第3話 俺に隠されたもう1つの自分
汚くてせっまい寮部屋に、似つかわしくない美男子が腕を組んでいた。
しかも怒られた。
「はぁ?」
「土足で上がるな」
「何で?別に俺の自由だろ」
「アホか、常識だ。
お前はアメリカ人か。
ここは日本だ。部屋に上がる時は靴を脱げ」
めちゃくちゃ、キレられた。
「そうなのか………知らんかった」
俺は靴を脱いで部屋に上がった。
「お、おぉ言ったらやってくれるのか」
なんだか、知らないが西園寺は驚いていた。
「ハッ、なに驚いてんだよ。
お前が脱げって言ったんだろ」
「いや、意外と聞き分けが良いなと思ってな」
「別にお前への嫌がらせでやってる訳じゃないからな」
西園寺は喜ぶと思ったが、肩を落として「はぁ〜〜」盛大にため息を吐く。
「それだったら、本当に駄目なんだな」
呆れていた。
あれ〜〜?
俺に敵意がない事は伝わったっぽいけど、友好関係を築くにはまだ遠そうだ。
ひとつ、西園寺の反応に結論が出ると、喉が渇いてきた。
適当にキッチンまで行き、蛇口を捻る。
蛇口に口を近づけてーー
「蛇口に直に口をつける奴があるか!
頭を思いっきり、シンクに叩きつけられる。
ガチーーーーーン!!と額をぶつける。
「いったーーーー!!」
「お前はバカなのか!馬鹿なのか!?馬鹿だろ!!
それは常識ないとか以前に気持ち悪いだろ!」
西園寺は俺の耳元でピーピーピーピーと甲高い声で叫んでいる。
取り敢えず、謝っておく。
「ああ?怒んなよ。
しゃーねーだろ。蛇口なんて初めてなんだからよ。
謝ってんだろ」
「一度も謝ってないが?
お前の口から『ごめんなさい』を一回も聞いていないぞ。
まぁしょうがないか。見るからに『ごめんなさい』を言え無さそうな顔だもんな」
「おい、顔で決めんなよ。
てか、お前ここぞとばかりに朝の仕返ししてくんじゃねぇ。性格悪いぞ」
西園寺は朝
ーーーそれがまさか「ありがとう」も言えない礼儀のなってない育ちの悪い奴だったとは分からなかったぜ。
俺が言ったことを根に持っていたのだろう。
なかなか、性格が悪そうだ。
まぁ、いいか。
取り敢えず、ここら辺でこちらが譲歩してやろう。
部屋に入って5分、ここらで切り上げないとプラス10分はかかりそうだ。
そう思って。俺は学生鞄を放り捨てて制服を脱ぐ。
「おおおおおおい!急に裸になるな!!
バカ、アホ、服を着ろ!」
「いや、別に変じゃないだろ。
男同士なんだし、気にすんなよ」
これは流石に非常識ではない筈だ。
はずなのだが、西園寺は顔を真っ赤にして、目に手をやり顔を逸らす。
時折、チラチラとこちらを見てくるのが気にかかる。
しかも、ゴニョゴニョとーー
「かなり、鍛えられた良い身体をしている」
なんて呟いていた。
その反応があまりにも乙女のようで、こいつは本当にホモなんじゃないだろうかと思った。
その反応がすこぶる居心地が悪くーー
「わり、服着るわ」
何より、こいつに好きになられる前に急いで服を着た。
しかも初めて謝った気がする。
###########################
そうして俺と西園寺、各々適当に時間を潰していると、コンコンと部屋がノックされた。
「おーい、次は3組の風呂の番だぞ〜〜」
順番を伝えに来てくれたモブに適当に答え、俺たちは着替えを持ち部屋を出た。
この寮は洋館のような作りになっているらしく、鳥瞰すればまるで鳥のような形になっている。
その中で、大浴場は中央館の奥にある。
更衣室に入ると大体30人くらいの男たちが、むさ苦しく全裸になっていた。
「俺たちが、最後らしいな」
隣の西園寺に声をかける。
「……………」
が、無視。
というより、心ここに在らずといった様子だ。
「おい、おい、おい、大丈夫か?」
「………………。え?なっ、何が?」
「いや、なんか顔が青いからよ。大丈夫かって」
全裸になりながら、尋ねる。
「へ?ひゃ、あっえキャ」
すると、西園寺は熟れたりんごのように真っ赤になる。
「おいおい、本当に大丈夫かよ」
西園寺は見るからに困惑し、取り乱し呼吸すらままならなくなっていた。
「はぁはぁはぁ、俺は大丈夫だから、夢咲は先に行っててくれ」
一人にしてくれ。
西園寺は暗にそう、告げていた。
しかし、さすがに放っておけないと言おうとしたがーー
「でも、お前」
「お願いだ」
キッパリと拒絶されてしまった。
「ああ、わかった」
強引に保健室やらに連れて行けるはずもなく、また連れて行こうとも思わない俺は、そのまま西園寺の言う通りに大浴場に向かった。
一人、脱衣所に西園寺は残されていた。
