第6話 西園寺の秘密
俺は自身の刀身をチェックし問題がないと分かると、鞘に抑えたその時ーー
「きゃあああアアアアア!!」
およそ、この山で聞くはずのない甲高い女の声が上がる。
声がした先を見ると西園寺がペタンと座り、自身の胸を抱いていた。
その様はまるでーー
「おんな?」
俺に斬られた服と腕の間から見える、慎ましやかながらも確かに存在する乳房はまごう事なき女であった。
「みっ、、み見るなーーー!!」
再度、西園寺は叫んだ。
「お願いだから、見ないでくれ」
そして、力無く乞い泣き出した。
「はぁ〜〜」
それを見て、俺はため息をつく。
正直、泣かれるのが一番困る。
今までなら、甘えだ何だ言って蹴飛ばす所だが、女で将来有望な剣士だ。
あまり強いことを言って、潰れてしまっては敵わん。
「まぁ、泣くなよ」
どうしていいか分からず、思ったことを口にした。
西園寺の隣に腰を下ろす。
西園寺は胸を見られるんじゃないかと思って、体の向きを俺とは反対側に向ける。
「実は俺、お前が女で少し安心したんだぜ」
「は?どういう意味だ?」
西園寺は聞き捨てならないと聞き返す。
「ちょいちょいお前にドキドキしててよ、まさかお前が女だとは思わなかったから、もしかしたら俺はホモなんじゃないかってドキドキしてたんだよ」
「それは………何というか複雑な気分だ」
西園寺は俯き、大きなため息をつく。
そんな弱ってる西園寺がちょっと面白くて追撃する。
「でも確かに、いま思い返せばヒントっぽい所あったよなぁ」
「な!それはどこだ!!」
西園寺は俺に覆い被すように、身を乗り出して尋ねる。
「おい、見えてるぞ」
そのせいか、破れた制服の間から胸の先が見えていた。
俺は紳士だから、それを黙って楽しむなんて事はしない。しっかりと指摘したる。
「ひゃん!みっ、見たか?」
さっきから、随分と可愛らしい声が出るな。
「見た」
「素直に答えるな!そこは嘘でも見てないと言え!
返答に困るではないか!!」
「いや、無理があるだろ!俺はそんなゴミみたいな嘘はつかないんだよ!」
「だとしてもだ!!」
理不尽だ。俺は何も悪くないはずなのに。
「はぁ〜〜」
ダメだこりゃ。
「それで、どんな所がヒントだったんだ?」
んん?ああ、話が戻るのか。
「やたら撃ち合いの時に軽かったな、とか。
むさ苦しい男子校で、西園寺だけがいい匂いがすんなーとか。
まぁでも、やっぱり風呂だな。
普通に、コソコソしてて怪しかったし、やたら顔を真っ赤にしてて恥ずかしがってたからな」
あとは風呂場でのお前がめちゃくちゃエロかった。
でも、それは流石に言わないでおこう。
また変に照れて会話が通じなくなったら面倒だ。
「やっぱりかーーー!?
そうよね。そうだと思ったんだよ。
だから、3日目くらいから風呂入らないようにしたんだけど、それじゃあ意味なかったか〜〜」
「あ〜確かに途中から風呂で見なくなったな。
それでもあんなに、いい匂いがしてたのか」
「うるさいバカ死ね」
弱々しく呟いて、俺の単体側にコテンと倒れる。
「うう〜〜、もうダメだ。
私は………わたしは…ただ…………守りたかっただけなのに」
やばい、ダウナーに入った。
ここはフォローしといた方がいいか。
「クラスの奴らはお前が女だとは解釈していないと思うぞ」
「なっ、何だって?」
ガバッと起き上がり、薄ら笑みを浮かべる。忙しいやつ。
「どちらかと言えば、ホモだと思ってる」
「安心したいけど、安心できない。けどひとまず安心したわ」
別にいいんだけど、女だってバレたから口調や話し方なんかが女っぽくなってるな。
と、西園寺はよいっしょっと口にしてから、一度居住まいを正しく。
「一つお願いがあるの」
何となくお願いとやらが何となく想像できるが、黙って話を聞く。
「私が女であることは、秘密にしてくれ」
そりゃそうだよなと言った感じ。
こちらとしても特に、西園寺が女だとバラす理由も利益もないのだで、頷いておく。
「ああ、もちろんだ」
「ありがとう」
西園寺は一つ頷き、西園寺は俺の手を掴む。
そしてーー
「そして、これから私が他の学生に女だとバレないように、協力してくれ!」
「………はぁ?」
なんか、すげぇ面倒くさい事をお願いされてねぇか?
「お願いだ!
