第92話 オッサン齢53歳にしてモテ期に入る。

「助かった!本当にありがとう!」

 氷妃が韋駄天と烈火と握手をしている。


 そのまま俺の方にも来た。

 探索者界のクレオパトラと呼ばれるだけあって、その美貌もプロポーションも完璧だ。


「救援に来てくれてありがとう。

 しかし、話には聞いておったが、本当に興味深い!

 装備と自身の能力のシナジーで戦うという発想がすごいな!」


 あれ?近い。


「お褒めいただき光栄です」

「いやいや、私は素直に尊敬しているぞ、そのスキルを見て諦めなかった其方の精神は素晴らしい!

 この指輪と革手袋がキーになるアイテムなんだな!」


 俺の腕をグイッと自分に寄せてマジマジと見ているんだが…。

 当たってるんだが、何が?って、ナニが。

 柔らかくて弾力もあって、かなり大きいって情報が腕から入ってくる。


「あ、あの、氷妃さん…」

「氷妃なんて水くさい、私は親しい者には『のん』って呼ばれているんだ、そう呼んでくれ。

 君に方がずっと歳上なんだし、『のぞみ』と呼び捨てでも構わないぞ」


「いや、流石にそれはぁ」


「本人が構わないと言っているんだから、何も問題ない。

 ほれ、言って見るんだ、ほれ」


 グイグイくるな、てか近い、てかデカい!


「…のん、さん」

「さん、ではなくて呼び捨てか、もしくはちゃん、で呼んでくれ」


「のん、ちゃん」

「うん、後で連絡先を…」


「んっんん!鉄也さん、他の方が待ってますよ」

 え、痛い!視線と声と、そして何よりつねられてる脇腹が痛い。


 これ、俺が悪いの?


「だそうですので、氷…」

 視線が怖い!

 あと、これみよがしに、しなだれかかるの止めて!


「のん、ちゃん…」

「そうだの、まだ制圧途中だしな、後でゆっくり語ろうな」


「…」

「語ろうな?」


「…」

「語ろうな!」


「…はい、いってぇ!」

 つねるのヨクナイ。


 合同で下の階へと向かうことになった。


 ー氷妃sideー

「お嬢、新人のオッサン揶揄うのはやめてあげてくだせえよ」

「そうですよ、可哀想ですよ」

 氷妃のパーティ、『氷の牙城』のタンクとヒーラーにそう嗜められる。


「揶揄ってなんぞおらんぞ」

「あの若い子てオッサンの彼女ですよね、仲悪くなったらどうするんですか?」


「大いに結構!私にもチャンスがまわって来るという事だしな!」

 そう言ってにこやかに笑う。


「お嬢!本気ですかい?あんなだらし無い体型のオッサンですぜ!」

「お前は彼のステータスやスキル知らないのか?」


「いちいちそんなの見ないですからねぇ」


「私もテレビ出演を依頼された時に参考資料として見ただけだが、耐久力以外は人並み以下、スキルも自身のHPが半分以下の時に僅か1点回復するだけのスキルだぞ。

 100人いれば100人絶望して心が折れるステータスだ」


「そんなスキルだったんですかい!よく探索者なんかやってるな」


「何言ってるのだ、彼は既にドラゴンスレイヤーの称号を獲得しているのだぞ!

 素晴らしいではないか!

 これほどの短期間にとてつもない成長を遂げている!」


「うむ、確かにヨトゥンとの戦闘でも、まともにダメージを入れたものは、かの御仁だけであった。

 おそらく彼の方がおられねば、私どもは勝てなかったであろうな」

 日頃無口な重戦士が珍しく会話に参加してきた。


「俺は後方に下がっていたが、耐性持たれてるお嬢はわかるが、韋駄天や烈火がダメージ与えてなかったのか?

 あっちのお嬢ちゃんも結構な攻撃してたみたいだが」


「残念ながらたいして削っておらんな。

 螺旋の影響がHPや防御の方に偏っていたようだ。

 まぁ、そうでなければお前もここに居なかっただろうしな」


「それもそうですな、攻撃に偏ってた一撃でお陀仏でもおかしくないか」


「某もタンクの真似事なぞかなわなかったでしょうな」


「私の魔法だって、氷属性ほどじゃ無いにしてもその辺の魔法使いに負ける様なものではないからの!

 初めて撤退を考えたわ」


「そうなんですかい!」

「でも、逃げたらついてきちゃうんじゃないですか?」


「そうだが命の方が大切だからの、お前らの命と引き換えなんて絶対あってはならない事だからな!

 それで地上に出て来たところで知らん!

 そうそう気安く命をかけられるか!」



 螺旋の影響が無くなったおかげで、その後は順調に進んで行った。


「これで、制圧だ!」

 マザーを破壊してこのダンジョンの氾濫も終了した。


「この後はどうなるんだ?」

「ダンジョンの制圧部隊とイレギュラーの捜索部隊に別れるだろうな」

 俺の質問に烈火が答えてくれた。


「ずっと疑問に思っているのだが、こんなに都合よく足止め出来るものか?」

 氷妃の言葉で俺もずっと引っかかっていたものを理解した。


「なんかこっちの事情分かってる奴が、選んで当てたみたいな違和感あったんだよな」

「え、でも俺が直前にダンジョンの交換行ってるっすから、そこで目論見失敗してるんじゃないっすか?」


「そうだよな、ダンジョン弄れる訳じゃないもんな」


「…物凄く乱暴な仮定だが、イレギュラーがダンジョン操作する能力あって、そいつが人間と結託してたら、可能ではある」

 韋駄天がもの凄い仮定をぶっ込んできた。


「流石にそれは…無い、よな?」

 俺の質問に誰も答えない。


 どうやら証拠も脈絡も無いが、全員の頭の中に1人の女性が頭に思い浮かばれているようだ。


「ババァ」

 笹かまがボソッとひと言もらした。


【後書き】

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