無双ゲーの無双される側に転生したので、ネームド達を避けつつ生きていき…たかったなぁ?

不四三

転生して二時間後に死の運命が待ってるんだが?

無双ゲーというジャンルを知っているだろうか。


とある人気ゲームを源流とする

1人で大量の敵を豪快になぎ倒す爽快感が売りのジャンルだ。


俺の転生したゲーム『リベリオン・デュプリケート』通称『リベプリ』もそんな無双ゲーと呼ばれるゲームの一つだ。


魔法と科学が発展した世界での

クローンを用いた代理戦争というダークな世界観や

個性的なプレイアブルキャラ達等から

人気のある作品で、

記憶喪失である主人公『レギン』が

唐突に反旗を翻したクローン達や

敵国の軍勢を相手に仲間達と共に戦いながら

自身の記憶や世界の真実に迫っていくというのが

主なストーリーとなっている。


かく言う俺も前世ではこのゲームの虜となり、

隠し要素を含めてコンプリートしたり

縛りプレイやコンセプトプレイなど

様々な楽しみ方で遊びつくしたものである。


さて、

30人以上のプレイアブルキャラが登場する今作であるが、

転生と言われると

正にこの中の誰かに転生すると思うだろう。

だが、俺はこの中の誰でもない、

しかし操作できない

モブキャラというわけでもない。


「いいか?俺達の任務は

 敵勢力に現れた未確認戦力を確認し、

 場合によっては始末することだ。

 分かったな?」


「「Yes,sir!」」


(…マジかよ)


俺は、無双系には

たまにある新キャラのお披露目回

その際にイベント内限定で操作できる

やられ役の部隊の隊員の1人

『ID-MH4771』として転生したのだった。



………………



「はぁ….」


ため息を吐きながら自分の腰を見れば、

ゲームでよく見た武器

『量産型カーボン製ブレードtype-2』が

ぶら下がっている。


(本当に『リベプリ』の世界に

 転生したんだな…)


