第2話 オッサン齢53歳にして協会のドアを叩く

 退院した次の日に俺は1番近い探索者協会の支部に来た。


 保険のサービスで1ヶ月無料でレンタカーが借りれるのでそれで借りた車を使っての移動である。


 1番近場のダンジョンまで車で30分程度だ。


 遠いという程では無いが、車無しで通うには無理がある距離だ。


 公共の乗り物はバスしかなく、俺の住んでいる場所から直通がないので乗り換えが大変だ。


 そうなると車以外で来るのは現実的じゃない。


「無料じゃないのかよ」

 俺は1時間220円、最大1日1800円と書かれた有料駐車場を見ながら、不満を口にする。


 もしかして協会って金にガメツイとかないだろうな?


 探索者協会は、ダンジョンを探索する上で特別な能力を持った探索者たちの不当な差別などからの保護、探索者たちへの様々な支援、指導、トラブル対策などを目的とした非営利団体である。

 国からダンジョンの管理も一任されていて、事実上探索者の親玉的存在である。


 農協と農家の関係に近いかもしれない。


 もし、農協みたいな組織なら、お金には…いや、なんでもない。


 駐車場から少し歩いて探索者協会と看板が付いているプレハブ小屋に入る。


 中にはカウンターがあり、小さい市役者や区役所のような雰囲気がある。


「何かご用件ですか?」

 あまり愛想が良いとは言えない表情で、オバ…ベテランらしき女性が声をかけてくる。


「あのぉ、探索者になりたくて」


「…あなたが?まぁ、良いですけど…こちらに座ってください」

 もうね、表情と態度でいい歳して何言ってんだこいつってビンビンに伝わってくるよ。


「あ、よろしくお願いします」


「それで、どのクラスをご希望ですか?」


「え!えーっと、どのというのは?」


「こちらに来られる方は普通は色々と事前に調べてから来るんですけどね?

 ネットなどはご覧出来ない方ですか?」

 なんぼオッサンでもSNSくらい出来るわい!


「あ、いや、そんな事は無いのですが、ここに来たら説明貰えるのかなと思って…」


「はぁ、クラスにはコモン、ダンジョン、パーソナルの3種類あるのはご存知ですか?」

 思いっきりため息つかれたよ。


「えっと、どのダンジョンにも必ずあるコモン、ダンジョン毎に変化のあるダンジョン、その人特有のパーソナルでしたっけ?」


「はい、それであっています。

 基本的には優秀なクラスや珍しいクラスほど価格が高い傾向があります。

 ただ、例外はパーソナルクラスです。

 強い弱いに関わらず価格は2億円になっております」


「2億!それはもう買うなって言ってるようなもんじゃないですか?」

 クラスが有料なのは知っていたけど、高すぎだろう!


「あ、いえ、こちらとの契約さえして頂ければ、90%は協会が負担しますし、最大20年の分割払いも認められています」


「…それって、協会に飼われればパーソナルクラスにさせてやるって事ですか?」


「パーソナルクラスは非常に種類が多くクラス毎の能力も解明されて無いものも多いです。

 そのため、国からも管理と研究を最優先にするよう指示されております」

 飼われるって部分を否定はしないのね。


「それで、パーソナルスキルになるとして、どのような手続きが必要なんですか?」


「パーソナルスキルを獲得する方には協会での費用負担契約書にサインをいただきます。

これは優良な探索者の育成を目的とした支援策ですので、悪質な探索者と判断された場合、支援の停止と協会負担分の1億8000万分を含めた全額を期日までにご本人に支払っていただく事になります」

いう事聞かないなら2億払わすぞって脅せるわけね。

パーソナルクラスって協会の罠じゃないのか?


「了解しました」


「後々クラスが自分に合わないとなった場合の注意点ですが、コモンクラス同士で交換ができます。

 個人差はありますが、コモンとダンジョンは最低でも1つづつクラスのつけます。

 その場合は経験値がクラスの数分、各クラスに等分されてしまいますが」


「経験値?」


「モンスターを倒した時にクラスを強化する事が出来る何かが放出されます。

 それを便宜上、経験値と呼んでます」



「なるほど」


「それで、パーソナルクラスなんですが、これに関しては別にパーソナルスキルを持ってない限り交換出来ません。

 また、コモンやダンジョンのクラスにもつけなくなります。

 ダンジョン内で戦えるようなクラスじゃ無い場合、協会の職員に斡旋も出来ますので、その事も契約に織り込み済みな事を了承してください」


「あ、えーと、ちなみにコモンクラスやダンジョンクラスってどんなのあるんですか?」

 今の説明でちょっとパーソナルクラスになる勇気が出て来なくなった。


「どのくらいのご予算ありますか?」


「えーっと、どのくらい必要か分からなくて」


「コモンですと、戦士50万、偵察者100万、魔法士200万、治癒士400万ですね。

 ダンジョンはだいたい500万から2000万の間くらいです」


「たっか…」

 思わず口から思ってる事が漏れてしまった。


「そういう方の為に1万円山師というクラスがあります。

 このクラスはダンジョン外でダンジョンを見つけるだけのクラスですが、ダンジョンを発見出来た場合、協会に連絡する前にクラスを“間違って”修得してしまったとしても、協会としては不問にいたします」


「あぁ、ダンジョン発見の報酬代わりにクラスをやるって事ね」


「端的に言えばそうですね」


 俺はこの日から、クラス山師の探索者になった。

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