第68話 オッサン齢53歳にして災難続きに遭う。

「じゃあ、おつかれー」

 今日の探索も無事終了して解散する。


 返済も終わらせたし、30レベルまで引き上げるという計画もひと段落した。

 唐辛子と佐々木と高橋はそのまま一緒に行動しているので、なし崩し的にパーティ登録する事になった。


 今は近くの施設から通っているが、本格的に引っ越しする予定らしい。


 林の中から、ガサガサっと音がする。

 熊か?

 それ対策も兼ねて、いつもお喋りしながら帰ってるしなぁ。

 人の声がしてる場所に野生の熊は基本的には近寄らない。

 とはいえ例外もあるしな、警戒はしておくか?


 そんな事を考えていたら、男が3人草むらから飛び出して来た。

 一目散に千紗に向かう。


「動くな!動けばこの女がどうなっても知らないぞ!」

 白い三兄弟だった。

 手には包丁かと思ったら、同じサイズくらいののコンバットナイフだ。

 ギリギリ銃刀法違反になりませんって通販されてるタイプかな。


「お前ら、探索者の犯罪は一般人より罪が重くなるぞ、ダンジョンと違い誤魔化しきかないぞ?」

「わ、分かってるさ!そんな事!でも、もうこうするしか無いんだ!」

 なんか、やたら切羽詰まってるな、恵庭で何かあったのか?


「で?どうしたいんだ?」

「お、俺たちのいう事を聞いてもらう!じゃないとこの女がどうなっても知らないぞ!」

 それはもう聞いたよ。


「はぁぁ、あのな?俺たち探索者は制限されて弱体化するとはいえ、ステータスもスキルもある程度使えるのは使えるのは知ってるな?」

「それがどうした!」


「元々お前らの親分が俺たちに絡んできたのは、千紗のクラスが優秀だったからなのは覚えてるか?」


「だ、だからなんなんだよ!」

「つまりな、千紗!全力でいって良いぞ」

『サンダースプレッド』

「ギャアァァァァ」


「装備なしだったら最強は千紗なんだよ、お前らごときにどうにか出来るわけ無いだろう」

「コワカッター」

 千紗が駆け寄ってくる。


「どこの新喜劇だよ」

 思わず吹き出してしまった。

 日頃ダンジョンの外では、やり過ぎない様に敢えてスキルを使うのを自制しているが、武芸百般の影響もあって至近距離からだろうと負けるなんて事はまずない。


「この人たちどうします?」

 痺れて動けなくなってる3人を指さして千紗が聞いて来た。


「まだ、距離的に近いし、笹かまに任せるか」

 俺が2人、千紗に1人山道を引きずって受付まで運んでいく。


「うぅ」

 痺れが取れて来たらしい。


「みー、ちょっと魅了で動けなくして」

「はーい」

 魅夢の能力もダンジョンの外では弱体化してる。

 それでも、ほぼ無抵抗の人間を抵抗する気が無くなる程度には魅了も効果を発揮する。


 レベル上昇によるステータスアップのおかげで、思ったより簡単に受付まで引きずって来れた。

「笹かまー…あ、電話中か」


「だーかーらー、そういう事は北海道支部に言えっすよ!あそこが北海道の総本部みたいなもんすから!剣崎さんはもう帰った…あれ?あ、なんか戻って来たんでちょっと待つっす。

 どうしたんすか?」


「あぁ、コイツらが帰り道に襲って来てな、ナイフ持ってたし殺人未遂だな、警察呼んでくれ。

 そっちは俺の名前出てた気がしたんだが」


「あー、とりあえず、探索者専用のやつ呼ぶっす。

 こっちは、ナカダニから電話っす。

 剣崎さん出せってうるさいんすよ」


「うん、じゃあ、出るよ」

 そう言って電話を受け取った。


「てつー頼む!助けてくれ!」

「いきなりなんだ?意味わからんぞ?」

 そもそも、コイツよく俺にそんな事言えるよな。

 厚顔無恥が主成分の生き物だから仕方がないか。


「氾濫兆候出てるんだ!今のうちになんとかしねぇとマズイんだ!」

「氾濫兆候?」


「なんだ、そんな事も知らねぇのか、だらしねぇ」

 こいつ…。


「俺に頼まなくても釧根地区の事なんだから地元の奴らに頼めよ」

「こっちの奴らはだらしねぇからよ、どいつもビビって近寄ってこねぇんだわ!」


 だらしねぇのはお前だろ、スピーカー割れるんじゃねぇかってくらい、でかい声で話すなよ。


「ナカダニ、ハブられてから、誰も助けに行かないっすよ。

 あそこは自衛隊の駐屯地あるから、氾濫したら自衛隊頑張れってみんな思ってるっす」


 なるほど。


「自衛隊に頼めばいいんじゃないのか?」


「お前!稼ぎ時だぞ!せっかく稼がせてやるって言ってるのに、自衛隊に美味しい所持って行かれてどうするんだ?」

 これだよ、助けてくれ言ってるくせに、微妙に話ズラして恩着せようとしてくる。


「1回相談させろ、切るからな」

 あーうるさい。

 なんであんなにデカい声で話すんだよ、耳痛くなるわ。


「笹かますまない、ちょっとどういう状態か説明してくれるか?」


「了解っす。

 まず氾濫兆候は氾濫が起きる前に起きる現象っす。

 まず、その階のモンスターが上の階を目指す、結果的にセーフティゾーンに溜まるっす。

 そして下の階からセーフティゾーンが壊されて、順番にモンスターが上に上がってくるっす。

 上がったモンスターとそこに元々居るモンスターとでお互いに殺し合いが始まるっす。

 結果、モンスターが成長するっす。


「え、ちょっと待ってくれ!モンスターってお互い殺し合うと成長するのか?」


「そうっすよ、俺らがモンスター殺したらレベルアップするのと同じ様にモンスターもレベルアップするっす。

 そしてそれが何回も繰り返されて、ある程度強い個体が出来るとその系統のグループが出来るっす。

 グループが出来るとそこはあんまり戦わなくなるっす。

 そうやっていくつかグループを作りながら上に上がってくるっす。

 で、1階のセーフティゾーンが壊れたら外に出て来て氾濫が始まるっす。

 ランクの低いダンジョンの方が起きやすいのと、高確率でダンジョンの最下層が増えるので、ダンジョンの成長で起きる現象じゃないかって話っすね」


「成長したモンスターと戦えるから、その分稼げるって事か」


「それもあるっすけど、数も尋常じゃなく多いんで、量でも稼げるっすよ。

 倒せるならっすけどね。

 ちなみに中春別周辺の協会員と探索者は私怨で、ナカダニの面目潰そうとして一切放置みたいっすよ。

 なんなら、北海道支部もほぼスルーっす」


「面目潰すったって、そこに住んでる人にしたらいい迷惑じゃないか?」


「まぁ、そうっすねぇ、国から補償金は出るっすけど、一旦完全に避難しないとならないっすからねぇ。

 運悪いと家全壊させられるし、災害と同じっすから」


「ふぅぅ、俺らだけで防げるか?

 俺は大きなため息をついた。


「微妙っすねぇ」


「人集められるか?」

「前回の30レベルまで上げた集団なら、ある程度は集められると思うっすよ」


「それならどうだ?」

「剣崎さん達が頑張ればいけるんじゃないっすか?」


「千紗、良いか?」

「うん」

 ニッコリ笑って頷いてくれた。


「笹かま、クエスト出してくれないか?」

「剣崎さんってお人好しっすよね」


「そんなつもりはないんだけどなぁ」

「安いっすけど、そこは我慢っすよ」


「分かったよ」

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