第31話 オッサン齢53歳にして月を見上げる。
身体が焼けるように熱い、異常に喉が渇く。
沸る気持ちを抑えながら月を見上げる。
身体が急激に膨らみ筋肉が膨張する。
全身に毛が生えてきて牙も伸びてくる。
アオーーーーン!
バッと飛び起きた。
夢かぁ…。
もの凄い喉が渇いている。
背中がゾワっとした。
まさか夢と思ったら現実パターンか!
慌てて洗面台に駆け込んだ。
鏡を覗き込む。
…
…
…
毛むくじゃらの顔は映ってない。
というより、顔が…。
写って無い!
「千紗!千紗!」
慌てて寝ている千紗を起こす。
「んーなぁにぃ?」
「俺の!俺の顔を見てくれ!」
「えー見えないですよぉー」
あぁ、やっぱりか…顔が無くなってる…。
「俺に…顔が…無いのか…」
「こんなに暗くちゃ何も見えないですって」
「へ?」
なんだぁ、暗いだけかぁ…。
ん?
今気づいた…俺は電気もつけないまま、真っ暗な部屋を移動して、鏡を確認し、戻ってきて千紗を起こした。
あれ?見えてるな?
「電気つけますね」
「あ、うんお願い」
「鉄也さん、目が真っ赤ですよ」
「これって…やっぱり呪いのアイテムなんじゃないか?」
時間を少し巻き戻す。
帰宅直後、俺たちはロザリオの事を調べていた。
「朱殷って『しゅいん』じゃなくて、『しゅあん』って呼ぶみたいだな、時間が経って黒ずんだ暗い血液の赤っていう色らしい」
「え?そんな具体的な内容の色なんですか?」
「うん、そうみたいだね」
そう言って、色の説明での具体的な説明を見せる。
『庭一面が血染めに染まった惨憺 さんたんたる様子を『朱殷』に染まったと表現されています。』
「なんか、凄く不吉な色ですね」
「うん…」
急に不安になってきたな。
「ロザリオって首にかけるもんじゃ無いみたいですよ。
和風的な言い方だと西洋数珠みたいで、アクセサリーみたいに扱っちゃダメみたいです」
「そっかぁ、じゃあ外そうかな」
そう思ってロザリオに手をかけたが外せない。
「千紗、ごめん、ちょっと外してくれない?」
「あ、はい、あれ?外せないですね」
もの凄く嫌な予感がする。
「これって…やっぱり呪いのアイテムなんじゃないか?」
「でも、検査では呪いはかかって無いって」
「そうなんだけど…」
なんだろうな、妙に身体に馴染むのが逆に不安になってしまうな。
特に違和感も無く、そのまま就寝した。
そして、今である。
紅い眼、鏡に映らない、暗闇を見通す力、血のように紅い十字架の付いてないロザリオ。
このワードが有名なモンスターを想起させる。
「血を吸いたくなったりしてません?」
千紗も同じ事を考えたようだ。
「喉は渇いたけど、血が欲しいってなって無いな」
「コウモリに変身出来るとか?」
「なれる感じしないな」
「…とりあえず寝よっか」
考えても仕方がないから考えるのを辞めた。
朝になったら何か変わるかもだし。
ー翌朝ー
「おはよう」
「おはようございます、目の赤いの取れましたね」
「あ、取れたんだ、ちょっと鏡確認してみる」
恐る恐る鏡を見ると普通に俺の顔が映っていた。
一体夜中のあれはなんだったんだろうか?
「特に異常も感じないし、いつも通りダンジョン潜ろうっか」
「はい」
朝食を食べて準備を終えて、いつも通り受付に行く。
笹かまには昨日あった事を話しておく。
「あー似たような事無かったかちょっと調べてみるっすね」
「うん、よろしく頼む」
そして、ダンジョンに向かいセーフティエリアを抜けた瞬間。
脳内で何かスイッチが入ったような感覚がした。
「ん、あれ?なんか変だ、俺の見た目なんか変わってる?」
千紗にそう聞くと
「あ!また目が赤くなってますよ」
「やっぱり何かこのロザリオに意味があるのかな?」
昨日色々調べたおかげで、ロザリオに関してはかなり詳しくなった。
ロザリオとは薔薇の花の冠という意味だそうだ。
キリスト教信者が聖母マリアに捧げた祈りを花の冠に例え、ロザリオの珠を数える動作が冠を編むとういう意味合いがあるらしい。
先についてる卵型のものはメダイといって、十字架が一般的だがこういう無いのもあるらしい。
ただ、こういった象徴的なものは他の宗教でも流用されるはありがちなのも間違いない。
特に厨二病的な暗黒大好きマンなんかは、すぐ闇のマリアだの、血まみれの聖母だの言い出すし、なんかどうもヴァンパイアのイメージが取れないせいかもしれないけど、『わらわは死したるものの母にして穢れしものの支配者なり』とか想像してしまって、これのせいで俺が支配されるんじゃないかって不安が付きまとう。
「考えすぎだな」
「何か言いました?」
俺の独り言が聞こえたみたいだ。
「ううんなんでもない、頑張ろうッて思っただけ」
「そうですね!頑張ってレアドロップ狙わないとですね!」
「そうだな、一攫千金のチャンスだしな!」
2人で戦意を奮い立たせて、27階層へと向かった。
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