第32話 オッサン齢53歳にして説得する。
27階に着いた。
ここに来るまでに特に今までと変わった事は無かった。
理性が飛ぶとか、血が吸いたくなる事もない。
戦闘をして何か心情が変わる事もない。
気にすぎかなぁと考えていたのだが…。
「暗いな」
「暗いですね」
前回来た時より明らかに暗い。
『アンデッド出る階は暗くなるほど厄介なのが出るっす』
笹かまのこの言葉が脳裏に浮かぶ。
「警戒しながら移動しようか」
「…はい」
その後、リビングデッドと何回か戦闘を行ったが、特に今までと違いはない。
「あの…今日はもう戻りませんか?」
「この暗さが気になるかい?」
「…はい、嫌な感じがして」
「俺がこれはチャンスじゃないかって思ってる」
「チャンス…ですか?」
「うん、笹かまが言っていたイレギュラーが居るんじゃないかって」
「えっと?」
全く納得が言ってない顔をする。
「これだけ暗くなっているんだから、この階に何かあるのだけは間違いない、でも戦ったリビングデッドか強化されたとか別のモンスターになったわけでもない、別の何かイレギュラーな事が起きたんじゃないかって思う」
「あ、そっか、仲間にできるチャンスなんですね」
俺が言いたい事を理解してくれたようだ。
「そうだ、危険かもしれないが、滅多にないと聞いているからこのチャンスを逃したくない」
「わかりました、行きましょう!」
「ありがとう」
「どういたしまして」
彼女がちょっと戯けた感じでニコッと笑う。
しばらく探索すると、今まで見た事の無い洋館を見つけた。
「こんな建物無かったよな?」
「そうですね、この階は結構あちこち移動しましたけど見た事無いです」
あからさま過ぎるが、ここまで来て入らないという選択肢もない。
「…行くか」
「はい」
入り口から入ると、一般的な造りの洋館で広間があり、2階に続く階段が正面にあった。
そして階段の上には何かが居る。
姿は見えないが圧倒的な圧を感じた。
「おーほっほっほ、妾の館にようこそ!
そなたらには2つの選択肢がある!
妾の下僕となるか?妾の贄となるか?
さぁ、好きな方を選ぶのじゃ!」
まずい!
今まで戦ってきたどのボスよりも大きい存在感を感じる。
俺は本能的に『勝てない』と感じた。
慌ててドアに手をかけるが、案の定というか、当たり前というか、やはり開かなかった。
『せめて彼女だけでも逃さなくては!』
そう思い辺りを見回すが、外に出れそうなところが何処にもない。
「すまない、とんでもないことに巻き込んでしまった」
俺は彼女に懺悔する。
「私は私の判断でついて来たんです!謝らないでください!」
彼女は珍しく強い口調でそう言い返して来た。
「どうしたのじゃ?御主らが選ばぬのなら妾が決めるぞ?」
そう言いながら圧倒的な存在感が奥から近づいてくる。
まだかなり遠くに居るせいか、小さな人影が見えただけなのに、もうその圧で膝が震えそうになる。
そして、ゆっくり近づい…あれ?
遠近感おかしくないか?
「ふっふっふ、どうしたのじゃ?あまりの恐ろしさに声も出ないのか?それとも妾の美貌に見惚れているのか?」
「か、可愛い」
彼女が思わず小さく声を洩らした。
「ちっちゃ」
俺も思わず声を洩らした。
綺麗な銀髪に抜けるような白い肌、北欧系の綺麗な顔で背中からコウモリの羽のような物が生えている。
それがレオタードのようなものを身に纏っている。
俺の印象は昔流行ったモンスターが戦う格闘ゲームに出て来たモリガ◯のコスプレした小学生だ
体型的にはリリ◯の方か?
身長がおそらく120cm無いんじゃなかろうか?
先ほど迄の圧と見た目のギャップにどう対処して良いか分からなくなる。
「御主!今小さいと言ったな!妾とて本来の力さえ取り戻せば、ボンキュッボンの絶世の美女なのじゃぞ!」
「今もとっても可愛いですよ」
彼女が優しい言葉で話しかける。
「え!そ、そうか、うむ気に入った、妾の眷属にしてぞんじよう」
「眷属って事はヴァンパイアにするって事か?」
ちょっとカマをかけてみる。
「うむ、下僕であれば自由意思なぞ認めぬが、眷属であればある程度は思うままに行動できる。
どうじゃ、破格の待遇であろう?」
やはり、ヴァンパイアなのか。
「もし断ったら?」
「そのような不届きものは妾の贄となってもらう」
困った。
せっかくスキルで仲間に出来ると思い会話しているが、どうやったら仲間に出来るのかが全く分からない。
スキルが反応している気配がない。
ここまで不穏な事を言っている相手だし…戦うしかないかぁ。
会話してしまった上にこの見た目だ…やりづらい。
「ところでどうしてこんな上の階層に出て来たんだ?実力的にはもっと下の階層に居るんじゃないのか?」
「御主、なかなか賢いの!その通り!妾はこんな脆弱な者たちの場所になぞ居てはならぬ高貴な身じゃ!しかし、憎っくき裏切り者によって力を奪われ、消滅されかけた為こんな場所まで逃げて来たのじゃ」
「じゃあ、贄とか下僕っていうのは?」
「うむ、妾自身の力を取り戻す為と、復讐の時の駒となる兵を集めるためじゃ」
この子なんでも素直に答えてくれるな。
駆け引きとか苦手なんだろうな。
「その復讐を手伝う代わりに下僕とか贄とか無しって訳にはいかないのか?」
「何を言っておるのじゃ?復讐を手伝うつもりならそれこそ贄か下僕になるが良い」
まいったなぁ、これは平行線な言い合いが続く未来しか見えない。
「悪いが贄とか下僕とかになりたくないんだよなぁ」
覚悟を決めた。
生きるためには戦わなくてはいけない。
会話が出来るとか、見た目が可愛い幼女だとか、そんなことで躊躇してはいけない。
ここは、ダンジョンで相手はモンスターなのだから!
「抵抗する気か?」
俺の雰囲気が変わった事に気づいたのか、相手の声のトーンが1段階下がった。
「無駄じゃ、諦めるが良い!ひれ伏せぇぇぇい!」
強烈な威圧感を受ける。
「うぐぐがぁ!」
なんとか耐えた。
だが千紗は抵抗できなかったらしく、ペタンと座ったまま動けないでいる。
「ほう!耐えたか、だがの御主は絶対に妾には勝てぬのじゃ、御主の身につけておるそのロザリオ、それはの、妾の物じゃ!」
「どういう事だ?」
「それを身につけておる者は妾の命に逆らえなくする事が出来るのじゃ!」
「そんなはずはない!現に今耐えたじゃないか!」
相手の言う事が直感的に真実だと感じる。
だがそれを認めたくない理性が必死に抵抗の言葉をあげる。
「まだ、発動させておらぬからのう、さぁ!我が力と加護を与えよう!その代償として妾に永遠の忠誠を誓うが良い!」
その言葉を聞いた瞬間、血が沸騰するような感覚と共に目の前が真っ赤に染まる。
「そうじゃの、まずは御主の心を壊してしまうか、その娘はとても大切なようじゃのぉ、少し勿体無いが仕方がない、コロセ!」
俺の身体が抗いきれない何かに支配されていく。
コロセ、コロセ、コロセ。
俺の中が命令の言葉でいっぱいになっていくのを感じた。
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