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ガラガラガラと引き戸を開けて中に入る。
大浴場はタイル張りの至ってオーソドックスな銭湯といった様子。
俺は身体を洗うために蛇口の前に行き座る。
蛇口を捻ると水が出る。
桶に水が溜まるのを待っているとーー
「結構いい身体してるじゃねぇか」
そう言って隣に座ってきた。
やけに身長が低い。おそらく160センチくらいだろう、そいつは確かーー
「誰?」
「ひどっ!」
「うるせぇ」
「またまた酷い。俺だよ、俺。山田だよ」
「知らんわ」
「もういい、じゃあこの機会に覚えて!」
なんか、騒がしい奴に捕まったな〜。
そう思いながら、隣の山田を見る。
金髪で両耳にピアスを開けている見るからにチャラそうな奴。
身長は160くらいの低めで、中肉中背。
正直、特に強そうには思えない。
実際、臥薪と戦っている所を見ている筈だが、全く琴線に引っかかっていないと言うことは、俺の興味を引く程のレベルでは無かったと言うことだ。
「まぁ、覚えれたら覚えるよ」
「なに、その行けたら行くみたいな感じ」
チャラ男は何が面白いのか分からないが、ケラケラと笑っていた。
汗を流し終えると、湯船に浸かる。
「西園寺とはどうよ?」
なんでか知らんが着いてきたチャラ男。
「そんなの知らん。
まだ、1日目だぞ」
「それもそうだな」
沈黙が支配する。
ああ、風呂は良い。
熱く熱く熱しられたお湯が筋肉を解し、弛緩させる。
一日の汗と一緒に感情が流される。
お陰で、今日一日の出来事でフラットに思える。
その中でふと、同居人である西園寺が頭に引っかかった。
「なぁ?西園寺って名前は有名なのか?」
「んっ?ああ。
夢咲くんは知らないんだ。珍しいね」
「どうした?調子悪いなら出たほうがいいぞ」
「いやいや、ちょっと気まずくて色々考えてた」
「ああ?」
「なんでもない。
それで?西園寺だっけ?
確か道場に訪れた客人を斬り殺したとかじゃなかったっけ」
チャラ男は簡潔に口にする。
「ふん、意外としょうもない理由だな」
剣士が人を殺したとかで非難されるとは、都会の剣士は生ぬる過ぎる。
所詮、人間は自身の剣を高める糧でしかないのだ。
最強の剣士はこの世で最も人間を斬り殺した人間であり、剣士の世界では斬り殺した人間の数が物を言う。
まぁでも確かに、丸腰の人間を殺すのは賢くはないな。
戦えない生きる意志を持たない人間など幾ら殺しても意味はない。
そんなものを殺すなら、俵にでも打ち込んでればいいのだ。
「ははは、まぁ正直俺もそんなのどうでもいいけどな。
面白いやつか面白くないか。
俺の中の基準はそれだけさ」
チャラ男は適当に笑って、立ち上がる。
「それじゃあ、俺はもう行くよ。
夢咲くんはどうする?」
「俺はまだ残っている」
「そっか、のぼせて気絶しないように気をつけろよ」
チャラ男はそう言って、大浴場から出て行った。
浴場には俺を含めて数人だけが残り、広い浴場を広々と使えて、気分が良かった。
そんな大浴場に、一人入ってくる人物がいた。
「西園寺だ」
今頃かよ。
もう、入浴時間はあと10分くらいだ。
西園寺は顔を左右に振り必死に身体をタオルで隠しながら、死角になりそうなところを探して入り込む。
「ああ?」
そのやたら、挙動不審な行動に違和感を覚えながら西園寺を見ていると目が合った。
お湯がかけられた顔は、めちゃくちゃ綺麗でガン見してしまった。
その西園寺は顔をいっぱいを赤らめて、俺から目線を離し丸まってしまった。
その反応もやたら可愛い。
そう心の中で思いーー
「俺は男色の気があるのか?
男子校に入って、たった一日で性欲が男の方に行くなんて」
流石に自分でもがっかりした。
###########################
風呂から出て、消灯の時間。
二段ベットのどっちが上で、どっちが下かで軽くモメながらも俺が大人な対応を見せて、無事決定した。
「よく言うよ。
じゃんけん一回勝負と決めたくせに、実はあっち向いてホイだったとほざき、その次は指スマだと駄々をこね、挙げ句の果てにはそれら三つを三連勝した方だとゴリ押ししてきたくせに」
ベットの下から俺を侮辱する声がする。
「だま」
俺は一言口にする。
「まぁ、俺がストレート勝ちした時の貴様の無様な顔に免じて許してやる」
西園寺はそう言って、愉快そうに「ククク」と笑った。
「なぁ、夢咲」
まるで血に塗れた刀のような声で俺の名を呼ぶ。
「俺の邪魔をしてくれるなよ」
西園寺はそう忠告して数分後には眠りについていた。
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