【HJ大賞5二次選考突破作品】オッサン齢50過ぎにしてダンジョンデビューする【なろう100万PV、カクヨム20万PV突破】
山親爺大将
1章 デビュー編
第1話 オッサン齢53歳にして事故る
「はぁ、今日も疲れたな」
俺の名前は剣崎鉄也、介護施設で働くケアワーカーだ。
今日も帰りの車の中でため息をつく。
もちろん体力勝負な仕事なので、肉体的な疲れもあるが、それ以上に先輩に当たるオバ様方の精神攻撃がきつい。
男性スタッフから“怪獣”と影で言われている40代後半の女性がとにかく凄い。
若い女性スタッフと年配の男性スタッフには朝の「おはようございます」の挨拶すら当たり前に無視する。
だからと言って挨拶しないと上司にあいつは挨拶もしないと告げ口する。
もの凄い小さい失敗を見つけては説教をし、失敗がない時には無理矢理こじつけてでも説教をする。
そのくせ自分の失敗は無かったことにする。
典型的なヤバい介護職員である。
そいつのせいで辞めた職員は数知れず。
「俺もやめようかなぁ、でも次の仕事決めてないしなぁ」
貯蓄もたいした無い、独身のオッサンにとって、収入のない期間が有るのはかなりリスキーだ。
そんな事を考えながら赤信号で停車する。
そんな時に、ゴウン!というもの凄い音と共に身体が浮くような感覚起きたと思ったら、さらにもの凄い音と衝撃を受けて視界が回転した。
あ、死んだ。
俺は直感的にそう思った。
そして、その時に物凄い後悔の念が襲ってきた。
「こんな事ならダンジョン潜ればよかったぁぁぁぁ」
そこから記憶がない。
気づいたら、ベッドで寝かされてた。
少しの間状況が理解できなかった。
夢でもみたのかという感覚だった。
身体がだるい。
動こうとした瞬間、身体中に激痛が走る。
「ふ、ぐっ、やっぱり夢じゃなかったかぁ」
状況はだいたい想像出来る。
後ろから車がぶつかって、交差点に押し出される。
そこに青信号側の車がさらにぶつかったんだろう。
断片的だが事故の記憶もうっすらとある。
「あ、気がついたんですね」
巡回の看護師さんが声をかけてくれる。
「身体中が痛いんですが、俺って助かるんですかねぇ?」
「事故の状況の割には大きな怪我してないですよ。
ほとんどが打ち身程度で骨折もしてないですし。
ただ、右腕だけは割れた窓で筋肉まで切れてしまってて…。
幸い神経は無事だったみたいなので通常の生活に支障ないくらいは回復するでしょうが、どうしても筋力が落ちてしまうので、リハビリは必要になりますね」
思ってた程酷い怪我じゃ無かったらしい。
安心して再度眠りについた。
それから1ヶ月半程入院していた。
早い段階で通院でも良いですよって言われたけど、ここまで通院する手段がない。
交通の便が悪く、自動車での生活前提のような場所で、家賃が安いのだけが取り柄みたいな所に住んでいたのだ。
事故で車がない状況で、後で精算すれば帰ってくるとはいえ、タクシーだと往復で7000円近くかかってしまう。
一時的とはいえ、その出費に耐えられる程貯えがない。
大した事無いような言い方だったけど、右腕も全然まともに動かないし。
泣きついて入院させてもらった。
個室料金も保険で出るし、後ろからぶつかった相手の自賠責もあるし、今後の事を考えて出来るだけ入院しておくことにした。
介護職は右腕に力が入らないという俺の言葉で、退院次第辞めさせるという事をいわれた。
まぁ、現場仕事の体力、腕力勝負な職場だし、しょうがない。
それでも、1カ月半も居ると、退院しないですか?という圧力が強くなる。
ほぼ毎日「退院予定はいつですか?もちろんいつまでも入院してて構わないんですが、今ほぼ満床でして」
みたいな事を言われる。
そういうわけで、退院を決めて、明日にはここから出ていく事になった。
「どうしたものかな」
普通に考えれば、もう少し腕力を必要としない介護職に再就職が普通の行動なんだが…。
思ってた以上に体力と腕力が落ちている。
やっていけるんだろうかという一抹の不安が離れない。
そして、それ以上にあの事故の時に強烈に思った後悔。
『ダンジョンに潜っておけば良かった』
これが頭から離れ無い。
4年ほど前に、この世界にはダンジョンが現れた。
まるで、予期してたかの如く国が即座に対処してそれほど大きな事件は起こらなかった。
当時49歳だった俺は、「ダンジョンって言ってもなぁファンタジーじゃあるまいし」
と、思ってた。
所が本当にダンジョンだったのである。
剣と魔法のファンタジーの世界まんまのダンジョン。
魔石が取れ、探索者と呼ばれるものたちが活躍する世界。
年齢を言い訳にして見て見ぬふりをしてきたが、ずっと興味があった。
50過ぎのオッサンが何を言ってると思うかもしれないが、その年代はちょうど中学生くらいにファンタジーが流行り、高校生くらいにRPGやライトノベルが流行った世代である。
ファンタジー系ヲタクの先駆者のような年代だ。
俺もそちら側の人間だった。
年齢で完全に諦めていたが、今回のことで自分がどれくらい未練があったか理解した。
「冒険者、いや、探索者っていうんだっけ、やってみるか」
そう決めると年甲斐も無くワクワクした気持ちを抱きながら。
入院生活最後の眠りにつくのであった。
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