第64話 笹かま齢17歳にして探索者になる。
「クソッ!」
笹山克馬、通称笹かまはあざだらけでフラフラになりながら、1階出口に向かった。
その先には自衛隊が設置したゲートがあり、そこでドロップと装備を渡す。
そして、そのまま皇居内に設置された駐車場の送迎バスに乗り込み宿泊施設に帰る。
犯罪者やその予備軍が居る集団を、ダンジョンの外で徘徊させるつもりは無い。
そして、寮という名の監獄に押し込まれる。
未曾有の災害から国民を守る為という錦の御旗は振り回し、人権も倫理も無視した暴挙である。
だがこれを止める者はいない。
あと数年のうちに最低限の準備が整わなければ人類が滅びると伝達者に言われている。
国もなりふり構うつもりは無い。
最初はそれでもまだ一般人だった。
だが、一般人ゆえにダンジョンでは活躍できない。
痺れを切らした政府は荒事の得意な者達を投入し出した。
それでも遅々として攻略が進まない現状に業をにやした政府は次々と犯罪者を投入した。
常識や倫理も外側の人間の方がダンジョンでは活躍できる。
ゴブリンを見て「彼らだって生きている話せばわかるのじゃ無いか」なんて言いださない。
「人型の生物を殺すことが出来ない」などとも言わない。
だが、そういう人たちが増えれば増えるほどダンジョンは無法地帯になっていった。
そしてある者は気づいた。
『別に自分達が戦わなくても近くにいればレベル上がるじゃねぇか』
誰かが戦っている所に数人で近づき、そいつが倒して疲労してるところを後ろから襲いかかってドロップ品を奪う。
『ハイエナ』と呼ばれる手法が流行った。
そして、笹かまもその餌食になったのだ。
「おー、聞いたぞハイエナ食らったんだってな」
「篠塚さん聞いてくださいよ!やっとナイフ出たのに持っていかれたんすよ!」
篠塚洋平、元自衛官だ。
国のやり方が合わず、敢えて除隊して探索者となった変わり者だ。
「それは災難だったな」
「なんなんすか!戻ってきて自衛官に言っても何もしてくんないし!あんなのやったもん勝ちじゃ無いっすか!」
「国の方針だ、お前警察官が民事非介入って方針知ってるか?」
「なんか、あんま良くわかって無いっすけど、警察が介入出来ないみたいなルールっすよね」
「そうだ、ダンジョン内は有事とされるんだと」
「有事?」
「そうだ、そしてダンジョン内における有事に対して国の公的機関は非介入とするというのが国の方針だ」
「なんすかそれ?」
「ダンジョン内では銃刀法も無視、動物愛護も無視、当然探索者同士のトラブルも無視、やりたい様にやって良いし文句言わないからとにかく攻略しろ、それが国の方針だ」
「無茶苦茶じゃ無いっすか」
「そうだ無茶苦茶だ、国は自分たちは安全なところに居て、どうせ死んでも構わない奴らだから何人死んでも構わないから、結果だけだせ。
そう言ってる」
「やってらんないっす」
「だがここから抜け出すのは事実上不可能だぞ、しかも成果出さなければどんどん扱い悪くなる」
政府は探索者に最低限の保証をしている。
何もしなくても生きていけるが、本当に生きていく為の最小限のものしか与えられない。
代わりに結果を出せば報酬という名目で大抵のものが与えられる。
ここは完全歩合制の監獄だ。
「…なぁ、俺たちはこの状況を打破しようと話している。
探索者達の協会を作ろうと計画してる。
協力しねえか?」
「協会っすか?」
「あぁ、今の政府は人を使い潰す事をなんとも思ってない。
むしろ犯罪者の抑制になるとまで言ってる奴もいる。
だが、このままじゃ近い将来破綻する」
「なんででっすか?」
「お前、今ダンジョンが何層まで攻略されてるか知ってるか?」
「5層のボスに挑戦中って聞いてるっす」
「そうだな、5層に行った探索者の帰還率知ってるか?」
「いや、知らないっす」
「約50%だ」
「めちゃくちゃシビアっすね」
「そうだな、そんな中で帰還率100%の集団が居るんだわ」
「めちゃくちゃ凄いじゃ無いっすか」
「最初にハイエナやり出した連中だ、不思議とそいつらと同じ時間帯に入った奴はほとんど戻ってこない」
「…まさか?」
「俺たちはそう睨んでる、あいつらはボスを倒す気なんて何もない、降りてきた他の探索者食ってるだけだとな」
「最悪じゃ無いっすか」
「そうだな、そしていずれ国も気づくだろうな、このままじゃいつまで経ってもダンジョン攻略なんか出来ないって」
「そうしたら改善するんじゃ無いっすか?」
「本格的に国が介入したら、色々国民に情報を公開しなければならなくなる。
集団で殺人したものとそれを放置した政府の事もバレるかもしれない。
だが証言者は過酷なダンジョンでみんな死んでくれればバレる心配はないよな」
「そこまで国がやるんすか?」
「可能性の問題だ、だがその可能はかなり高い。
だから俺たちは自衛の為にも国から干渉されずルールを設定できる健全な組織が必要なんだ」
「よく分かんないっすけど、ハイエナやってる奴らボコれるんなら、協力するっすよ」
「そうか、まぁ、最初はその理由でもかまわないよ」
笑いながら、ゴブリンのレアドロップのナイフを渡してくれた。
「俺はもう使わないからな、お前にやるよ」
「これって入り口で渡さないとダメなんじゃ無いっすか?」
「奴らのルールに従ってたら、いずれ死ぬぞ。
俺たちは俺たちのルールで生きていかないとな」
篠塚さんが信用できるかどうかは分からない。
だけど、今はなんでも良い、明日から2階で戦える事の方が重要なんだから。
【宣伝】1話完結で新作書いてみました。
評判良いようだったら、連載化しようと思います。
ぜひ見て評価してください。
【愛する人がゴーレムになりました】
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます