最強相手に雑魚キャラで挑むやつがいるらしい


「バケモノだなんて…

 レディに向かって失礼な人ね」


おっと口に出てたか、

まぁシオン相手に気を遣うのは逆効果だ。

傲岸不遜な態度の方が生き延びる確率は高い。

やり過ぎると即死だけどな。


「またダンマリ?

 さっきの発言には本音が滲んでいたし、

 私としては会話を楽しみたいのだけど?」


「…隊長の頭を切り飛ばしておいてよく言うぜ」


会話しようとするやつのすることじゃないだろ。


「あの人隊長だったのね。

 誰もかれも同じにしか見えなくて」


実際実力差はそこまでないからな。

力量差でしか相手を見ないコイツからしたら

同一人物と言ってもおかしくはない。

…いや、

だとしても同じやつ殺しといて良く話しかけれるな。


「貴様ぁ…っ!」


1人の隊員の怒りを皮切りに、

俺を除いた隊員たちが一斉に攻撃態勢を取る。


「馬鹿野郎動くな!」


閃光

俺以外全てが肉塊と化す。


「…クソッタレが」


「口が悪いのね」


結局俺以外全滅かよ。

なるべくなら生き残って欲しかったが、

シオン相手に贅沢言ってられないか。


「敵に礼儀は要らねぇだろ」


「あら?今のを見てまだ敵対する気なの?」


「…なんだと?」


お前俺を殺す気なんじゃねぇの?


「俺達を始末しに来たんじゃないのか?」


「元々はそのつもりだったわよ?

 でも今は興味深い存在の観察が優先ね」


優先ってことは、興味を失えば用済み。

殺すことに変わりはなさそうだな。

あわよくばノーリスクで

生き残れたらと思ったんだが、

そう上手くはいかないか。


「とりあえず振り返っていいか?」


「お話してくれる気になったかしら?」


「ひとまずな」


どうせコイツは話終わった直後に俺を殺す。

なら仕掛けて来るタイミング知ることができ、

その時コイツを

視界内に入れておける状況を断る理由はない。


「フフッ…ならいいわ。さぁ、お話しましょ?」


ゆっくりと振り返る。


陶磁のように白い肌

艶やかな黒髪のロングストレート

戦場に似合わない鮮やかな色留袖

至極色の星空の様な瞳

妖艶な笑みを浮かべる桃色の唇


…そしてその周囲に浮かぶ無数の刀


とんでもない美少女ではあるが、

美しい薔薇には棘がある。

その棘が即死レベルなのはどうかと思うが、

まぁともかく…


「初めまして、シオン・フォン・アガペー。

 最強にお会い出来て光栄だ」


「あら、お世辞でも嬉しいわ」


「世辞は言わない主義だ」


そう、シオンに会えたこと自体はとても嬉しい。

コイツ相手に激闘を繰り広げた日々を思い出す。

今の俺はあの時ゲームよりかなり弱くなっているが。

それでもあの時の高揚感は強く焼きついている。


「へぇ…本当に変わってるのね、貴方」


「変わってるって…どの辺がだ?」


「クローン兵なのに感情が豊かなところよ」


…そういやこの世界のクローン兵は

感情が薄いんだったな。

だがそれは俺達には当てはまらない。


「俺達は元々廃棄予定のクローンが集められた

 捨て身上等の偵察部隊だ。

 感情制御なんざ最低限しかされてねぇよ」


事実他の隊員はキレた結果肉塊になってるしな。


「だとしても自由意志が

 強過ぎるような気がするけど?」


「…俺は色々とイレギュラーだからな」


っとこれは喋りすぎた。

思わず口に手を当てる。


実はこの体は色々と異常だ。

転生していることはもちろんだが、

剣術も武器選びも特殊装備も

全てが他の隊員と違った。


他の隊員をそれとなく観察したが、

剣術は王道のラインハルト流とオロチ流だけ。

ブレードは物理特化のtype-1と

魔力特化のtype-3のみ。

特殊装備は簡易結界と光学迷彩で

『鬼薬』など論外である。

俺が転生する前から

明らかに『ID-MH4771コイツ』は異質だった。


「ふぅん…ならもしかして、

 帝国の支配から抜け出してたりするのかしら?」


…あぁ、そういうこと。

なんで俺とわざわざ話すのかと思ってたが、

そういえばお前の目的はそれだったな


「残念ながら、そこまでじゃねぇよ」


今俺がコイツと仲良く談笑できてるのは、

あくまでも情報収集の一環と判断されているからだ。

叛逆行為と見なされれば、

その瞬間俺は人から爆弾に早変わりするだろう。


「…そう、それは残念だわ。本当に」


…こっちへの興味がなくなったか。

次で談笑タイムは終了だな。


「楽しい会話だったわ。お礼として…」


来る!


