第74話 オッサン齢53歳にして身バレする。
「これってパワハラだよねぇ、続いては北海道氾濫問題です」
きっかけはお昼のワイドショーで新春の記事が取り上げられた事だった。
あっという間に切り抜きされてネットに流されて、まるで真実かの様に話が広がっていく。
しかも姑息なのは、現地住民の声で出てくるのは3つ目、4つ目で被害にあった人にインタビューしてそれを流す。
当然、そこの住民は突然の氾濫で取るものも取らずに避難している。
酪農家は牛が全て死んでしまったと泣く。
「そこは俺のせいじゃないだろう!」
「鹿の件も協会には報告したっすけど、見かけたかもしれないって曖昧な情報なせいで参考程度にしかならないって言われたっす」
「氾濫前に報告するべきだったか…」
「意味ないっすよ、警察が事件起きるまで動かないのと一緒っす、協会もあの程度の報告じゃ動かないっす」
「テレビで頻繁に見る、現地探索者Nってこれ中田さんですよね?」
千紗が動画を見せてくれる。
もう、言いたい放題である。
曰く、俺が全部準備したのをぶち壊した。
曰く、俺たちが下までいって倒して手に入れたものを勝手に持って帰った。
曰く、大した仕事もしないでダラダラしてた。
俺たちが大した仕事してないなら、お前らで氾濫止めればいいだろ思うが、どうにも出来ない。
数日経った。
相変わらず、テレビでは俺たちのことをやってる。
最近は他のテレビ局や別の時間帯のワイドショーでもコレを扱っている。
協会からの公式見解として、元々氾濫に関しては自衛隊管轄で、氾濫阻止に対して協会は探索者に対して強制力はない。
という発表を行ったが、これにコメンテーターが噛み付く。
「こういう時に自身の利益しか考えられない探索者に存在価値があるんですかね?」
「氾濫兆候中にしかるべき処置をしておけばこんな事にならなかった、協会側の怠慢です!」
こんな意見がテレビで連日流れる。
突撃系チューバーがやってきた。
こちらが、何をしたかを説明して、連鎖で氾濫は過去に起きたことがない事、イレギュラー個体に関しては情報が曖昧すぎてかえって混乱するので、余計な事は言えない。
「じゃあ、そのイレギュラー個体は氾濫前から確認出来てたんです?」
「そこが曖昧だから、はっきりとは言えないんだ」
「でも、違和感はあったんですよね?」
「それはあったが、確証のない事で混乱させる事が余計に状況悪化させる事もあり得るんだ」
「ありがとうございました。色々お話し聞かせていただいて勉強になりました」
「こちらこそ、あの記事が悪意を持って書かれてる事を聞いていただいて嬉しかったよ」
数日後
ー突撃チューバーひかりが氾濫騒動の真実に迫る!ー
噂の探索者は、イレギュラー個体を最初から発見していた!
分かっていたのに、放置する!これが探索者の常識!
見事な編集で、こちらの発言を上手に組み合わせ、タイトル通りの内容を発言している動画になっていた。
「やられた!最初からこれを狙っていたのか!」
「剣崎さん脇甘すぎっす、1人でインタビュー受けるのやめた方が良いっす。
今、反撃の準備しているんで、ここからはノーコメントでお願いするっす」
「すまなかった、物凄く紳士的な態度だったのに騙された」
「私ももう少し気をつけているべきでしたすいません」
「あー、大丈夫っすよ、これのおかげで協会がマスコミ対応を真剣に考えてくれる様になったんで、いいきっかけっす。
こっちは命かけてるんす、自分の命じゃないと思って好き放題言ってるやつらにお灸すえるっす。
特に最初に記事書いたやつには俺も個人的にお話しするっす」
「裁判起こすのか?」
笹かまがフルフルと首を横に振る。
「関係各局に出演料請求するっす」
笹かまが得意のヘラヘラ笑いでそんな事を言い出した。
「とりあえず、通ったら儲けもんって事で、1ページ1億のギャラ請求するっす、勝手に掲載しておいて金を1円も払わないとか、舐めてるっす。
テレビ局にも1秒10万で請求するっす。
それと、そのチューバーも軽くヤキ入れておくっす」
「そんなにお金取れるのか?」
「まぁ、無理っすけど、探索者は何しても大丈夫なんて思わせない為にめんどくせーって思わせる事になったっす。
とりあえず、今回記事書いたやつと編集長、テレビ局のプロデューサーと編成局長の住所と家族構成は調べつく所っす」
「なんか、凄いことになってきたな」
「そっちは裏っすけどね、それとは別に、これ流すっす」
そう言って見せてくれたのは、中春別で抗議された時の動画だった。
「あの時の会話撮ってあったのか!」
「もちろんっすよ、これ使ってもヘイトが向こうに行くだけで根本的解決にならないっすけから、どうするか迷ったんすけど、まぁ、あいつらなら良いかなって気分になったんで、流すっす。
ここからは俺のターンっすよ」
なんとなくだが、今後のために今回の騒動わざと大きくなるまで放っておいた?
俺の考えすぎかな…。
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