第88話 オッサン齢53歳にして制圧者になる。
「よくやってくれた!これで君たちも制圧者だな!」
篠塚さんがそう言って俺たちをねぎらってくれた。
この人も協会のトップ3なはずなのに、フットワーク軽いよな。
現場の探索者たちにも、自衛隊の人たちにも信頼されてる稀有な人だ。
「じゃあ、ちょっと報告してくるっす」
篠塚さんと笹かまが対策本部のテントに消えていった。
「俺たちは休憩するかぁ」
そう言って各自あてがわれている探索者用テントに向かった。
俺たちは千紗と家族用テントを割り振ってもらった。
夫婦で探索者というのも少なくないし、探索者の恋人が探索者というのもよくあるので、こういった家族用テントも多数ある。
「剣崎さんちょっといいっすか?」
テントの外から笹かまの声が聞こえた。
「おう、どうした?」
「韋駄天と氷妃が両方戻ってないそうっす」
「単純に少し時間かかってるんじゃないか?
ウチらより階層数多いんだろ?」
「いやぁ、階層数多いつってもノーマルっすよ、特に韋駄天はその名の通り速いんすよ、パーティメンバーも韋駄天に付いていける奴でしか構成されてないっす。
通常のFランクで梃子摺るはず無いんすよ」
「考えられるのは?」
「Fランクダンジョンの一部レア化っすね、元々上風蓮みたいにダンジョン全部がレア化する方が珍しいっすからね、氾濫中はレア化しやすいって話もあるっす」
「それで、攻略出来ないなんて事あるのか?」
「どちらのパーティにも天敵がいるっす、それと遭遇していたらかなりヤバいっす」
「天敵?そんなのいるのか?」
「韋駄天がルシファー、氷妃がフェンリルっすね」
「どんな特性なんだ?」
「ルシファーは単純に物理、魔法の防御力が高くて、必中と完全回避のアクティブスキル持ちっす。
後、天使と堕天使の系統は全員自己回復持ちっす。
発動する前に削り切らないと延々と戦う羽目になるっす。
韋駄天パーティはスピード特化なんで、打点低めの手数勝負と防御より回避重視なんで相性最悪っす」
「俺とは相性良さそうだけどな」
「そっすね、当たってしまえば剣崎さんなら削り切れるんじゃないっすかね?
そんで、フェンリルの方は氷、水無効とそれ以外の魔法にも耐性が高いのと、回避と物理攻撃がクソ強いっす。。
氷妃の所は自分がメインアタッカーでサブアタッカーが重戦士系っすけど、フェンリル相手に出来るほどじゃ無いんすよ」
「どっちを先に応援に行けばいい?」
「え、まだ依頼来てないっすよ」
「でも、そのつもりで俺にこの話したんだろ?」
「そっすね、救出要員として烈火呼ぶって話しになってるんすけど、烈風とめちゃくちゃ仲悪いんす」
「そんな事言ってられない状態だろう?」
「ババァ絡んでくるんすよ」
「恵庭の?」
「烈火と烈風は双子なんすけど、親が大病してそん時の治療費をババァから借りたんす」
「上位ランカーなら返済してるんじゃないのか?」
「どうもお金とは関係なく逆らえない約束したみたいっす。
烈火ってめちゃくちゃ真面目だから、それを反故する事出来なくてババァの言いなりなんすけど、この金借りたのも、逆らえない約束も烈火が勝手にしたもんなんすよ。
烈風に相談なしに」
「あーそれは、烈風にしてみれば面白くないよなぁ」
「元々めちゃくちゃ仲良い兄妹だったんで、余計なんすよねぇ」
「あぁ、お互いの思いがすれ違ってる感じかぁ」
「そんな感じっす」
「で、その烈火が来ると何か問題あるのか?」
「ほぼほぼ、ババァがしゃしゃり出てくるっす。
なんなら現場に来てまで口出しするかもっす」
「うわぁ」
「その抑止力っつーか、バランサーで剣崎さん達も一緒に行けないかって話が出てるっす」
「それで笹かまが聞いてこいってなったんだな。
俺は構わないが、今回は全員の自由意思にしてやってくれないか?」
「どうせ行くってみんな言うんじゃないっすか?」
「そうかもしれないが、それでも嫌がるのを無理やりみたいのは、やっぱり性に合わないみたいでな、今回のでそう感じた」
「そこは了解っす。
じゃあ、とりあえずその辺含めて伝えておくっすね」
「あぁ、よろしく頼む」
ー翌日ー
「あぁ、汚い、臭い、何なのここは!
まともな人間が居る場所じゃないわね!」
ババァが来た。
最初の第一声は労いでも応援でも無く、罵倒とか、あの女らしいといえばらしいが…。
周りの視線や表情に気づかないのだろうか?
その後ろに真っ赤なプレートアーマーで2m近い巨漢の若い男がいるが、アレが多分烈火だな。
めざとく笹かまを見つけてこちらに来た。
「現場復帰かしら?まぁ、あなたにはその方がお似合いね、所詮あなたは地面の下を這いずり回る探索者程度のお仕事しか出来ないのよ!」
ババァ、一瞬でこの場の全員を敵に回したな。
その探索者程度が今命かけてるから、この状況を保てている事実を知らないわけでも無いだろうに。
「しかも、ダンジョンの制圧も出来てないんですって?情けない!
たかがFランクでわざわざウチの烈火を使わせるのも勿体ないけど、特別に使うの許可してあげるわ!
ありがたく思いなさい!」
「剣崎さん、剣崎さん」
村重さんが小声で話しかけてくる。
「どうした?」
俺も小声で返す。
「私って土竜使役もってるじゃないですか」
「そうだな」
「他の子と違って土竜ならかなりの数使役出来るみたい何ですよ」
「それで」
「こういう事も出来るみたいなんですよ」
目の前では散々喚き散らして満足したババァが帰ろうとしていた。
その足が大地を踏みしめた瞬間、足首くらいまでボコッと地面が凹む。
「フギャッ!」
なんか豚が交通事故にあったみたいな声と一緒にババァが倒れた。
そして、事情が知らない人には気づかないくらい目立たない状態で、ちょうど歯のところに当たるよう石が地面から出て来た。
「ギャー!歯が!歯が折れたー!」
クリーンヒットだ。
俺は村重さんとこっそりハイタッチした。
【後書き】
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