第3話 オッサン齢53歳にして野山を駆ける

 とりあえず、山師になって協会から帰ってきた。

 なんか良いように利用されてる感が拭えないが、仕方がない。


 山師固有のスキルがダンジョンサーチ、その名の通りダンジョンを探すスキルだ。


 これも適正があるらしく、適正の高い人だと半径10kmほどの範囲で探せるらしい。


 ちなみに俺は半径1km、ほぼ最低の距離なのだそうだ。


「見つかった時にすぐに駆けつけれますから、距離が短いのも悪く無いですよ」

 とか慰められたが、どう考えたって索敵距離が長い方が良いに決まってる。


 何回も使って習熟すれば範囲も広がるって言ってたしな。


 嫌でも回数使わないとならないけどな。


 半径10kmと1kmじゃ単純に10回多くすれば良いなんて事はない。


 面積で1kmが3.14に対して、10kmは314なのだ、その面積を埋めるのに100倍の回数が必要だ。


 1回のスキル発動で発見される確率は100分の1という事だ。


 割と洒落にならない。


「はぁ」

 ため息が出る。

 でもまぁ、期待はしてないよ、期待はしてないけど、万が一って事もあるし、スキル使って範囲も広げたいしね。

 いや、期待なんてこれっぽっちもしてないけど、一応ね。


「ダンジョンサーチ」

 うん、何も反応なかった。

 まぁ、そうだよね、半径1kmだし、家からそんな近いところにあるわけ無いし、うん、まぁ、見つからなくて当たり前。

 普通、普通だよ。


「くっそ!」

 あ、いや、こういうのは形式美っていうか、悔しいのは事実だし。


 …俺は一体何に言い訳してるんだ?


 なんか疲れたな、風呂でも入って今日はもうゆっくりしよう。


 そう思って、風呂に入る。


 風呂に浸かってぼーっとしてる。


 金額がなぁ、思い切ってクラス買って探索者やるにしても、どう考えても資金が足りないよなぁ


 ダンジョン見つかれば、話は変わるんだけど…。


 こんな場所で未練がましいけど、少しは玄関口から移動してるしな。

 そう思って「ダンジョンサーチ」


 …え!


 もう一回「ダンジョンサーチ!」

 反応あった!


 俺は慌てて脱衣所にあるスマホを撮りに行く。


 地図アプリを呼び出して「ダンジョンサーチ」


 …

 …

 …

「ダンジョンサーチ」

 反応が無い…え?願望が強すぎて幻覚見た?


 湯船まで戻って、バシャバシャと中に入る。


「ダンジョンサーチ」

 あった!


 え?何ギリギリ範囲内に入ってるって事か?


 手に持ったスマホの地図アプリで脱衣所から湯船の延長線上のちょうど1km辺りに、旗を立てる。


 こうしちゃ居られない、ダンジョンの申請は早いもの勝ちだ。


 今この瞬間誰かに取られれば、それで終わり。


 慌てて身体を拭いて、服を着て家を飛び出した。


「こっちだ!」

 地図アプリと実際の場所を見比べて方向を定める。


 そこは裏山の雑木林だ。


 今時こんなのが残ってると言うだけで、どれだけ僻地に住んでるかバレるな。


 雑木林の道なき道を突き進む。


 こんな場所、ガキの頃に遊んだ時か、山菜採りに連れて行かれた時以来だ。


 あーくそ!もう少し厚手の服着てくるんだった、ありこちに枝やら、草やらが刺さって痛い!



「ダンジョンサーチ」

 あっちだ!真っ直ぐ向かってたつもりだったけど、少しズレてたみたいだ。


「ぜい、ぜい、ぜい」

 若い頃ならこの程度で息切れるなんてなかったのに。


 やばい、苦しい、水持ってくればよかった。


 このまま死んじゃうんじゃ無いかってくらい息切らしながら


 這いつくばるように反応のあった場所に辿り着いた。


 そこは少し開けた場所に緩やかな坂のように窪んでいる場所だった。


 最初に見た感想は防空壕の入り口?って感想だった。


 子供の頃、まだ防空壕跡が残っていた頃に見た入り口に似てるなって感じた。


「ふう、ふう、ふう」

 なんとか息を整えてゆっくりと立ち上がり、その窪みを下っていく。


 その先には黒い渦のようなものがあった。


 協会で山師になる時もダンジョンには入っているので、この渦を潜ればダンジョンに入れるのはすぐに理解できた。


 中に入ると、協会で入ったダンジョンと全く変わらない風景だった


 壁と天井が黒く、どういう理屈かわからないが特に明かりは見当たらないのに暗くない。


 同じ構造ならば左側にプレートがあるはずだ。


 左側を少し歩いたりすぐに見つかった。


 そのプレートに手を触れる。


 協会で見たのと同じようにプレートから光が出て、それがホログラムのディスプレイ状に浮かび上がる。


 そのディスプレイにクラスのリストが表示される。


 ダンジョンクラスはおそらく違うのだろうが、覚えていないのでよく分からない。


 それよりもパーソナルクラスである。


 ゴクリ、と自分が唾を飲む音が聞こえた。


『堪忍者』

 忍者である、ニンジャなのだよ、にんじゃだってよ!


 ファンタジーでのニンジャといえば、それはもう万能の強キャラだ。


 堪っていうには堪えるとか堪えるって意味だから、避けタンクみたいな動きが出来るんじゃないだろうか?


 おそらくニンジャなのだからアタッカーも出来るはず。


 協会で見た時から視線が外せなかった。


 これを取るために山師になったようなものだ。


 震える手でパーソナルクラスを選択する。


 2億と聞いた時には無理だと思った


 協会の飼い犬になるのも抵抗があった。


 晴れて、堂々とこのクラスを獲得できる。


 光と共にクラス所得が終わる。


 山師が消えて堪忍者になった。


 俺は最高の気分でステータスを確認した。

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