第73話 オッサン齢53歳にして氾濫を見守る

 遠征から帰ってきてからはいつも通りの日常を送っていた。

 変わった事といえば、3兄弟がついて来る様になった事と、受付女子がバズりすぎて、やめるにやめられなくて結局続ける事になった事くらい。

 韋駄天はパーティメンバーから帰って来いと言われて函館の拠点に帰って行った。


 そして2週間ほど経った時に、当たり前だが氾濫は起きた。

 ネットやテレビでも連日報道されるようになったが、初日にバカなテレビ局がヘリコプターで近づきすぎてモンスターに撃墜されて死者を出したせいかあんまり現場の映像が入ってこない。


「おさまりそうか?」

 氾濫が起きて2日経っていた。


「だいぶ沈静化してきたみたいっすね」


 ー翌日ー

「おはよう」

「あ、剣崎さん!別海の別のダンジョンが氾濫したみたいっす」

 朝から衝撃的なニュースが飛び込んできた。

「氾濫ってそう次々起こるものなのか?」


「そんな話聞いた事ないっすね、ネット上では最初の氾濫が原因だって言ってる奴いるっすけど」


「でもまぁ、対処は出来るんだろ?」


「多分大丈夫じゃないっすか?

 氾濫兆候から氾濫までがやたら早かったんで、家畜とかに被害は出てるみたいっすけど」


 ー翌日ー

「別海の隣の標茶町に未発見のダンジョンがあって、そこが氾濫したみたいっす」


「被害は大丈夫なのか?」


「避難勧告地域にギリ入ってたみたいで、死傷者は出てないっすけど…これはアラートの解除までだいぶ時間かかりそうっす」


「これって、他の別海のダンジョン大丈夫なのか?」


「今までこんな事例なかったんで、なんとも言えないっす」


 ー3日後ー

「原因が分かったみたいっす」

 笹かまがぞういって、画像を見せてくれた。


 デカい牡鹿みたいのがダンジョンに入って行く場面だった。


「これは?」

「協会が監視用ドローンを大量に飛ばしたんっすけど、それに映ってた映像っす。

 昨日ここのダンジョンで氾濫したっす。

 協会はこのモンスターが原因と考えているっす」


「…これで氾濫4つ目か、こいつなんとかしないとどんどん氾濫させらられるんじゃないか?」

「そっすね、協会も上位ランカーに片っ端から討伐依頼かけてるみたいっすけど、反応悪いっすね」


「なんでそんなに反応悪いんだ?」


「1つは広さっす、別海だけで愛媛と同じ広さっすよ、それに周辺地域てなったら、軽く四国の半分くらいになるっす。

 100人や200人でどうにか出来る広さじゃないっす。

 2つ目は数っす、単体攻撃能力が高いタイプの探索者は氾濫は敬遠する傾向強いっす。

 3つ目は強さっす、ぱっと見区別つかないけど、強化されてるモンスターとか混ざってると互角レベルの強さの探索者じゃ生きて帰って来れないっす。

 4つ目は報酬っす、人数居ないと鎮圧出来ないので1人頭の報酬低めで、集団で戦うから個人の戦果で報酬アップされるづらいっす。

 そして、これが1番の理由っすけど、今まで見たことも無い、どんな能力か分からない、なのに間違いなく強いモンスターと戦うなんて死ねって言ってる様なもんなんで、誰も戦いたく無いっすよ」


「強いのは確定なのか?」


「ダンジョン入って氾濫起こしてるって事は、そのダンジョンの1番下までは行ってそこのモンスターに勝ってるはずっすからね」


 ー2日後ー

「なんか情報が錯綜して、あのイレギュラーの個体、最初に中春別のダンジョンに居たってネットで拡散されてるっす」


「いやいや、居なかったぞ?」


「俺たちは、当事者なんで居なかったの知ってるっすけど、事情知らない奴が見ると最初に氾濫したダンジョンからアレが出てきて順番に氾濫起こしてるって言われると納得するっす」


「むしろ未発見のダンジョンで何かあったんじゃ無いのか?」


「俺らは普通にそう考えるんすけど、ネットじゃアレに遭遇して俺たちが逃げたみたいな話になってるっす」


「なんだそりゃ、言いがかりも甚だしいじゃないか」


「そうなんすけどねぇ」


 ー週間 新春ー

『スクープ!北海道ダンジョン氾濫には元凶がいた!悪徳探索者!30歳下の女探索者と爛れた関係!』

『地元探索者N氏の証言!あいつらは地元住民の懇願を無視して逃げ帰った!』

『53歳探索者Kの反社会的な実態に迫る!』


「な、な、なんだこりゃ!」

 申し訳程度に目線をしてあるが、装備や格好で俺だって1発でバレル。


 元炭鉱で栄えた過疎の山奥、あの悲しい恋愛ドラマのロケ地にもなったとか、日本アカデミー賞 最優秀作品賞のロケ地になったとか、どうでしょうで有名なあの人が監督した作品のロケ地にもなったって、ここまで書いたらどこの町かバレルだろう!


 まったくもう!適当な事を書きやがって!

 怒り心頭な俺だったが、この時はまだ週刊誌の影響を甘く見ていた。

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