第58話 オッサン齢53歳にして憐れむ。

「よし!このままドラゴン狩って歩くぞ」

 返済の目処が立ったので、ボスゴールドを倒した後はレベルアップも兼ねて周辺の通常ゴールドを倒して、そのドロップ品を今回参加してくれている人達に渡す事にした。


 ただ、まだレベルが低い人が多いため、有効圏内である5mに近づくのは相当怖いためか、すぐに集まりきれず、いつもよりペースが落ちる。

 特にドラゴンはデカい。

 いくら俺がウォークライで引き付けているといっても精神的重圧は相当らしく、何もしていなくても疲労してしまうため、ボス後の移動時間も遅くなってしまうため討伐数もそこまで伸びない。


 それでも、午前と午後の両方で1人1個はドロップ品を渡せるので、ついて来れる人には渡している。

 時間あたりで見ればそこまで稼げるという訳じゃないので、希望者のみにしているんだが不思議とみんなついて来る。


「ダンジョンで何かあっても絶対助かる安心感はかえ難いですぜ」

 と唐辛子。


「じゃあ、もう少し気楽に構えて疲れないようにした方が良いのに」

 と言うと。


「分かっててもアレは無理ですって」

 と即座に反論された。


 移動中もみんなかなり警戒して歩いているが、千砂の天網恢々はとんでもなく優秀だし、むしろドラゴンしか居ないんだから、どこかから不意打ちも目立ちすぎて無いと思うんだけどなぁ。


「順調っすか?」


「うわぁぁぁぁあ!」

 いきなり後ろから至近距離で話しかけられた。


「剣崎さん、ダンジョンで流石に緩すぎじゃないっすか?

 何があるか分からないのがダンジョンっすよ」

 こいつ、マジで1回ぶん殴ろうかな。


「普通にダメっすよ」


「まだ何にも言ってないだろう!」


「だいたい分かるっす」


「くっそー!で?何処に置いてきたんだ?」


「桃太郎ゾンビの所っすね、大畑以外全員レベル1桁なんで、あそこで充分っす」


「それって大丈夫なのか?」

 嫌いだし、会いたく無いと思っていても、この歳になると中学時代を共有できる存在というのを簡単に見捨てられない。


 特に地元を離れて四半世紀をゆうに超えた身としては、ノスタルジックな気持ちと共に何か失いたく無い気持ちが出てくる。


「まぁ、大畑が頑張ればなんとかなるんじゃ無いっすか?

