第51話 オッサン齢53歳にして覚悟を決める。

 俺の声に反応して全員が一目散に入り口に向かって走る。


 問題は反応したのはこちらだけじゃなく、ドラゴンもしっかり反応して迫ってきている事だ。


 全体的にレベルが低いせいで、撤退に時間がかかる。


 そして俺も、ステータス的には伸びてるはずなのに、周りとあまり変わらないスピードでしか走れない。


 年齢か?体型か?両方か…


 どちらにしろ、このままでは逃げられない。


「みー、あいつに魅了かけれるか?」


「多分すぐとけちゃう」


「そっか、みー千紗の方に行ってろ」

 覚悟を決めて俺はドラゴンの方に振り返る。


 ほぼ同時に千紗も俺の隣に並んだ。


 何も言ってないのに息ぴったりだな。

 なんか、嬉しいもんだな。


「笹かまぁ!あいつには弱点属性ないのかぁ!?」

 きっと笹かまもそばにいるはず、俺はそう確信して後ろを見ずに叫ぶ


「緑なんで炎っすぅー」

 思ってたよりだいぶ遠くから笹かまの声が聞こえた。


 …まぁ、いいや。


「千紗!」

「はい!」

 阿吽の呼吸って感じでなんか良いな。


 千紗がとっておきのスピアジャベリンをドラゴンの顔面にぶち当てる。


 …まったく怯んでない。

 え?ダメージ入ってない?


「エンシェント種は魔法も物理もクソほど防御力高いんで、効き悪いっすー」

 さらに遠くから、笹かまの声が聞こえた。


「それを早く言えぇー!

 千紗、俺が食い止めるみーを連れて逃げろ!」


「え!でも!」


「大丈夫だ!早く行ってくれ!近くにいると集中できない!」


「分かった!気をつけて!」

 千紗を逃がせた。


 しかし、どうしよ…。


 ブロックしたとしても、倒せなければ逃げる隙なんか作れない。


 気合い入れてブロックしてシールドバッシュ、それしか無いよな。


 もう、直近まで来ている!

 気合いを入れろ!


『ブロック!』


「カハッ!」

 声にならない声が口から漏れる。


 衝撃が強すぎて、声を出せなかったな。


 相手がクルンと回っていきなり尻尾で攻撃してきたためタイミングがズレた。


 ブロックスキルでドンピシャで受け止めたつもりが一瞬遅かったため衝撃を吸収しきれずそのまま後ろに吹っ飛ばされたのだ。


 身体が痺れたようになって立ち上がるのが遅れる。


 俺を仕留めたと思ったのか、ドラゴンが次に近い千紗に向かおうとしている。


 まるでボスオークの時の再現じゃねぇか!

 俺はまた千紗を危険に晒すのか!


 ダメだ!

 絶対ダメだ!


 そんな事になったら自分が許せない!


『堪忍袋の緒を切りますか?』

 頭の中からそう聞こえた気がした。


 イエス!ハイ!OK!


 どれに反応するか分からないから思いつく限りの肯定の言葉を念じた。


『溜め込んだ怒りの量が少ないのでステータスの上昇に制限がかかります』

 そな声が頭の中に響いた気がする。


 少しでも強くなるら何でもいい。

 ウォークライだ!


「ゴガァァァ!」

 ドラゴンをこちらに引き付ける事に成功した。


『ブロック!』

 今回は上手くブロック出来た!

 が

「うぉぉい!クソッ!」

 相手の威力が強すぎてその場で受けきれない。


 どうしても後ろにたたらを踏んでしまう。


 その為シールドバッシュに繋ぐ事ができない。


 能力の底上げしてる状態でこれじゃあ、元のステータスに戻ったら転げ回る事になる。


 どうにか出来ないか…。


 どうにも出来ないな…。


 仕方がない、単純だがブロックとシールドバッシュをほぼ同時に使用して、吹き飛ばされる前にシールドバッシュを決めるしかない。


 集中しろ!


『ブロック!シールドバッ…』


「ゴハッ!」


 シールバッシュに気を取られすぎてブロックが上手く発動してなかった。


 いっそシールドバッシュだけで勝負するか…。


 いや、無理だなそんな完璧にカウンター入れれると思えない。


「グハッ!」

「ゴフッ!」

「グッ!」


 ちゃんとブロック出来てないから、HPがゴリゴリ減らされている。


 正確なHPは今見ること出来ないが、次辺りで決めないとおそらく身体が持たない。


 集中しろ!


『ブロック!シールドバッシュ!』

 決まった!


  あ、まずい、最後によりによって防御した盾がそのままで耐えきれず、自分で自分の顎を打ってしまった。


 脳が揺らされて膝から落ちる。


 ドラゴンだらけのダンジョンで気絶するとか…。


 あぁ、くそ!

 仕方がない、俺は覚悟を決めた。

 そしてそのまま世界が暗転した。

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