第33話 オッサン齢53歳にして熱くなる。

 コロセ、コロセ、コロセ。


 魂を蝕むように、頭の中が命令でいっぱいになる。


 ダメだ!


 わずかに残った理性で抵抗する。


 俺の装備は手加減が出来ない。


 1発でも当たってしまえばそれで終わりだ。


 少しでも抵抗が緩み、たった1発でも、それがどんなに軽くても、その瞬間彼女の命は消える。


 千紗が視界に入る。


 コロセ、コロセ、コロセ、コロセ、コロセ、コロセ!


 コロサナイ、コロサナイ、コロサナイ、コロサナイ、コロサナイ、コロサナイ!


 耐えろ!耐えろ!


 俺は堪忍者、堪える事しか出来ない職場だ。


 今こそ堪える時だ!


 ころせ、ころせ、ころせ、ころせ、ころせ、ころせ!


 ころさない、ころさない、ころさない、ころさない、ころさない、ころさない!


 俺は自分のステータスに書かれて居た解説を思い出す。


 堪忍者

 堪忍をする、又はさせる者

 そのしぶとさは他の追随を許さない。

 しつこく相手に食い下がり、堪忍に特化したクラス


 俺のクラスは堪忍に特化したクラスなんだ!


 ネットで調べた堪忍の意味を思い出す。


 堪忍(読み)カンニン

 ① 不利な状況にあって堪え忍ぶこと。こらえること。がまんすること。身体的苦痛や苦しい境遇に堪えることをいう。

 ② 怒りをこらえて、他人のあやまちを許すこと。勘弁。


 堪えろ!

 忍べ!


 堪え難堪え、忍び難きを忍ぶ。

 ここで堪えずに何処で堪える


 殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ!


 殺さない、殺さない、殺さない、殺さない、殺さない、殺さない!


 愛する!


「うぉぉおお!」

 俺は雄叫びをあげた。


 身体がふらつき、片膝をついた。


「堪えた!堪えきった!」

 俺は敵を睨みつけながら、大声で宣言する。


「そ、そんなバカな…もう1度じゃ!もう1度加護と力を与える!妾にひれ伏せ!」


 何かの強制力が俺の身体に働く。


 だが、1度堪えきったものをもう1度くらっても、もう堪えられるという事実が俺の中にある。


 その為か先ほどより簡単に抵抗できた。


 そういえば、笹かまが何度も同じ状態異常をかけると、どんどん相手にかかりづらくなるって言ってたな。


 確か、オークキングを麻痺らせた時か。


 そんな事を考えながら、ゆっくりと敵に近づいていく。


「ヒィィィ!」

 相手が腰を抜かしたのか、尻もちをついた状態で後ずさっていく。


「お前は俺の大切な人を殺そうとした!

 しかも、俺の手でだ!

 覚悟は出来てるんだろうな…」


 怒りだけではなく、何か力が溢れてくる感覚が俺をより興奮状態にする。

 身体の内側から、滾るような熱さが溢れかってくる感覚だ


「タスケテ、タスケテ」

 泣きながら、うずくまる小さい敵がそこにいる。


 1発殴ればそれで終わりだ。


 俺はシールドを振り上げた。


「ヒィィ」

 敵が小さく悲鳴をあげる。


 …

 …

 …


 …振り下ろせない。


 うずくまり、泣きじゃくる、小さい女の子。


「ずるいぞ、まるで俺が悪者みたいじゃないか」


「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい」

 泣きながら謝る敵。


「お前、名前なんて言うんだ?」


「み、魅夢ミーム」


「お前はヴァンパイアなんだよな」


「うん、ナイトメアヴァンパイア」

 恐怖の為か、それとも今までが演技か、すっかり受け答えが幼児化してる。


「ナイトメア?」

 まだ、へたり込んで動けないでいる千紗の方に振り向いた。


 彼女もフルフル首を横に振っている。


「お前が居た場所って何階くらいにあるんだ?」


「わかんない」


「何故に?」


「逃してもらったから、もしかしたらここと違う場所かもしれない」


「じゃあ、まずはその復讐相手が何処にいるかから探さないとならないのか?」


「うん」


 思わず、うーんと唸ってしまう。


 やっと復活して近づいて来た千紗をみる。


「あのさ、申し訳ない「良いですよ」」


「この子殺せないんでしょ?良いですよ、鉄也さんの思った通りにしてください」


「ありがとう」

 出会ってそれほど経ってないのに誰よりも俺を理解している。

 そんな気持ちにさせてくれる一言だった。


 うずくまり、泣きじゃくり、怯えている幼い子、これがモンスターであり俺たちを殺そうとした奴だと頭では理解しているんだが、どうしても殺せない。


「なぁ、死にたくないか?」


「うん」


「お前は俺たちを殺そうとしたんだぞ、殺そうとする奴は殺されても文句言えないんだぞ、分かってるか?」


「ごめんなさい」


「謝って済む問題じゃない」


「う、う、う」

 また泣き出した。


「俺にはお前を従えるスキルがある、それで俺の従魔になるなら殺さない」


「う…」


「その代わり俺の言う事聞くんだぞ、ダメって言ったらダメ、やれって言ったらやる」


「うん」


「彼女も言うことも聞くんだぞ、いいね」


「うん」


 今ならスキルが発動しそうな気がする。


 スキル発動。

『ならぬ堪忍するが堪忍』


 魅夢と何かがつながった感触がある。


「よろしくな」


「うん、よろしくねパパ!ママ!」


「え!ちょっと待て…」


「よろしくね!鉄也さん、別に好きに呼ばせてあげていいでしょ?」

 圧が強い


「う、うん、よろしくな」


 俺たちは一旦受付に戻る事にした。

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