第67話 笹かま齢27歳にして協会職員を続ける 2

「色々あったなぁ」

 PCから篠塚さんの声が聞こえる。

 今は協会幹部の1人として運営側に回っている。


「そっすねぇ、俺もまさかババァのお守りしろ言われると思わなかったっすねぇ」

 笹かまはこの業界から引退するつもりだったが、篠塚がそれを認めなかった。

 篠塚の圧に負けて、一協会員として現場で働くことに了承した。


 その配属先が恵庭支部だった。


「あの女をしっかりコントロールしろって言ったのに全然しなかったよな」


「無理っすよ、坂間のオッサンの唯一の欠点は身内に甘いって事っすね。

 最悪なことに飯田さんも新飯田になってから、坂間さんと考えること同じだからババァに甘いし、そっちでキッチリクビにするか、ダンジョンで行方不明になるかしてくれれば良かったんす」


「甘いというか、逆らえないって感じだからな、北海道の地方都市に追いやるのが、限界だった」


「恵庭で氾濫起こって、巻き込まれないっすかね」


「伝達者の話では今のペースなら、かなりの頻度で起こるらしいからな、少しでも強化したいところだな」


「パーソナルクラスの2億って縛り無くしてバンバン取らせれば良いんすよ」


「バンバン取らせた結果、協会が出来て国はダンジョンへ直接干渉出来なくなった。

 だから、色々煩いんだよ。

 それにな、組織もこれだけデカくなれば、色々思惑や利権も絡んでくる。

 難しいだろうな」


「あと、パーソナルクラス取った奴ら育てなさすぎっす。

 借金奴隷作った方が何かと便利だからって、返済不能者に追い込みすぎっすよ」


「そうならない様に通知してるんだけどなぁ、実際性格的にも色々問題多いのも少なく無いしな」


「そういうのは、ダンジョンでお亡くなりになってもらえば良いんじゃ無いっすか?」


「お前やってくれるか?」


「嫌っすよ、多分剣崎さん、そういう事したら仲間に入れてくれなくなるっす」


「ん?現役復帰するのか?イップスだとか言って探索者辞めたのに」


「なんか、剣崎さん達とはやっていけそうっす。

 俺、オッサンと相性いいんすかね?」


「坂間さんと上手くやってたもんな」


「篠塚さんも充分オッサンすよ」


「ま、まぁな、たまに坂間さんに連絡したらどうだ?」


「うーん、坂間さんのパーソナルクラスがちょっと怖いんすよね、アレの代償って人間性の喪失じゃ無いっすか?

 あの時も『にゃらるほてっぷ』だったすか?

 あれ使った後から、なんか変わったし、変わってく坂間のオッサン見るのはちょっと耐えられないっすね」


「そうだな…どうにも歯止めが効かなくなった時はお前が止めてやれ」


「んーそっすねぇ、損な役回りっすね」


「その前に最下層到達者出して、伝達者になる奴ら集めないとな」


「うちらの世界は50人でしたっけ?各国に来たの」


「そうだな、全く信じて貰えなかったり、中にはその場で射殺されたのも居るから、そのうち30くらいか、ダンジョンに対して有効な手段とれた国は」


「最低限、ダンジョンの素材が混ざってない武器や防具は一切ダンジョンのモンスターに効かないってのと、始まりの10のダンジョンは必ず氾濫するって情報が無ければ、崩壊レベルでボロボロっすからね」


「まぁな、その情報知っていても、氾濫を鎮圧出来るだけの装備と人員用意できなければアウトだしな」


「うちらも煽られたものなぁ」

 探索者じゃなくても銃の弾丸にダンジョン素材に混ぜればダンジョンのモンスターは倒せる。

 ただ、理由は解明されていなが素材の質と量のハードルがやたら高い。

 少なくても60階層以下やドラゴンなどの強い個体の素材じゃなければ意味がないし、純度99%くらいじゃないとならないので、大きさの割に必要量が多い。


 当初の自衛隊員に装備させて防衛するという作戦には莫大な量の素材が必要だった。


「で、いつ探索者に復帰するつもりなんだ?」


「俺のレベルに追いついたらって話してるっす」


「日本人最高レベル保持者の1人、レベル142のお前と同じレベルっていつの話になるんだ?」


「剣崎さん達なら1年くらいでなれるんじゃないっすか?俺らだってあの環境で5年くらいじゃないっすか、なるまでに」


「常に死と隣り合わせの環境だぞ?

 実際レベル142まで行けてるのは俺たち3人だけだし、当時潜ってた奴らの6割は死んでる。

 3割は何かしらの精神的ダメージを負って現場復帰出来てない。

 協会が発足してから、未だに100階層超えた者も数えるほどしか居ないのに?」


「そっかーそうっすね、じゃあ剣崎さんが100レベル超えたら考えるっす」


「その方が、無難だな。

 あぁそうだ、遅ればせながらパーソナルクラスのヤツら鍛えてくれてありがとな。

 これで北海道地区の状況も少しは改善すると思うよ」


「協会職員をもう少しマシなのに変えれば良いのに、クソなの多すぎっすよ」


「人手不足なんだよ、北海道は広すぎて人口密度が都市部以外は異常に低いからな。

 実際お前のところだって実質剣崎パーティ以外いないだろ?

 それでもダンジョンに協会職員居ないってわけにはいかないしな」


「あれ?無人ダンジョンあるんじゃなかったっすか?」


「公式には無い」


「あ、そうなんすね」


「じゃあな、何か困った事あれば連絡してこいよ、俺が出来る事ならやってやるから」


「あざっす!そういう時は頼るっす!

 腐っても鯛ってやつっすね」


「うるせー、影響力少なくても一応幹部なんだぞ!」


「そういうのを腐っても鯛っていうんすよ、あってるじゃないすっか」


「いつか1回殴りに行くからな」


「普通にダメっすよ」

 画面が消える。


「剣崎さんならやってくれると思うんすよねぇ」

 そう独り言を言いながらいつもの業務に戻る。

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