第34話 オッサン齢53歳にして懐かれる。

 一旦、受付まで戻ろうとなったのだが、1つ大きな問題が発生した。


 魅夢が遅いのだ。。


「ミー!もっと早く歩けないか?」


「ごめんなさい」

 本人はどうやらこれでも一生懸命歩いてるらしい。


 最初にあった時のあの威圧感も能力もすっかりなりを潜めてしまった。


「最初にあった時と喋り方も違うし、威圧感も無くなったが何か理由あるのか?」


「…ちゃったから」


「え?なんて?」


「ロザリオに全部渡しちゃったから」


 どうやら、このロザリオが原因らしい。


 色々詳しく聞いたところによると。


 このロザリオの本来の使い方は、忠誠を誓った者が祈りと共に自身の能力を魅夢に捧げるものらしい。


 それにより魅夢を強化することが出来る。


 逆にそれで得た能力をロザリオを使って忠誠を誓った者に渡して強化する事も出来る。


 今回はさらに特殊な使い方で、強制的に力を渡す代わりに、忠誠を強要するという裏技的な使用方法だったらしい。


 俺がその忠誠の強要の抵抗に成功したせいで、渡した能力は本人にも返らず、俺にも渡らず、ロザリオに留まったままになってしまったらしい。


 しかも1度抵抗されたので2度目はさらに多くの能力を使ったので、それにより弱体化、精神的にも退行してしまっているらしい。


 そもそも、あの喋り方自体、威厳を見せるために作ったキャラだったみたいで、こっちが本来ものに近いらしい。


 巨大な敵は味方になるとポンコツ化する理論は漫画の世界だけじゃ無かったんだなぁ。


「しょうがないなぁ、そのスピードじゃ時間かかってしょうがない、ほらオンブしてやるから掴まれ」

 おんぶして移動するのが効率が良いからおぶるだけで、決してちょっと悪いことしたなとかは思っていない。


「うん!」

 あと、すっかりこの子の可愛らしさにやられて甘やかしている事もない。


「軽っ!」

 魅夢の重さは驚くほど軽かった。


 具体的には空のリュックサックくらい。


「だって私、空も飛べるから、身体の重さ変えれるよ」


「空飛べれるんかい!」

 思わずエセ関西人みたいなツッコミをいれてしまった。


「飛んだほうが良い?このままじゃダメ?」

 肩の方まで顔を突き出して、魅夢がちょっと哀しそうな顔で俺をみる。


「おぶされって言ったの俺だしな、まぁ、今日はこのままでいい」


「うん!」

 何度も言うが、決して甘やかしている訳ではない。


「鉄也さんって、良いお父さんになれそうですね」


「どうだろうねぇ」

 なんとなく、恥ずかしさを覚えて、適当な返事で流した。


 帰りも特に大きな問題もなく戻って来れた。


「笹かまちょっといいか?」


「なんす…剣崎さん、自首するっす。

 流石に幼女連れ回すのはダメっす。

 どんな理由があってもそれは誘拐になるっすよ」


「勝手に犯罪者にするな!

 この子は従魔だよ!

 お前が言ってたイレギュラーモンスターだ!」


「なんだ、てっきり剣崎さんが道を踏み外したのかと思ったっす」


「1回この装備のまま殴っていいか?

 ナイトメアヴァンパイアって言うらしいけど、なんか分かるか?」


「その装備で殴られたとシャレにならないでダメっす。

 ナイトメアヴァンパイアなんすかこの子?

 ガチのレアモンっすね。

 精神攻撃や状態異常に特化したヴァンパイアっす。

 物理攻撃や魔法攻撃は大した事ないっすけど、威嚇、魅了、睡眠、混乱、幻覚なんかが得意っす」


 思い当たるふししかない。


「そうなんだ、あとこのロザリオはこの子のものだった」

 笹かまに、ロザリオの能力と今起きてる状況をひと通り話した。


「はー上手く出来てるっすね、忠誠さえさせてしまえば与えた能力の回収も余裕っすもんね。

 一時的に強化して戦わせて、終わったら能力捧げさせて、そんな奴が数人居れば他の能力吸って1人だけ強化とかも出来るから、かなりエグいっす」


「た、たしかに…言われてみたらそうだな…これって思ったよりとんでもないな」


「そっすね、呪われてない分たち悪いっすね」


 今日はもうこのまま帰宅する事にした。


「千紗、ミーと一緒に風呂入ってあげて」

 千紗と一緒に入れないのは寂しいが、仕方がない。


 まさか、俺まで入って3人でというわけにもいかにし。


 全員の風呂が終わった所でご飯になったんだけど…。


「普通にご飯たべれるのか?」

 魅夢はその質問に首をフルフルと横に振る。


「やっぱり血を吸うのか?」

 コクンと頷く。


「ちょっと怖いから、必要最低限にしてくれるか?」

 俺はそう言って肩を差し出した。


「良いの?」


「必要な分だけだぞ、俺が動けなくなるほど吸っちゃダメだぞ」


「うん!」

 そう言うと、首すじにそっと噛み付く。


 少しだけチクっとしたけど、ほとんど痛みもない。


 何かが吸われている感触はあるけど、想像と全然違った。


「もう良いのか?」

 ほんの数秒でもう首すじから口が離れた。


「うん、大丈夫」


「本当に大丈夫か?もっと吸って良いんだぞ」


「うん、本当に大丈夫」


 こうして、ちょっと変わった家族が1人増えた。

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