第78話 オッサン齢53歳にして検証する。

 魅夢を見て分かる通り、ダンジョンの外に出たモンスターは弱体化する。

 しかし、探索者も弱体化するので相対的な強さは変わらない。

 では、俺の装備はどうなるかというと、ひとつひとつの効果が小さすぎるせいか、HPを代償とした引き換え効果のせいかは分からないが、全く影響なかった。


 なので、

「あぁ!クソ!フォレストウルフが倒しても倒しても中身呼んでくる!倒すスピードが間に合わねぇ」

「唐辛子!向こうのフォロー行ってくれ!ここは俺が始末する!」


「アニキ!すまねぇ!」

 と、こんな場面が続出する。


 これで経験値でも稼げればまだ救いがあるが、どんなモンスター相手でも入る経験値はダンジョン1階の半分だ。

 レベル1でさえ200匹倒さないとレベルが上がらない、5レベルにもなれば3200匹倒さないとレベルが上がらなくなるのだから、30レベルを超えたもの達にしてみれば何匹倒しても一切レベルが上がらない邪魔者でしか無い。


 魔石も50%増しと言われても、虫系よりはマシとはいえ、20階前後のモンスターじゃせいぜい150円だ毛皮はそこそこいい金額なのだが、どうしても厭戦気分は出てきてしまう。


 そして、そんな中での気分転換が、村重さんのスキル検証だ。

 本人も結構やる気になってくれていて、かなり協力的だ。


「トカゲ見つけてきたっすー、これの使役出来るか実験するっす」

「蜥蜴って竜の字つくか?」


「『石竜子』って書いてトカゲって読む書き方あるんすよ」

「おー博識だな」

「一時期、これってなんて読む?ってクイズにハマった事あるんすよ」

「よし!使役出来るか?」


「あ、出来そうです!…あ、出来ました!場所も何となくわかります」


「スキルの奴は使役しなくても何処にいるかまで分かる、そうじゃないのは使役するとそいつだけは分かる、で、良いのかな」


「はい、多分それであってると思います」


 一般的に言うところの現実逃避だ。

 正直、倒しても倒しても減らない現場は精神的にくる。

 少しでも減ればまだ気持ちを持ち堪えられるが、わずかに戦線が下がっているところがあり、それに合わせるために少しづつ戦線を下げないとならないのがきつい。


「あ、地獄の使者がやって来たっす」


「誰が地獄の使者だ!」

 篠塚理事長だった。

 元探索者らしく、現場にも顔を出すので探索者からの信頼が厚い。


「どうせ、碌な内容じゃないっすよ、楽な内容なら部下に任せるはずっす」


「まぁ、確かにな依頼書だ。

 俺がこれを直接持って来た意味を考えてくれれば、依頼なんだか命令なんだかって感じだろうが、一応建前は断れるぞ」

 そう言いながら渡してきた依頼書の内容は。


『ダンジョン制圧依頼だった』

 ざっくりと千紗と読んだ後に笹かまに渡す。


「モンスターが溢れてくるのを処理しきれないから、先に元栓締めてこいって事っすね」


 目の前にいるモンスターが減らないのは、倒した以上にダンジョンから溢れて来るからだ。

 なので、ダンジョンからモンスターが出ないようにしてしまえば氾濫は止まる。


 言うのは簡単だが、実際にはなかなか難しい。

 最も進化した特殊個体がダンジョンの入り口を守るからだ。


 そして、その入り口を突破した後は最下層まで降りて通称『マザー』と呼ばれる変異種を倒さないとならない。


 これが何かはいまだに分かって居ないが、こいつを倒せばセーフティーゾーンが復活しモンスターが各階層を移動したり、ダンジョンの外に出なくなる事だけは分かっている。


 そして、今回は標茶のダンジョン以外の7箇所を同時に攻撃して制圧させるのが目的だ。


 未発見だったため、標茶ダンジョンの内部データがないので、流石に危険過ぎると判断されて。

 まずは他のダンジョンを確実に制圧しモンスターの数を減らす作戦らしい。


「で?どうせ全部上手くいくとか思って無いっすよね?いくつ制圧出来れば良いと思ってるんすか?」


「韋駄天と氷妃は何とかなる、烈風はダンジョン攻略で実力者が減った穴を塞いでもらわなきゃならないから入れない、蛇姫が今回来てないんだわ寒いんだと北海道は。

 で、後ひとつ塞がれば情勢を変えられると思ってるんだわ」


「蛇姫は生態がほぼ爬虫類っすもんね、烈火はどうしたんすか?」


「烈風がいるのに来ると思うか?」


「まーだ兄弟喧嘩してるんすか?」


「まだと言うか、まただな」


「他のはどうなんすか?ウチが頑張らなくても何とかなりそうなんすか?」


「何とかなりそうなら、ここに俺が直接来るわけないだろ?」


「うっわ、やっぱ地獄の使者っすわ、どうするっすか?一応建前とはいえ断ることは出来るっすよ」

 俺に向かって聞いて来る。


「それって断れないって言ってるのと一緒だよな」


「まぁ、そうだな」

 篠塚さんが即答してきた。


「やるしか無いだろう」


「じゃあ、よろしくな、場所は西春別ダンジョン、ランクはFだ」


「ちょっと待つっす!別海地区はFランク2、Gランク4、Hランク1のはずっす!ウチがFランクはおかしいっす」


「いや、上風蓮が氾濫前にレア化したって報告があってだな、Fランクより難易度高くなってるぞ」

 その言葉を聞いて、笹かまは自分の端末で何か情報を調べた。


「いや、ウチの構成的に上風蓮の方が相性良いっす、そっちでお願いするっす」


「そうか、分かった、じゃあ上風蓮ダンジョン頼むぞ」


 こうして強引なダンジョンアタックが始まることになった。


【後書き】

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