「苦痛なくあの世に送ってあげる」


瞬間、シオンの周囲に浮かぶ刀の一本が消えて…


閃光



………………



「…死んだわね」


ちょっとしたアクシデントもあったけど、

あのクローン兵は離れた位置に吹き飛び、

血塗れで倒れている。


「せっかく手掛かりがあったと思ったのだけど、

 今回もハズレだったわね」


帝国のクローン兵を

帝国の支配から解放する方法なんて、

やっぱりないのかしら。


「…何かしら」


こちらに向かってくる気配が三つ。


「…っちだ!こっちから戦闘音が…」


戦闘音に釣られた者達がいるらしい。


「ちょうどいいわ。

 憂さ晴らしでもしておきましょう」


「ここだ!って帝国兵!」


「でも死んでる…あそこの人がやったの?」


「多分…?」


出てきたのはやはり3人。


白っぽい薄橙色の肌。

白と黒のコントラストの短髪と、

同じくモノクロのコート。

そして金色の瞳を持つ、

刀を持つ少女。


少々日に焼けた薄橙色の肌。

赤いポニーテールと、

真っ黒な軍服。

そして髪と同じ赤い瞳で、

スナイパーライフルを持った少女。


褐色の肌。

真っ白なロングストレートの髪。

露出の多い民族的な衣装。

茶色の瞳で、

大きな大剣を背負う少女。


「こんな戦場で女の子だけの小隊…

 なるほど、最近話題の小隊の子達ね?」


「わ、私達のこと知ってるんですか!?」


驚いた様子の白黒の少女。


「あら、貴方達は有名人よ?