私でも分かってる。このままでは、いつか私が女だとバレて退学させられてしまう事くらい。
でも、どうしても私はこの学校を去る訳にはいかない。
この学校でやらなければいかないことがあるんだ!!」
そう言って、西園寺は俺を押し倒す。
「分かった。分かったから。胸隠せ」
そのせいで、何とか繋がっていた服が破れ、先程まで何とか隠せていた女性らしい起伏に富んだ胸がとうとう露わになった。
再度、俺が指摘する。
「きゃあッ!?」
「ちょッ、おい!」
今度は体勢が悪かったのか疲労か知らないが、腕が折れ俺の顔面に胸ごとダイブする。
「イヤアアアアアアああ!!!」
取り乱した西園寺に思いっきり頬ビンタされた。
###########################
「いってー」
「ううっすまない」
赤く腫れた頬をさすりながら、項垂れる西園寺と共に寮に帰っていた。
「それに、ありがとう。服を貸してくれて」
俺のせいで服がビリビリに破れてしまい、そんな状態で歩かせられる訳もなく、西園寺にはツーサイズは大きい俺の学ランを着せている。
「気にすんな。安いもんだ、服の1着くらい」
「貸してくれたくらいで、カッコ良すぎるだろ!」
俺のボケに西園寺がツッコむ。
「ふふふふふ」「あはははは」
まるで普通の学生みたいで、何だか笑えた。
ひとしきり笑うと西園寺は腕を擦り合わせてーー
「夢咲の匂いがする。あったかいな」
「………………」
急に女っぽい事言うのはやめて欲しい。
こいつが女だと思うと急に気になってくるな。
そうやって、俺が悶々としているとーー
「それで、どうだろうか?私に協力してくれないか?」
西園寺は前を向いたままーー
「しゃーねーな。俺が出来る範囲で力を貸してやるよ」
「本当か?」
「ああ」
「本当の本当だな!」
「ああ!」
「本当の本当の本当だな!!」
「ああ!!」
「やったーー!」
西園寺は嬉しそうにガッツポーズまでしている。
大層な事は出来ないんだがな。
「そうしたら、早速協力をお願いしたい」
「ふん、遠慮せずに言ってみろ」
「お風呂に入りたい!」
無理じゃね?
そう思った。
………。
………………………。
………………………………………………。
「邪魔するぜー」
そう言って、大浴場に足を踏み入れる。
「おおぉ〜」「相変わらずデケェ」「来たか夢咲」
大浴場にいたクラスメイトたちが声をかけてくる。
それに適当に返事しながら、ずんずんと進み浴槽まで行く。
「もっと、ゆっくり歩いてくれ」
背中には、前部分を見られまいとピッタリとくっつく西園寺。
そのせいで、俺の背中がフニフニする。
そして、そんな状態を指摘されない訳がなくーー
「ん?なんか後ろに引っ付いてねぇか?」
チャラ男がそれに気づく。
「確かに虫みたいだな」「ん?あれ?西園寺?」「何で夢咲の後ろに隠れてんだよ」
そして、他の奴らも気づき出す。
アア!どう言えば自然に返せる!納得させられる?こんなの変すぎる無理だろ!!
自分史上こんなに焦り取り乱した事はないんじゃないかというほど、心の中で叫ぶ。
「あっっと、これは、、、えっと」
自分でも信じられない程、キョドり声が詰まる。
「あっ………いや、そういう事か。すまん、何もない」
そうして俺が何も出来ずにいると、チャラ男が何でか一人納得し出す。
あ?どう言う事だ?
「気にせず、続けてくれ」
俺と何故か西園寺に言うとチャラ男はーー
「みんな!出よう!!」
クラスメイトたちに大浴場を退出する事を促す。
「え〜やだよ、もっと浸かりてぇ」「何でこいつらに譲らなきゃいけないんだよ」
最初は嫌がっていた奴らもチャラ男が何かコショコショと吹き込むとーー
「あ、そういう」「な、なるほどな」「まぁまぁまぁ、そういう事なら仕方ねぇ」
急に意見を変え、遠慮し出す。
「俺たちは出るからよ」
「は?意味わからん。いいのかよ?」
「いいのいいの、気にすんな」「今度なんか奢れよ」
「じゃ、ごゆっくり〜〜」
クラスメイトたちはチャラ男に従って、大浴場から去っていった。
「「………………………」」
そう後、数分お互い無言で見つめあいーー
「とりあえず、入ろうぜ」
広い浴場で二人っきり、浴槽に入った。
数分、無言で浴槽に浸かる。
「………………………」
気兼ねなく風呂を満足出来る筈なのに無理だ。
めちゃくちゃ居心地悪い。
やばい、何か話題。なんかねぇかなーー?
「アアーー」
上を向いてボーッとしていると、向こうから話しかけてきた。
「ペテン師の夢咲はどうして、この学校に入ったの?」
特に重たい理由がある訳でもないので、軽く答える。
というか、サラッと罵倒されたな。
「強い奴に会って、剣を交える為だ。てか誰がペテン師だ。誰が」
「だって、そうだろ。
さっきの仕合の剣は、間違いなくこの国最高峰の剣だ。
だっていうのに授業では手を抜きまくってる。
これでペテン師じゃなければ、何なんだ」
「チッバレちゃあしょうがない、そうだ俺がペテン師だ」
「そういうのはいいから」
カッコよくキメたのだが、雑にあしらわれた。
「はぁ。別に。ただ変に注目するのが煩わしいだけだ。
名誉や金やらを求める剣士は三流以下。
俺が求めているのは、命を賭けた剣と剣のぶつかり合いだけだ」
淡々とハッキリと告げる。
「………………」
俺の言が西園寺の琴線に触れたのか、西園寺はその後ずっと推し黙っていた。
その後、声をかけるような雰囲気でもなく、俺たちは無言で浴槽に浸かっていた。
「俺出るわ。お前はどうする?」
「私はもう少しいる。
この時間なら、誰も浴場には入ってこないだろうから」
「分かった。それじゃあな」
それから数分して、浴場を出る際にーー
「………例え、その在り方が剣士に在るまじきだとしても、私には必要なんだ」
そんな独り言を聞いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます