第3話

 今から5年程前に主の両親は飛行機事故で帰らぬ人となった。結婚してからほとんど旅行などしたことがなかった。最初、父は渋っていたが、母の説得に応じ飛行機を使い東北への旅路だった。留守番をしていた主がそのことを知ったのはドラマを観ていた夜だった。突然、緊急のニュース速報のテロップが流れた。主に嫌な予感がよぎったがにわかに信じられなかった。

 そして主は天涯孤独となった。それからの4年間は好きだった自転車にも乗らなくなり、仕事のない休みの日も部屋に籠ることが多くなった。悲しみは浅くはなく月日は主の心を闇で覆い過ぎていった。

 休日の午後、サイクリングを終えた主が部屋のドアを開ける。やはり私の住処には視線をやらず、ウェアーを脱ぎデスクへと向かい合う。遅くなったが主の名前はノズルと言う。両親が亡くなって5年程が経ったくらいから気持ちも落ち着き、休日は趣味の自転車に跨るようになった。同好の友はいないようで、独りで走り、独りで食す。仕事の休みの日は誰とも一言も話さず過ぎることも少なくないようだった。普段はコンビニやスーパーの惣菜を買い、米だけを炊いて食事としているのだが、月に一度作る料理があった。それはカレーライスだ。おぼつかない手つきで野菜を切り、肉を炒めて煮込み始める。カレールーは市販のものを使う。1時間くらいで出来上がり、独り食卓でスプーンを沈めた。黙々と一口三口進み、一つため息をついた。「うーん何かが足りないな~」と呟き、テレビの上の遺影に視線をやるのだった・・・・

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