第71話 オッサン齢53歳にして配信に興味持つ

「あ、おはようっす」

 翌日、受付に行くと笹かまが居た。

「おはよう…え!…どういう事?」


「アルバイト雇えたんで、向こうはその子に任してちょっと出向してきたっす」


「アルバイト雇えたって、そんな新人1人置いて大丈夫なのか?」


「あぁ、そのことならこれ見るっす」

 そこには特に何もするでもなくスマホをいじってる若い女性が写ってた。

 アカウント名は“受付女子ともちゃみ” となっていた。


 ちょっとギャルっぽい子だ。


「何これ?」


「TikTakのLIVE配信っす」


「それは何となく分かってたけど、その配信が今の話と繋がるの?」


「この子がアルバイトっす、仕事風景LIVE配信させてるので、サボってるとかも丸わかりだし、何かあったらリアルタイムで指示出来るっす」


 そう言うと、画面に向かって何やらメッセージを打ち込み出した。


 笹かま:『おはようっす、誰もいない時は自由にしてても良いけど、時間まではいて欲しいっす』

「あ、笹かまさんおはようでーす!了解でーす」

 何やらブイサインを送ってきてる。


「…お前天才か」


「もっと褒めて良いっすよ」


「しかし、これ見て若い女の子だけって分かったら変な奴来ないか?」


「あー、その可能性もあるか、ちょっと知り合いに頼んで護衛送ってもらうっす」


「俺も挨拶したいから、ちょっとそれに打ち込んで良いか?」


「ダメっすよ自分のスマホにアプリ入れて、打ち込めっす」


「あぁ、そうか」

 早速、千紗に教えて貰いながらアプリをダウンロードして登録する。


「アカウント名どうするかな」

「本名で良いんじゃない?」


「いやー俺ら世代はネットはハンドルネームって言って、絶対本名明かすなって言われてた世代なんだ、だから本名で登録するの凄く抵抗があって」


「じゃあ、剣崎の剣をローマ字にしてKENで良いんじゃない?」


「うん、そうする」


 KEN:『そこを拠点にしている探索者だ、俺のわがままで遠征してしまったせいで迷惑かける。すまない』

「あ、お初でーす!ぶっちゃけ時給めっちゃ高いんでぇ、帰って来なくて良いです!いっぱい稼がせてください!」


 その後も今回このダンジョンに来ているメンバーがみんな登録して会話しているようで、そこそこ盛り上がっていた。


 俺たちはそのままダンジョンに向かう。


 昨日と同じく階層を分散してモンスターを間引いて歩く。

 まだレベルアップした個体はいない様で、そこまで大変じゃない。


 受付で昨日の分も合わせて買取りをしてもらう。


「なんかLIVE配信がやたら盛り上がってるっす」

 買取りの雑談の流れで、今日のLIVE配信の話になった。


「なんで?何もしないで受付座ってるだけだろう?」


「新人の若い女の子にベテラン振りたい探索者が色々話しかけるんすけど、あの子対応めっちゃ上手いっす。

 しまいにゃ投げ銭要求してちゃっかり投げ銭ゲットしてるっす」


「その投げ銭はどこのものになるんだ?一応業務としてLIVE配信してるんだろ?」


「あー、投げ銭貰ったらみんなあげるって言っちゃったんで、彼女のものっすね。

 俺もまさか投げ銭する奴が出るとは思わなかったっす」


 ー翌日ー


「おはよう」

「剣崎さん、俺やらかしたかもしれないっす」


「どうした?」

「知り合いにこの子の護衛つけてもらう様に頼んだんだんすよ」


「うん、言ってたな」

「韋駄天が来ちゃったんすよ」


「韋駄天?」

「日本のランキング4位、北海道東北地区1位のトップランカーっす、逢真さんに教えた槍のコンボは、この人考えた奴っす」


「凄い人じゃないか!」


「しかも、なんか質問コーナーみたいになって、LIVEがお祭り騒ぎっす」


「リア凸する奴が出るのも時間の問題っす。

 あと、投げ銭がえらい事になってるっす」


「ま、まぁ、今更何言っても仕方がない、そんなすごい人いるならトラブルも起きないだろし」

「だと良いんすけど、韋駄天って良くも悪くも生粋の探索者なんすよ」


 ー翌日ー

 ダンジョン掃討が終わって受付に戻ると、笹かまが頭抱えてた。


「どうした?」

「バカがリア凸して韋駄天に喧嘩売ったっす。

 楽しそうにその喧嘩買ってダンジョンに消えて行ったっす」


「ん?それがどうした?ちょっとお灸すえて終わりだろ?」


「…韋駄天は生粋の探索者っす、探索者にとってダンジョンに居るものは、味方か、殺す相手か、殺される相手かだけっす」


「や…ヤバくないか?」


「ヤバいんすけど、この子にいくら説明してもヤバい事理解してくれないっす」


「あ!戻ってきたっす!」


 ー配信画面内ー

「いやー手応え無かった、もう少し頑張れるかと思ったんだけどね」


「へーやっぱりおじさんって強いんだね!」


「まぁね!戦ってる時間よりスライムのいる所まで運んで捨ててくる時間の方が長かったくらいだよ」


「えーそんな事したら、スライムに食べられちゃわない?」


「そうだね、敢えて苦痛を与えるために手足折っただけだから、今頃生きながらたべられてる頃だね」


「えー!ダメだよ!連れて帰って来て!」


「お嬢ちゃん、探索者に喧嘩売るって事はこういう事なんだよ、ダンジョンから戻って来れるのは生き残った方だけなんだよ」


「そういうのは、良くわからないけど、ちゃんと連れて帰って来て!」


「いや、だからね…」


「つーれーてー来て!じゃないと、オジサンの事嫌いになる!」


「え、うーん、そんな甘い所全国に配信されたら、絡まれる人増えちゃうしなぁ」


「じゃあ、次から好きにして良いから、今回だけは助けてあげて!

 これ見てるみんなも喧嘩とか売っちゃダメだよ!

 ほら!オジサン!早く助けに行って!」


「うーん、今回だけだよ!」

 そう言うと韋駄天はダンジョンに消えていった。


 ー中春別受付ー

「「セーフ!」」


「ギリギリ公開殺人されなかったな」

「後は上に話して、不用意な喧嘩を抑止するための演出だって噂流してもらうっす」


「とりあえず韋駄天ってヤベェ人だって事は認識したよ」

「韋駄天と普通に話してるこの子も充分ヤベェっすよ」


「確かに」

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