俺は今、

自分の所属する帝国軍の野営地で

自分にあてがわれたテント内に座り、

どうにか生き延びようと頭を回している。

出発は10分後であり、

会敵するのはおそらく2時間後だ。

それまでにどうにかして対策を練らなければならない。

何故ならば…


「対策できなきゃ死ぬだけだ…」


何しろ無双ゲーの

新キャラお披露目のやられ役だ。

新キャラに派手にやられるのがお仕事の為、

このままでは普通に死んでしまう。


逃げればいいと思うかもしれないが、

この世界の兵士…主にクローン兵には

自爆装置が埋め込まれており

命令違反などを検知したが最後、

俺の体は粉々に吹き飛ぶことになるだろう。


「かと言って戦ったら絶対負けるしな…」


俺が戦う…というか

蹂躙される予定のキャラの名は

『シオン・フォン・アガペー』といい、

簡単に言えばぶっ壊れキャラである。


登場する時期こそ中盤の今だが、

操作できるようになるのは

合計3つのDLCにて追加されたものを含む

全てのストーリーをクリアし、

裏ボスである彼女を倒した後と

本当に最後にしか操作できない

公式公認のチートキャラであり、

1モブである俺では

逆立ちしても勝てない人物だ。


「マジでおかしいんだよなアイツ」


現在の主人公が大体レベル35なのだが、

今の俺のレベルは60とかなり高い。

実は俺の所属する部隊は

質より量の帝国にしては珍しく優秀で、

主人公側にも知られているほど

名の知れた部隊なのだ。


だがそんなちょっとのアドバンテージなど、

彼女の前では塵に等しい。

彼女が操作キャラに加入する際、

主人公の最大レベルが100なのに対して

彼女は初めからレベル200であり、

その状態で手加減してるらしい。


正直言って頭おかしい。

お前が主人公やっとけよマジで。


と話が脱線した。

とにかく俺はそんな奴相手に生き残る策を

このたった2時間で考えなければいけない。


「とりあえず装備の確認だな」


何しろイベントで動かしただけのモブだ。

装備なんざ武器以外使えなかったので

持ち物の確認からすることにした。


「…割と色々持ってるな」


まずブレード

コイツは量産型シリーズの中でも

かなり特殊で、

片刃で刃射出や起爆のギミック付きであり、

使い捨ての刃を交換する方式を取っている。

いわゆるゲテモノ枠だ。


次にマークスマンライフル

これは軍共通の銃の一つで、

サプレッサー付き。

癖のない使いやすいものだ。


「ゲッ…なんでこんなもん持ってんだよ…」


次に出てきたのは赤色の錠剤3つ。

これには非常に見覚えがある。

これは『鬼薬』という使い捨てアイテムで、

これを使うとそのキャラは

一瞬だけステータスが大幅に増大するが

即座に筋肉が断裂し

行動不能になるピーキーな代物だ。


「こんなもん使うのは

 RTAか

 無茶苦茶なプレイする時だけだぞ…」


負けイベ破壊やボスを即殺する為ならいいが、

普通に使えば一撃入れた後

無様に隙を晒す雑魚が出来上がるクソアイテムだ。


「後は…」


次に出てきたのは手榴弾が2種類。


片方は『フラググレネード改』、

通常より範囲が狭くなった代わりに

爆発の威力が上がったモデルだ。

もう片方は『ソーサリーグレネード』、

魔力の爆発を引き起こす特殊手榴弾だ。


「良かった…こっちはテンプレ構成だ」


攻撃力重視のビルドにおける

最適解がこの2種類だ。

俺もこの構成にはお世話になり、

その為一番使い慣れた構成でもある。


「後は支給品の軍服と…携帯食料くらいか」


なんともまぁ心許ない、

前世の俺がこれでシオンに挑めと言われたら

クソゲーとして封印し、

二度と起動しないだろう。


「…能力の確認でもしとくか」


この世界の軍人は基本的に

複数の武術や軍用魔法を修め、

そして人体改造による

特殊能力を持っている。


「人体改造は…無難に自己再生か」


自己再生は最も安牌な能力で、

任意で発動すると

10秒間大きく再生力を向上し、

部位欠損レベルでなければ

ノーコストで回復させる。

部位欠損なども欠損部位を繋ぐ、

不足分のタンパク質や

カルシウムを摂取する等で

再生可能だ。

一応心臓など生存活動に重要な部位が

破損した場合、

他の部位を犠牲に再生することもできる。

ただ再生速度は速いとは言えない為、

保険程度に考えておくべきだろう。


「武術は帝国軍式体術と…

 タケミカヅチ流剣術?

 また随分とマイナー流派を…」


タケミカヅチ流は、

独特な構えからの不可視の連撃による防御と

無動作からの神速の一閃の攻撃の

二面性を持つ、

極東から伝わった片刃剣を用いた剣術だ。


この流派、

実はその習得難易度から

かなり扱う人が少なく、

また同じく片刃剣を用いる流派のオロチ流が

他の流派と比べても

習得が用意なこともあり、

作中で登場する使い手は

後半にいる中ボスのみとなっている

悲しい流派だ。

まぁ…


「あの中ボスは

 かなりの詰みポイントだったよな…」


今までのボスは

なんだかんだスペックのゴリ押しが

通用したが、

あの中ボスはレベルが89と高く、

主人公がレベル100でも

しっかりと技を理解しなけば負けるという

無双ゲーにあるまじき事態となっていた。

そしてこのボスへの最適解こそ…


「シオンなんだよなぁ…」


そう、このボスなんと

シオンこそが圧倒的対抗策なのだ。

この流派は圧倒的な手数による防御と

反応する暇もない攻撃が厄介なのだが、

それらをシオンは完封できる。


「まさにクソゲー極まれり、

 せめてその中ボスなら

 どうにかなったのに…」


今の俺はその下位互換と言っても

差し支えないのだ。

どうしろって言うんだよ。


「魔法は…氷魔法?

 マイナーなものばっかりだな…」


氷魔法は属性魔法の一つで

デバフと攻撃、防御と多方面に使えるが、

魔法の中でも特に使い手が少ない。

花形である炎魔法や雷魔法と比べると

範囲や威力で劣り、

防御特化の土魔法や回復特化の水、

サーポト特化の風と比べると

使い所に困るというまさに不遇な魔法だ。


「こんな魔法どう使えと…ってああぁ!?」


俺は思わず椅子から立ち上がる。

そうだ!氷魔法にはアレがある!

今の状況だと氷魔法必須じゃねぇか!

なんて都合の良い展開!


「いやまぁ最強に挑む時点で

 都合が良いもクソもないが!」


だがこれならどうにかなる!

生き残るって条件は

この装備ならギリギリだが達成できる!


「おい!そろそろ出発するぞ!」


「は、はい!」


…さぁ、時間だ。

俺の生死を決める大舞台だ。

泥水啜ってでも生き残ってやるから

覚悟しやがれ。

クソ運命が!



………………



「敵陣営付近に到達!各員索敵陣形!」


しばらく移動した後、

隊長の指示に従い警戒態勢を取る。

ゲームではオートで動いてくれていた。

今回は自分で動くので大丈夫かと思っていたが、

体に染み込んだ動きは忘れないらしく

どう動けばいいかはやれば分かった。


「ヘンカーから報告、西側クリア」


ヘンカーとは俺のコードネームだ。

意味は…処刑人とかその辺だったはず。

他のメンバーからの報告を聞きつつ、

前方へ進んでいく。


「…!止まれ!」


隊長が何か発見したらしい…

…まぁよく知ってるけどね。

このイベントは別に

俺達がやられるだけで終わるわけじゃない。

俺達がある程度戦い、

強さを証明した後かませ犬となるのだ。


「敵部隊だ!戦闘準備!

 敵はまだこちらに気づいていない!

