑く事で取り憑いた相手に擬態出来る様になる。


 元々はそれほど強いモンスターでは無い。

 だが、こいつの厄介なところは取り憑いた相手の知性やスキルまでコピーしてしまう所だ。


 魔法使いの探索者に取り憑けば、魔法まで使える様になる。


「そうっす、で、この話聞いた素行の悪い探索者が、日頃仲の悪い探索者をマネンドだって切り付けたんす」


「無茶するなぁ」


「そうしたら、本当に切り付けられたメンバーの1人がマネンドだったんすよ」


「うわ、マジか」


「それで、一斉検査する事になったっす。

 検査終了まで大規模な作戦は中止っす」


「どんな検査するんだ?」


「簡単っすよ、指先に針刺して血が出るかって見るだけっす。

 感染対策に全員分の針揃えるのに1日かかるらしいっすけど」


「ふーん」


 そんな話を朝方に聞いた昼頃。


「あんたが剣崎さんかい?」

 超絶イケメンに声をかけられた。


「そうだが、君はだれだい?」


「俺の名前は錦野龍馬、ランキングでは半分より上の所謂中堅探索者って奴だな」


「その中堅探索者が俺に何のようがあるんだ?」


「おたくと村重って人と3人で話し合いがしたい」


「はぁ?ナンパなら勝手にやれよ!俺を利用するんじゃねぇよ!」

 どうもな、くだらない嫉妬心なんだがイケメンってだけで、当たりが強くなってしまう。


「いや、違うんだ!相談事があるんだ!頼む相談にのってくれ!」

 いきなり土下座してきた。


 マジか!

「…ウチの笹かまも混ざって良いなら相談のるが、言っておくが村重さんは俺たちのパーティって訳じゃ無いからな、あくまで話聞くだけでそれ以上は何も出来ないからな!」


「分かった、それで良い」


 2人を呼んで少し離れたところで話し合いが始まる。


「で、なんなんだ、相談って?」


「それなんだが、その前に俺の話を最後まで聞いてくれると約束してくれないか?」


「分かったからとっとと話すっす」


「俺をその村重って人にテイムして貰えないか?」

 一瞬で笹かまの身体から殺気が噴き出す。


 俺もいつでも殴れる用に構える。

「お前…マッドクリエイターか?」


「そうだ、我々はお前たちの陣営に寝返りたいと思っている。

 もちろん全員では無いが俺の麾下に居る直属10名確実に寝返る」


「モンスターが自分から寝返るなんて初めて聞いたっすよ」


「俺の本当の名前は錦超土というネームドだ。

 今回の氾濫騒動が起きる前から地上にいる」


「そんな事が出来るのか?」


「…未発見ダンジョン、あれのイレギュラー見たって剣崎さん言ってたじゃないっすか」


「気がするってだけだぞ」


「あれが本当に既に外に出てたなら、その時点でとっくに標茶のダンジョンは氾濫してたって事っす」


「そうなのか?」

 俺は錦に向かって問いただす。


 コクッと頷いた。


「俺はより強い個体を求めて、既に何人もの探索者に取り憑き自身を強化してきた。

 このままじゃ俺たちは全滅するという判断が出来る程度に知識がついてしまった。

 俺が元々ネームドだから自我が他より強いせいだと思うが俺は死にたくない」


「モンスターの降伏なんて認められないだろうな」


「そうなんだ、それで困っていたんだが、そんな時に彼女がテイムする場面を見た。

 1体しかテイムしてないのに繋がりの深いものは同時に彼女の麾下に入る姿を見てこれだ!と思ったんだ」


「ん?普通にテイムされるじゃダメなのか?」


「普通のテイマーにはテイム数に上限があるっす、てか村重さんにもあると思うんすけど、間接的にテイムするっていう不思議現象起こしてるんで、上限がゆるゆるなんすよ」


「一族バラバラにテイムされるよりは全員同じ所でテイムされたい」


「錦のその気持ちは分からんでも無いが、最大の問題がある」


「なんだ?」


「お前、竜ってつかないじゃん」

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