第66話 笹かま齢20歳で組織の幹部になる

 探索者になって3年経った。

 ダンジョン内は俺たちの組織、ハイエナ達の組織、そしてごく僅かの無所属の人間しか居なくなった。


 ハイエナ達は今でもその行為を辞めておらず、皮肉なことにそのおかげで俺たちの組織が大きく成長していた。


 篠塚さんはダンジョンを攻略する事に全力を傾けるようになっており、組織の運営は飯田さんが全て行なっていた。


 そして俺は…。

「橘さんおつかれっす!」


「おう、向こうの奴らはどこまで進んでいる?」


「ついに90階到達したみたいっすよ、こっちも負けてられないっす!」


 ダブルスパイになっていた。


「そうか…ところで、また襲えそうなグループは居ないか?」


「そっすねぇ、30階でレベリングしてるのがいけそうっすけど、ちょっと数多いっすよ。

 全力で行かないと厳しいかもっす。」


 飯田さんは自分の組織の不穏な奴らを1箇所にまとめる

 俺は飯田さんの指示で対立組織に潜り込み、ハイエナ出来そうな奴らの情報として、飯田がまとめたグループの場所をリークする。


 そして、この事件を利用して、一層の相手との対立化と自分の組織の団結を促す。


 こんな生活を続けていると、何が本当で何が嘘か分からなくなる。

 誰の前でも本当の自分じゃないような、そんな気持ちになってくる。


 そんな生活も今日で終わる。


 グループを作った当時はハイエナグループにレベルも人数も負けていたが、強引なボス突破と飯田の巧みな言葉で今では完全に逆転していた。


「何処にもいねぇじゃねぇか!」

「もう少し先っすよ、今回も上手くおびき寄せてあるっす」


 もう何回も笹かまの情報で美味しい思いをしている。

 その為笹かまの話をすっかり信用していた。

 今回も全力じゃないと難しいという情報から、組織にメンバー全員を連れてきている。


「あ、ほら、あそこっす!ここから一気に襲えば逃げれないっす!」

「確かにな!よしオメェら行くぞ!」

 その号令で一斉に襲いかかった。


「ん!なんだ!随分しぶといじゃねぇか!」

 襲った相手のメンバー構成は防御力の高いタンク系が外側を守り、その内側にさらに堅固にする為の支援系が控えている。


 そして、この場所は笹かまのいる場所から一気に襲い掛かれば逃げ道がない。

 飯田が差配して隠れていた攻撃部隊が一斉にハイエナグループに襲いかかった。


 あっという間に殲滅した。


「テメェ、裏切りやがったな!」

「裏切ってないっすよ、最初から味方じゃないっす。

 俺はここに潜って1つ学習したっす。

 ダンジョンには味方にするか、殺すか、殺されるか、この3つしかないっす。

 人間でも、モンスターでも」

 そう言った笹かまの目には暗い光が灯っていた。


 そしてヘラヘラと笑い出すと、組織の頭だった橘の心臓に錆びたゴブリンのナイフを刺した。

「これ、もういらなくなったからあげるっす」


 ハイエナ組織を潰して1年が経った。

 笹かまはその功労者として幹部となっている。


 だが、結局は飯田が全て指示をして、それをこなす毎日だ。


 ある日、飯田と酒を飲むことになった。


「笹かまぁ、飲んでるか?」

「飲んでるっすよ、でも珍しいですねこんなに酔っ払って」


「ふふ、俺のな!野望が実現する目処が立ったんだよ!こんな時ぐらい浴びるほど酒飲みたいだろう」

「なんか良く分からないっすけど、おめでとうっす」


「聞きたいか?」

「あ、いやー、別に」


「聞きたいか?」

「あ、はい、じゃあ、お願いするっす」


「俺のクラスはな、弁論者じゃないんだ、本当は詐欺師なんだ」

「ええ!あ、でも、今はそれは関係無いんじゃ?」


「いいから聞け!俺はな、協会を作って、俺の懐に巨万の富が転がり込むのが目的だ!

 誰が何人死んだって構わない!政府との話で俺の自由に出来る組織が出来上がるんだ!」

「あ、はぁ…。」


「詐欺師冥利に尽きるだろう!」

「それはクラスの話っすよね?」


「違う!俺は元々詐欺師なんだよ!クラスを見た時に、あぁ俺はやっぱりそれしか無いんだと思った!」

 ここまで言うと、飯田は眠ってしまった。


 どうして良いのか分からないまま、時が過ぎる。


 1週間後、久しぶりに篠塚と少数精鋭による強行偵察を行うことになった。


 階層はすでに125階だ。


 篠塚さんと俺と、何故か坂間のオッサンの3人だった。

 坂間のオッサンがこんな場所まで潜って来れているのが信じられなかった。


「久しぶりだな!このメンバーで潜るの!」

「そっすね、俺が色々やってて大幅にレベル上がって無いっすから、この辺だとちょっとキツいっす」


「それなんだが、何かあったのか?ここなら誰も聞いてないし、我々しかいない」

「え、なんか、変だったすか?」


「うん、何か重いもの抱え込んでるようだったよ」

 オッサンにもバレてた。


 俺は飯田さんの話を2人にした。


「…そっかぁ、彼にも負担かけていたんだな」

「止めて欲しいのかもしれないね」

「やっぱそうなんすかね、もう自分じゃ止まれないのかなって、俺も思ったっす」


「わざわざ、そんなこと君に言う必要ないもんね」


「一度4人で話してみるか」


 数日後、4人でダンジョンに潜っていた。


 酔った時の話、今までの話、色々な話をした。


「俺は俺の欲望を止められない。

 クラスでレベルが上がれば上がるほどだ!

 パーソナルクラスはその人の本質を曝け出すんだと思ってる」


「君を止める為には君を殺すしか無いぞ」


「あぁ、分かってるダンジョンには、味方か、殺す者か、殺される者しか居ない。

 味方じゃ無いなら、殺すか殺されるかだ」


 重い沈黙が流れた。


「…私がやろう」

 そう言ったのは坂間のオッサンだった。


「え!オッサンがっすか?」

 意外すぎた。


「笹かま君には誤解させたままだったね、私のクラスはちょっと特殊でね。

 強力なんだが、その分代償が大きいんだ」


「古い男ってそんなクラスなんすか?」

 オッサンが顔を横に振る。


「オールドワン、旧き神々の呼び名が私のクラスだよ。

 スキル『ニャルラトテップ』を発動するよ」


 オッサンの身体が崩れ出し、黒いタコの触手のようなものが飯田さんに絡みつく。


 しばらくすると、元に戻った。

 飯田さんも何も変わらない。


「これで、私は坂間さんの一部になった」


「え?どういう事っすか?」


「記憶もある、感情もある、だが私はすでに私では無い、坂間さんの一部だ。

 事実上、飯田という人間は死んだ」


 あまりの事に何をどうしたら良いのかわからなくなった。


「「時間はもう余り無い、協会は作らなければいけない、飯田という人間の存在は必要不可欠だ、だから禁断の手を使うよ」」

 坂間のオッサンと飯田さんが同時に喋る。


 俺はなんとも言えない恐怖を覚えながら頷いた。

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