第75話 オッサン齢53歳にして掌返しを知る。
「これってセクハラだよねぇ、次は北海道氾濫問題です」
最初にこの話題を取り上げた昼のワイドショーだ。
「本日のゲストは現役探索者ランキング1位の氷妃こと飯田のぞみさんです」
アナウンサーがそう紹介する。
黒髪でストレートのロング、目力の強い女性が座っていた。
見た瞬間のイメージは長髪のクレオパトラという様相をしている。
「早速ですが、同業の探索者が逃げ帰ったのはどう思います?」
「彼らのクエストは氾濫兆候の調査だった、可能であれば氾濫の阻止もするが、地域住民が望まなかったと聞いている。
我々は正義の味方でもなければ、まして市民の下僕でもない。
勘違いしないでもらおうか?」
「何言ってるんだ!そのせいで地域住民が困っているんだ!その事に申し訳ないと思わないのか!」
「以前、紛争地帯に旅行に行った日本人が地元住民に殺された時、お前は『自己責任です』って言ったな。
ダンジョンはどこでも氾濫の可能性がある、その近くに住んでいるのは自己責任ではないのか?」
「それとこれとは違うだろう!」
「何が違う?ダンジョンが出来た時、今の生活を全て捨ててもっと探索者の多い地域や氾濫の影響の少ない地域に住むという選択肢もあった。
単純に今までと同じ生活がしたいという理由でそこに残ったのは自己責任ではないのか?」
「故郷の思い出や家業への想いがあるのに、そんな事言うのか!お前には農家の人の気持ちを考える心は無いのか!」
「だから、自己責任と言っているだろ、その思いを持ってそこに住むのは勝手だが、縁もゆかりも無い私たちがそれを助けなければならない理由にはならない。
そこまで言うなら、貴方が探索者になって助けに行けば良いではないか。
自分は命のかからない安全地帯にいて、我々に命をかけろと言うのは理不尽ではないのか?」
「生命を失ったり、少数でも生活を失う人の為の事を考えないのか!」
「だから、それは自己責任だと何度も言ってる、そもそもそこに住むと決めたのはその人たちだ、ダンジョンと言う危険なものがそばにある事を知らない訳ではないだろう?
それとも何か?我々が生命を失ったり、これで怪我をして生活を失うのは構わないのか?
そういうリスクを抱えた上で我々は自分たちの出来る範囲で行動している。
その程度も理解できないほど、お前は低能なのか?」
「高い金貰ってるんだから命ぐらいかけろよ!」
「ほほう、高い金貰えるなら命かけれるんだな?」
「そ、そういうもんだろう!」
「では、お前も高い金貰ったら命かけれるんだな?」
「そりゃ、10億や20億貰えるなら命のひとつやふたつかけるだろう」
「よし分かった、50億やる、私を殴ってみろ、私はお前を殺さないでいてやるから命もかけないで良い」
「へ?」
50代の元ヤンチャ系アイドルだってコメンテーターが間の抜けた声を出す。
「早く私を殴れ、それだけで50億払ってやる、その代わりどんな怪我しようが、文句言うなよ」
そういうと氷妃の身体から冷気と殺気が漏れ出す。
「お前の両手両足は砕く、目も抉り取る、その不快な事ばかり言う喉は潰す、鼓膜も破る、安心しろ決して死なない様にやってやる、命はかけないで50億貰えるんだ問題ないだろう?」
さらに冷気と殺気の濃さが増す。
「私はな、自分で出来もしない事を強要する奴がな、心の底から嫌いなんだ」
もう一段冷気と殺気が上がった。
「違うんだ!俺はこの番組のプロデューサーに言えって言われただけなんだ!どうせこんな番組、他人の不幸を喜ぶゲスか幼稚な正義感振りかざす低能しか見ないから、そこ刺激してやれば、いんだから、それっぽい事言ってくれって!」
番組が騒然となった。
「すいません!コマーシャルです!コマーシャルです!」
慌ててCMに入るワイドショー、CM明けにはコメンテーターと探索者の姿は無く、お天気情報流れた。
「はーい受付女子ともちゃみです!今日は面白い画像あるからそ見てねーあ!ついでに拡散してねー」
そう言って流した動画はこの間の話し合いの風景だ。
相手にはちゃんと顔にモザイクがかかってる。
『補助金入らなかったどうするんだよ!お前らが責任とってくれるのか!氾濫は起きないとこっちはやってらんねぇんだよ!よけいなことするな!』
『俺らはこの町の代表だぞ!農協でだって理事やってんだ!ごちゃごちゃ言わないでこっちのいう事きけ!みーんな俺らと同じ意見なんだ!会合で決まってこうやって来てるんだぞ!』
バッチリ氾濫させろって言ってる部分と、これが町の総意だという部分が映っていた。
早速リスナーが一斉に拡散を始めた。
ーYahhooニュースー
協会側より各雑誌に掲載料の請求、各番組に出演料の請求を行う民事裁判を行う事が発表された。
争点はイニシャル表記されていても、個人が特定できた場合、個人の氏名を掲載したものとして扱えるか?
担当弁護士は「マスコミに逃げ道を作らせてはいけない、政治家を批判し、正義を標榜するマスコミこそ、リテラシーの遵守が必要と表明」
ー突撃チューバーひかりが氾濫騒動の捏造謝罪動画ー
バズりたいだけの為に多くの関係者にご迷惑をおかけしました。
編集で全く違う印象操作をしました。
ノーカット、ノー編集で実際のインタビューを流します。
「なんか、急に流れ変わったけど何したんだ?」
「あー色々っす」
笹かまがヘラヘラ笑う。
「テレビの出演料っすけど、氷妃があれ一回で400万だったんで、同額請求するらしいっすよ、1番多い局で6番組で45回使われてたんで、1億8000万請求するらしいっす。
どういう態度取るか楽しみっす」
「流石にまともに払わないんじゃないか?」
「払わなかったら、奥の手使う様な事言ってたんで、払うんじゃないっすかね」
そう言った笹かまの表情はいつものヘラヘラ笑いなのにちょっと寂しげに見えた。
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新作書いてみました。
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