第89話 オッサン齢53歳にして救援に向かう。

「じゃあ、韋駄天のいるダンジョンからにするんだな」


「そっすね、韋駄天の方が緊急を要する可能性高いっす」


 そう、笹かまと会話しながら本部テントに向かった。


「おう、来たか!よろしく頼むわ」

 篠塚が片手をあげて笑顔で依頼してきた。


 そしてその横に、体格の良い探索者がいる。


「紹介しておくな、そちらと合同で救援に向かう烈火だ」


「烈火です、よろしくお願いします」

 そう言って頭を下げる。


「あぁ、よろしく頼みます」

 軽く会釈して周囲を見回す。


「ババァなら歯の治療で帰ったっすよ」


「ああ、そうなんだ」

 俺があからさまにほっとした様子を見て、烈火が苦笑いする。


「じゃあ、2時間後突入開始だ」

 篠塚さんの言葉に全員頷き各自のテントに戻る。


「あのー、すいません」

 村重さんが声をかけてきた。


「ん、どうした?」


「美髯菜さんが、アスパラ隊の補充をしたいって言ってるんですよね」

 上風蓮のダンジョン制圧時の度重なる戦闘で、アスパラ隊は14本まで減っていた。

 本?体?どっちで数えれば良いんだ?本でいいか。


「補充するのは良いけどどうやって補充するんだ?上風蓮のダンジョンに潜るのか?」


「それだとアスパラ隊が戻ってこれなくなるみたいです」


「えーっと詳しく説明してもらって良いか?」


 村重さんが聞いた内容では、テイムモンスターはテイムされる事でダンジョンの理から外れてセーフティゾーンの行き来もダンジョンの外や他のダンジョンに侵入する事も可能になる。


 だが、アスパラ隊は美髯菜の能力でテイムしているのと変わらない状態に見えるだけで、実際はテイムをしていないので、もう1度上風蓮のダンジョンに入ってしまうと、正常化しているのでダンジョンの理に囚われて出て来れなくなる。


 と、言う事だった。


「じゃあどうやって補充するんだ?」


「農家さんが放置した畑あるじゃないですか、あそこに埋まって魔石を肥料としてまいてくれれば自力で育って増えるそうです」


「…魔物って栽培できるんだ」


「みたいです」


「とりあえず畑借りれるか聞いてみようか」


「はい、お願いします」


 結論から言えば借りることは簡単だった。


 畑の持ち主に連絡して借地代を払うだけだ。

 どうせ使えないからと、持ち主も快く貸してくれた。


 問題はこれだけ探索者が集まっていれば、素行の悪いやつも一定数存在する事だ。


「経験値と魔石目当てで荒らすやついるかもな」

「見張り居ないとヤバいっすね」


「あのー今回私残っちゃだめですか?見張りをしたいんですけど」

 村重さんからの提案だ。


「いや、構わないけど、大丈夫か?」


「プス子とドキ子もいますし、モグラ軍団も居ますから」


「それなら良いけど」


「後、出来れば何ですけど、魔石と一緒に精霊石も埋めると特殊個体に進化出来るかもって」

 なに、その育成ゲームみたいなノリ。


 面白そう!


「よし!精霊石埋めよう!」

 そう言って、千紗に76階リヴァイアサン、77階イフリート、78階ベヒモス、79階シルフィード。

 各属性の精霊石を取り出した。

 上位精霊だし、どう変化するのか楽しみだ。


 アスパラ隊も一緒にダンジョンを制圧した歴戦の勇者?勇菜?達だ、きっと立派に育ってくれるはずだ。


 全員の了承を得て、上風蓮で確保した魔石もありったけ畑に埋める。


 畑の準備しているうちに2時間はあっという間に過ぎてしまった。


 ダンジョン突入だ。


 今回のメンバーは俺、千紗、魅夢、笹かま、唐辛子、佐々木、高橋、烈火

 になった。


 撮影クルーの面々は全員辞退、心身共に疲労が激しいのでドクターストップがかかったらしい。


 意外に本人達は行きたがっていたと言うんだから、驚きだ。


「この映像は絶対数字取れる!」

 って、叫んでたそうだ。


 視聴率のためには命もかけれるんだから、あの人達はあの人達で徹底してるな。

 だからと言って、迷惑かけられた身からすれば、仲良くしたいかと言われればノーだけど。


 今回も自衛隊と探索者部隊の混合で道を作ってもらう。


 俺たちが制圧してる分、戦力をこちらに回せるので、前よりルート確保は安定出来るらしい。


 韋駄天が倒してるおかげで入り口のモンスターもいない。


 ダンジョン内は成長した俺たちにとってはかなりイージーモードな内容だった。

 必然的にお喋りが多くなる。


「へー普段は旭川のダンジョンに潜って居るんですか」


「ええ、あそこのダンジョンは140階までは既に踏破しました」


「お一人で潜っておられるんですか?」


「いえ、5人パーティですね」


「今回は他の方は?」


「現在納品クエストの途中でして、そちらも外せないので、やってもらってます」


 こんな話をしながらどんどん階層を更新していく。

 道中の敵はほとんど烈火が倒していた。


「雑魚敵の掃討はいつも私の担当ですから」

 と言って倒すのだが、なかなか凄まじい。


 パーソナルスキルの火閃を使うのだが、このスキル指でここからここまでと指定すると、そこが爆発する。


 自身を起点に指定した2箇所を結んだ三角形の範囲にダメージを与えるとんでもスキルだ。

 範囲が狭いと威力も上がるそうだ。


 それでいて、肉弾戦の方が得意というのだから、絶対喧嘩したくない相手だった。


 ノーマルなダンジョンなので脅威となるようなモンスターも出て来ず、僅か2日で80階まで降りてきた。


「いやーお強いですね」

 と、烈火に言われたが、そのままその言葉をお返ししたい。


 ここまでに韋駄天は居なかった。


 86階まで降りた。


 韋駄天は見つからない。


 91階。

 ダンジョンの空気が変わる。


「堕天使ですね、奴らが出るフロアは独特の雰囲気があるんですよ」

 烈火が断定的にそう言った。


 ここからが本番らしい。


【後書き】

 お読み頂き、ありがとうございます。

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 よろしくお願いします。

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