第63話 笹かま齢27歳にして協会職員を続けてる 1

「行ってくるよ」


「いってらっしゃいっすー」

 剣崎達が56階の沼地エリア行くのを見送ると誰もいなくなる。

 一時期いた連中は元の場所に戻って行った。

 数人だけ金魚のフンのように剣崎達について行ってるが、ほとんどは逃げるようにこの場所から移動して行った。


 実際逃げたんだが。


 PCの画面にある秘匿回線のアイコンが点滅する。

「はい」


「どうだ?彼らの調子は?」


「やべぇっすよ、ガチで1年あれば100層超えるんじゃ無いっすか」


 パーソナルクラスは当たり外れが激しい。

 一般的に言われている事だが、この振り幅は一般的な認識よりもずっと大きい。

 しかも一見ハズレに見えるクラスがレベルが上がる事で大当たりに変わる事も少なく無い。


 その為、パーソナルクラスを選んだ探索者が活動するダンジョンでは必ず、協会からサポートをする様に協会員全員に通達されている。


 最初に剣崎を見た時の印象はもうまんま“オッサン”だった。

 その後一緒にステータスを見た時はハズレ確定と思った。


 その後の装備との組み合わせの説明を受けた時に震えた。


 自分の頭の中に一切無かった発想。

 しかも、理論上1対1なら負けない構築が可能と思える将来性。

 いくつもの厄介と呼ばれるモンスターに対応出来る汎用性。


 あのステータスとスキルを見て諦めないで活路を見出した事を素直に尊敬した。

 自分が成れなかった最強にしてみたいと思った。


 担当者登録もやり過ぎと怒られるかもしれないが、即決した。


「しかし、即レスで盾の講習行かせろはビビったっすよ」


「アレの尻拭いしなきゃならなかったからな、パーソナルクラスはパーソナルクラスと引き合うっていうのにかけてみたんだ」


「ただの都市伝説じゃないっすか」


「でも上手くいったじゃないか」


「まぁ、そうっすけど」


 パーソナルクラスが居たら、協会員はサポートしなければいけない。

 はずなのに何故か順調に育つどころか、まともに探索すら出来ていない探索者がいた。


 それも厄介な事に協会内で治外法権と呼ばれる恵庭支部に居た。


「会って確信したっす、あのババァ若くて可愛いから潰しにかかったんすよ。

 あのババァのやりそうな事っす」


「協会も発足してまだ4年、昔と変わらずに好き放題やる奴を抑えるまで組織が完成してないんだ。

 残念なことにな」


「昔は酷かったっすからねぇ…」


 ダンジョンは4年前に突如現れた事になっている。

 だが実際には最初のダンジョンは10年前に現れた。


 場所は皇居内。


 一般に知られることは無かったが、宮内庁では戦争でも起きたかくらいの騒ぎになっていたらしい。


 だが、このダンジョンは他のダンジョンと一線を画すものがあった。


 伝達者と呼ばれるものが中から現れた。

 見た目はまんまエルフだ。

 金髪に緑の目、長い耳を持った絶世の美女。


 彼女は自信を『スクルド』と名乗ったそうだ。


 そして彼女から、ダンジョンは次元を超えた災害であり、恩恵でもあると説明をした。


 彼女達もさらに別の次元からやってきた伝達者に知識を与えられ、最下層に到達したことでこうして次の伝達者になり、本格的にダンジョンが次元を渡る前にダンジョンに干渉して先に次の次元を渡りダンジョンの事を伝えにきたのだ。


「約束してください必ず最下層を目指すと、次の伝達者を生み出すと」


 彼女の条件を受け入れる事で、様々な情報がこの世界に与えられた。


 それを元に色々な技術も生まれ、本格的なダンジョン発生が起こった時に対処する方法も確立出来た。


 だが、知識だけではどうにも出来ないことがある。


 ダンジョンで確保しなければならない素材の確保と最下層を目指す人員。

 これだけは誰かが実際にダンジョンに潜らなければならない。


 伝達者は知識以外は一切他の次元のものに与えることは出来ない。

 必要なものは全てダンジョンの中にある。


 その確保にはダンジョンに入らなければならない。

 時間はそれほどあるわけでなく、しかも極秘で行わなけれなならない。


 国が集めたのは、いなくなっても気づかれない人達だ。


 家族が居ない者、ホームレス、反社会勢力、犯罪者、そう言った者達を集めて、少数の訓練された兵隊につける。


 そして僅かな訓練の後現れたダンジョンに次々と投入する。


 そんな1人に笹かまも居た。

 彼もまた幼い頃に両親は亡くなり、兄弟も居ない孤独な身の上だった。


 ダンジョンのモンスターに通常の武器は効かない。

 ダンジョンの中の物を使わなければモンスターを傷つけられない。

 入る前に伝達者から教えられた情報の1つだ。


 このダンジョンの最初の相手はゴブリンだった。


 最初にしなければならないのは相手を倒す武器の確保。

 中に入った物はまず石を手にした。


 そして誰かが靴下に石を入れてもダメージを与えられる事に気づいた。


 偉い学者はダンジョン内の物質に含まれている何かが外に放出されていればダンジョン内に影響を与えられると、まことしやかに解説していたが、そんな事はどうでも良い。


 そのうち、誰かがゴブリンは稀にナイフを落とす事を発見する。


 瞬く間にその話が伝わり、全員がナイフを手に入れる為に徘徊し、確保できたら下に降りるのが当たり前になった。


 当時はクラスに値段なんてなかったから、ほとんど全員がパーソナルクラスを選んでいた。

 自分だけのスキルと言われれば、取らないと選択する人は滅多に居ない。


 なんでも現地調達、それが当たり前の環境だった。

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