 仕掛けるぞ!」


「「YES,sir!」」


即座に攻撃態勢へ移行し、

一斉にライフルを構える。

相手はクローンとはいえ人、

無論人殺しにはなるが…


(…まぁ初めてでもない。なんとかなるか)


「…総員!一斉射撃!」


覚悟を決め、トリガーを引く。

黒い死神は持ち主の呼び掛けに応え、

咆哮と共に死を運ぶ。

死神の鎌は獲物を見定め


「ガッ⁉︎」


敵指揮官の寿命を刈り取った。


「敵襲!敵しu」



「落ち着け!冷静に対s」



「攻撃だ!敵の攻g」



こちらに気づき、

態勢を立て直そうと

指示をするやつから撃ち抜く。

頭は酷く冷めていて、

感情は暗く沈んでいく。

軍人とはこういうもので、

人を殺すというのは

こういうことなのだろう。

きっと俺はこれからも沢山の人を殺す。

だから、俺は謝らない。

この人達に失礼だろうから。


「クソッ!よくも仲間を!」


どれだけ即座に

撃ち抜いてもやはり取り零すもので、

こちらに反撃する奴らが増えてきたので

ライフルを捨てブレードに切り替える。


「ハッ!そんな時代の遅れの武器なんざ」


抜刀

切り上げの一刀で一人切り伏せ


「っ!?テメ」


返す刃で次首を落とす。


「このっ!」


遠距離から小銃を向けられる。

それが放たれる前に剣を持つ右手を水平に、

左手を前方に出し、構えを取る。


「くたばれ…!」


毎分650発を吐き出す悪魔が咆哮し、

俺に死の嵐が降りかかる。


「…"雷雲"」


ボソリと技名を呟き、弾丸を見据え…


「…シッ!」


切る  断る  斬る


右腕を狙う死を切り落とし

左足を貫く運命さだめを断ち切り

心臓を穿つ因果を斬り捨てる


万象一切我が身に触れず

それこそがタケミカヅチ流"雷雲"である。


「なっ…!?」



「…ばけ、もの」


…いやいや、

俺なんざまだまだバケモノには及ばんよ。


血を振り払いつつ納刀し辺りを見渡せば、

他の隊員も戦闘を終えたようで、

敵は1人残らず殲滅されていた。


「…殲滅確認、これより事後処理に移る」


そうして死体や血溜まりの処理に移る。

実はここの隊員は皆

風魔法か氷魔法が使える。

風魔法は音を消すのに役立つが

氷魔法なんざ何のためにと

思っていたのだが、

血を凍らせて吹き散らしたり、

死体を凍らせた後

塵にしたりしているのを見ると

魔法も使い方次第だと思い直した。


別に『リベプリ』はR18-Gではない為、

出血表現などがなく、

こういった後処理などは描かれなかった。

こういう現場を見ると、

まだ見ぬ魔法の使い方に

思いを馳せてしまう。


…それにしても俺は

死体や血溜まりを見ても

なんとも思わないな。

仮にも人を殺したのにも関わらず

吐き気も嫌悪感も、罪悪感も感じない。

これは多分、クローンとして作られた時に

その辺の感覚を弄られてるんだろうな。

確かそんな設定があったはずだ。


「…処理を完了した。任務を続行する」


「「YES,sir!」」


さて、そろそろ出てくるこ「こんにちは」


………は?


「貴方少し変ね?何者かしら?」


待て


「それと、

 この部隊は優秀と聞いていたのだけど…

 気のせいだったのかしら?」


待て待て


「あぁでも…

 私、

 弱い人達の違って分からないんだったわ。

 ごめんなさいね?」


お前の行動はそうじゃねぇだろ。

なんで隊列ど真ん中の俺の後ろにいんだよ。

お前は部隊の前に悠然と降り立つはずだろ。


「あら?驚かせちゃったかしら?

 そのつもりではきたけど…

 そんなに驚かれると少し面白いわね」


ふざけんなテメェのせいで色々台無しだよ。


俺は今振り返れない、

振り返れば死ぬからだ。


「…何、者だ」


動揺を抑えた声で隊長が尋ねる。

そりゃそうだ。

俺達は全方位を警戒しながら来たのに、

唐突に懐に現れたのだ。

しかも…


「誰が喋っていいと言ったの?」


この威圧感だ。

間違いなく強者と分かる気配。

相手を見下したような口調。

間違いねぇ…コイツが


「でもまぁいいわ、名乗ってあげる。

 私はシオン・フォン・アガペー

 最強よ」


「…っ!総員戦闘たi」


閃光

いつの間にか隊長の首が飛ぶ。


「あらごめんなさい。

 うるさかったものだから、つい」


全く太刀筋が見えなかった


おかしい、

コイツは本来こういう行動じゃないはずだ。

何か変わる要素でもあったか?


…まさか俺か?

変だとかなんだとか言ってたが、

まさか転生に勘づいて

行動を変えやがったのか?


「フフッ…」


余裕そうな笑い声が聞こえる。


あぁ、まったく、この…


「…バケモノめ」

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