個性

@ksk19g

第1話

 小学生の頃私の目に輝いて見えたのは広島弁でしゃべる転校生だった。聞いたことのないかわいらしい語尾、それを恥ずかしそうに少しうつむく顔、クラスメイトの興味深い目。そのどれもが鮮烈だった。結局時間がたつと、クラスメイトの興味の目も落ち着いてきて彼女もただのクラスメイトになったがそれでも彼女は私の憧れだった。

私は大学の授業の後アルバイトへ向かった。20歳のお祝いにとまとまったお金をもらったのだが、それも少なくなり3ヶ月前からチェーン店の飲食店でアルバイトを始めたのだ。特にこれといって大きな買い物をしたわけではないが、収入がたまの派遣バイトだけだったので、口座の残高は緩やかと確実に減っていった。それがまるで段々としゃべれなくなっていって最終的には動かなくなった祖父みたいで、私は急いで仕事を探した。いつもより声を高くして、賢く見えるように「ええ」と相づちを打ちながら、こうして私は一命を取り留めることに成功したのだ。

アルバイト先につくと下を向いて素早く更衣室へ向かう。まだ勤務は始まっていないのにニコニコと大きな声での挨拶を求められことが耐えられず最近はずっとこうしている。更衣室は人が2人入るには小さい大きさでロッカーも少し錆びていて犬小屋みたいだ。蛍光灯も白すぎるくらい嫌に光りながら、低い低音をブーッとならす。不気味さをよりいっそう増大させていてやっぱりここはナチスの収容所みたいだ。いいすぎか。それでも私はこの場所が大好きだ。すぐそばで誰かが働いているのに、座ってスマホをだらだら触っていられる。私ただ1人がこの優越感を独占できることがたまらなく嬉しい。できることならばいつまででもここに居続けたい。ここで結婚式を挙げたら優越感でビシャビシャになるに違いない。しかしそんな願いもかなことなく、私は制服に着替えて17;00ギリギリでホールへと向かった。キッチンにむかって挨拶をした後、店長に挨拶をしながらタイムカードをおす。

「よろしくね。ギリギリだよ、もうちょっとはやくきてね!」

と素晴らしい歓迎をうけ早速やる気がなくなってしまった。何も悪いことはしていないはずなのに反論の余地がない。私にとってはこっちの世界が収容所だった。

 

 

  

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