 最近軍に入ったのに、獅子奮迅の大活躍だって」


「そ、そう言われると照れるわね」


シオンの言葉に照れたし表情をする

白黒の少女と赤髪の少女。


「…貴方は誰?」


褐色の少女だけが、油断なくこちらを見ている。


「まずはそちらから名乗るのが礼儀ではなくて?」


「そ、そうですよね!ごめんなさい!」


白黒の少女が勢いよく頭を下げて、

そのまま話す。


「私の名前はレギンと言います!」


「私はサーシャ・クライウェルです!」


「…ウィルカ」


白黒の少女…レギンと

赤髪の少女…サーシャが即座に名乗り、

少し嫌そうに褐色の少女…ウィルカも名乗る。


「レギンとサーシャ、それとウィルカね。

 私はシオン・フォン・アガペー…と言えば

 分かるかしら?」


「それって…」


「世界最強の名前!?」


「…」


驚くレギンとサーシャ。警戒を強めるウィルカ。


「そんな人と会えるなんて!」


「あ、アナタがここの人達を倒したんですか!?」


キャーキャーと黄色い声を上げる2人。


「そうなんだけど、少し嫌なことがあったのよね」


「そ、そうなんですか?」


「わ、私達が力になれるなら、

 なんでも言ってください!」


悩ましげにため息を吐くシオンに、

純粋な少女2人が相談に乗ろうとする。


「なら…」


「…っ!2人とも!下がって!」


「「えっ…」」


閃光

いつの間にか2人の前に出ていたウィルカが、

抜刀していた大剣を砕かれながら吹き飛ぶ。


「憂さ晴らしに付き合って頂戴?」


「ウィルカ!?」


「何をするんですか!?」


ウィルカを心配するレギンと、

シオンを批難するサーシャ。


「別に私はなんでもするって言われたから、

 したいことをしただけよ?」


「憂さ晴らしって…」


「味方を攻撃するなんて!」


「私がいつ連合国の味方なんて言ったの?」


「…っあ」


「そんな…」


顔面蒼白になる2人。


「っ…アァッ!」


恐怖に歪んだ表情で、

それでも刀を振りかぶりシオンに飛び込むレギン。


「…ハァ」


閃光

袈裟懸けに切り裂かれ、

血を吹き出しながら吹き飛ぶレギン。


「レギン!」


「期待のルーキーと聞いていたけど…

 所詮はこんなものかしら」


サーシャがレギンに駆け寄るのを見ながら、

失望した目を向けるシオン。


「これなら玩具にもならないわね。

 さっさと始末して他を探しましょうか」


そう言い、再び周囲の刀を向けるシオン。


「くっ…ぅ…」


「こ…こま…でか…な?」


「ヒッ…助けて…」


ウィルカ、レギン、サーシャは動けず、

それぞれが死を悟る。


閃k「"雷、切ィィ"!」


刹那

突如飛び込んだ人影は

つんざくような金属音を鳴らしながら、

絶死の閃光を弾き飛ばした。



………………



俺に向け、閃光が振り抜かれるその瞬間。

俺は手を口に当てた時に含んでいた『鬼薬』を

噛み砕き、ステータスを大幅に上昇。

自身のブレードに最大限魔力を込めて

横合いから俺の首を刎ねようと飛んでくる刀を

受け止めた。


当然刃は即座に砕け、俺の首に刀が迫るが

その時ブレードに込めていた魔力は暴発、

小規模な爆発を引き起こし

俺を後方へ吹き飛ばす。

避けきれず首がある程度切り裂かれるが、

刎ねるとまではいかない。

無論動脈を切られている為、

どのみち致命傷ではある。


血を吹き出しつつ吹き飛び、

地面に体が投げ出される。

生きている場合、

攻撃された以上戦闘を続行しなければ

叛逆と見なされるが、

俺は『鬼薬』の効果で筋肉が断裂しており、

故に叛逆と見なされることはない。


この間に氷魔法で止血するように見せかけ、

瞬時に頭に魔法を叩き込み、

自爆装置を凍結させる。


自爆装置は頭の脳の付近に埋め込まれており、

それによってクローン兵は支配されている。


だがこの自爆装置には

内部装置に魔力が浸透すると

機能停止するという弱点がある。


炎や雷では爆発機構が誘爆し

水は外装に弾かれて有効打になりにくく

土や風は脳などをを傷つけずに

装置に影響を与えるのが困難。

故にこの処置には氷魔法が最適である。


またこの処置は自爆装置の位置を

正確に知らねばならない為、

即座に爆発するか

装置ごと破壊されることの多いこの世界では

まず不可能な芸当である。

俺は設定資料集を読み込んでいた

前世の自分にとても感謝したい。


支配から抜け出した後、

すぐに自己再生を発動させ

傷と筋肉の断裂を修復しつつ、

死んだふりをする。


これぞ俺の生存戦略!

正々堂々?ジャイアントキリング?

クソ喰らえだね!

俺は泥に塗れてでも生き残る道を選ぶね!


そうしてシオンが去るのを待っていたんだが…


「私の名前はレギンと言います!」


なんで来るんだよ主人公!

クッソ想定外だ。

アイツらはシオンが去った後

しばらくしてから来るはずだろ!

なんで……


(…俺のせいだぁぁぁ!?)


そうじゃん!俺が話長引かせたからか!

そのせいでシオンの滞在時間が長くなって、

結果的に鉢合わせか!

マズイぞ、今のシオンはどうあがいても不機嫌。

絶対主人公達を殺す!


(…だからなんだ?)


別にここはゲームじゃない。

主人公達が死んでもなんの影響も…


(いや…)


戦争が終わらなくなるな。

それは困る。

俺が生き残る上で戦争終結は必須条件だ。

だからこれは仕方ない、仕方ない行為だ。


「…誰に言い訳してるんだか」


ゆっくりと立ち上がる。

俺が吹き飛んだこともあって、

シオンとの距離は大分離れている。

ここなら察知されない。


「…」


ブレードの刃を付け替える。

type-2で良かった。

他の型の方が耐久力は高いが、

アレに対してはそう変わらないからな。


ソーサリーグレネードのスイッチを押し、

背後に放り投げる。

体を前傾に、手をダランと下げ、

全身の力を抜く。


「レギン!」


主人公が吹き飛ぶ、もうすぐトドメだろう。


「させねぇよ」


体をさらに前に倒す。

床と体との距離が近づき、ゼロになるその瞬間…


「ッ!」


爆発

衝撃により体が吹き飛ぶ瞬間、

地面を全力で蹴りつける。

地面を罅割れさせながら加速し、

今まさに振り下ろされる死へ向かう。


「"雷、切ィィ"!」


技を叫ぶ。

絶死の閃光へ向けて、雷光を放つ。

バカみたいな重さの一撃を

横から刃を叩きつけて、

どうにか弾き返す。


万象一切我が身を捉えず

それがタケミカヅチ流"雷切"だ。


まだ俺は未熟だから、

今回は爆発による加速も併用した。

反動が酷く、体のあちこちが軋むが無視する。


「よぉ最強、

 俺を忘れて他に浮気たぁいい度胸だなぁ?」


目を丸くしているシオンに告げる。

シオンの顔から驚きが消えていき、

代わりに怪しい笑みが浮かぶ。


「貴方、死んだんじゃなかったの?」


「生憎地獄には嫌われててな。

 お嬢さんからの熱烈なラブコールに応えてこいと

 三途の川から送り返されちまったよ」


シオンはますます笑みを深める。


「随分と情熱的な口説き文句ね。

 さっきまでのつまらない男はどこへ行ったの?」


「面倒な枷を外したもんでね。

 自由になったんだから、

 女の一つでも口説かなきゃ男が廃るだろ?」


シオンは少し目を見開いた後、

楽しそうに笑う。


「あらあら、

 口説くための手土産まで

 持ってきてくれるなんて、

 そんなことまでしてもらって

 応じない女はいないわよ?」


「そりゃ良かった。

 カフェにでも行くかい?

 遊園地?水族館?

 いきなりホテルなんてのもありだぜ?」


「とても素敵ね。でも私は…」


シオンの言葉を紡ぐたび、

刀が煌めき、星が瞬く。

俺も構えをとる。

鉛色の刃に星の光が反射する。


「この星空の元で踊っていたいわ」


俺達は見つめ合い、嗤う。


「仰せのままに、マドモアゼル」

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