 自分で呼んだんだから、苦労すれば良いっす」


「結局何で中田が来たんだ?」


「あー味方のはずの唐辛子がいつの間にか寝返ってて、それを知り合いに相談したら紹介して貰ったらしいっすね」


「泣きつく相手にしてはレベル低く無いか?」


「大畑もあんな低いと思って無かったみたいっすよ、結局大畑1人で戦ってるようなもんだったっす」


「お前は?」


「俺はただの監視役っすよ、まぁ、死ななそうだったんで戻って来たっす」


「しかし、買取倍ってそんな事して大丈夫なのか?」


「このダンジョン、途中まで虫とアンデッドしか出ないクソダンジョンっすからね、今いるところも15円の魔石を30円で買えば良いだけなんで余裕っす。


「リビングデッドガチャで当たり引くかもしれないぞ?」


「そこまで行ける訳ないっすよ、大畑が他の連中と組んでた時だってボスネズミもまともに攻略出来てなかったじゃ無いっすか。

 それより人数も少ないし、レベルも低いんっすよ」


「いつまで放置しておくんだ?」


「あー、人数少ないし、階層も浅いから大した金にならないっすけど、遭難者の救助クエストやらないっすか?」


「…お前ってタチ悪いな」


「いやーそれほどでもー」

 いつものヘラヘラ笑いだ。


「褒めてない」

 そう言いながら俺も顔がニヤけるのを我慢出来なかった。


 俺たちはゴールドをいつも通り倒した後に中田達のところまで移動することにした。


 ー20階ー

「はい、どうもーレベル上げ順調っすか?」

 もの凄い形相で大畑が睨んできた。


 複数に囲まれたり、急襲されないように、笹かまが放置してきた場所から1歩も動かずに戦っていたようだ。


 笹かまが絶妙な場所に放置したおかげで、そこから動かなければ1体だけ対処していればなんとか現状維持は出来るって場所に放置してあった。


 念の為千紗にも付いてきて貰って索敵して貰ったが、必要ないくらい動いて無かった。


「ああ!おかげさまでな!」

 中田が強がりなんだか、本気なんだか分からないテンションで返事をしてきた。


 本人はほぼ戦ってないから元気だ。


 ここに来るまでに聞いたが、どうやら中田はまた道東の探索者協会と揉めて出入り禁止を喰らったらしい。

 まぁ、出入り禁止と言っても探索者の少ない田舎では数日から数週間の期間限定が普通なんだが、今回は2ヶ月らしくその間の食い扶持を稼ぐのに遠征するつもりでいたそうだ。


 そこにこの話が来たもんだから、飛びついたようだ。

「あのババァがコイツらの事情知って、妨害用に誘導したのに違いないっすよ」

 とは、笹かまの予想。


 俺も可能性はあると思ってる。

 偶然にしちゃ出来すぎだしな。


「とりあえず今日はこれくらいで良いから帰るぞ!おい!てつー!送っていけや!」


「あーすいません、剣崎さん達には遭難した時用に来てもらってるだけなんで、問題無いならこのまま帰りますね」


「ま、待ってくれ!もう毒消しが無いんだ!俺1人じゃ移動しながらの戦闘は無理なんだ!」

 大畑が泣き言を言う。


「遭難救助でよろしいですか?金額は40万と、別途ボス処理10万かかりますが?」

 笹かまビジネスモード発動。


 大畑が悔しそうな顔で頷く。

 また借金増えたが、こいつ返済大丈夫なんだろうか?


「そちらの3人はどうされますか?」

 ビジネスモードはまだ続く。


「てつー!お前友達だろ?こんな事でいちいち金取るのか?俺はな!協会理事にも知り合いいるんだぞ!弁護士だって何人も知ってる!いいか?探索者のレベルだけが強さだと思うなよ!知識とコネと法律でお前を殺す方法なんていくらでもあるんだからな!怒らせるような真似すんなや!俺に友達を手にかけるような真似させんなよ!」

 こいつはいつも何処かの漫画かアニメか映画で出てきそうなセリフを言うな。


 そういえば、会長と理事ってどっちが偉いんだろう?

 あ、理事長もいるのか?


 っと、こんなどうでも良い事考えてる場合じゃ無かった。

「すまんな、俺も協会の要請には逆らえないんだ」

 予め決めてあったセリフを言う。


 こんな事言うだろうなって話してた通りの脅し文句聞かされてびっくりしたわ。

 千紗頼むから、笑うなよ。


「遭難救助の申請は出さないでよろしいですか?」

 笹かまが割って入った。


「おい!てつー!お前だけじゃねぇぞ!そっちの若い女もな!突然暴漢に襲われるって事だってあるんだぞ!そういうコネもあるんだからな!」


「…お前…俺の女に手を出すつもりか?」

『緒が切れました』


「鉄也さん!落ち着いて!」

 千紗が抱きついてきた。

 全力で本気の殺気を叩きつける。


「あ、あ、いや、てつも金要りようみたいだしな!俺たちが払えばいくらか入るんだろ?こ、こ、貢献してやるよ、遭難救助申請出す!」

 腰抜かして後退りする中田を見て、怒りもおさまってきた。


「お前、千紗になんかしてみろよ、死なない程度にポーションかけて気が狂うまで殴り続けるからな」

 そうなったら、俺は中田が泣いても殴るのをやめない!


「あ、ああ、分かった」


「あー中田さん、悪いっすけどズボンの替えはここに置いて無いっすよ」

 笹かまのその言葉で全員中田のズボンを見る。


 股間がビッショリ濡れていた。

 真っ赤になっている中田とその一味の遭難救助は終わった。

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