第2話 相部屋の男
「自己紹介は終わりだ。
仲良しこよしをする必要はないが、犯罪が起きない程度に仲良くしとけよ」
今まで緩みきっていた顔が急に、真剣な表情をし出す。
「よし、次はこの学校の仕組みについて教える。
この学園は基本的には他の全寮制男子校と変わりはない。
英語や数学、社会に国語、理科と座学を学ぶ。
しかし、やはり普通の学校でもない。
剣士を育成する学校だ。
それに倣った制度がある。
それを『
『仕合制度』とは生徒全員に日頃の授業態度や定期試験の成績などで考慮し順位を与え、学園全体で1位から10位の上位の生徒には学園側から様々な特別待遇を与えると言う仕組みだ」
なるほど。
確かに、特殊だろう。
普通の学校とやらを詳しくは知らないが、普通は生徒に待遇の差を与えたりはしない。
あくまで学校側は公平であろうとすると教えられた。
「先生!それじゃあ、毎回同じ生徒で固まってしまうのではないでしょうか?」
そういって、教師に質問を投げかけたのはーー
「いい質問だ、山田」
そう、無流派の
金髪でピアスを開けている身長160センチ程度のチャラチャラした奴だ。
「そう、授業態度なんぞは心意気一つでどうとでもなるが、頭のデキの差はどうしたって埋められない。
それに、この学校はあくまで剣士を育成する学校。
座学のできる頭のいいやつなんざ、求めてない。
とにかく剣が強ければいい。
そのため手っ取り早く順位の交代をするには、決闘を申し込み一対一の勝負で勝てば交代する事が出来る」
ほーん。
つまり、一つは頭が悪くて剣が強い奴を拾い上げるためにあるのか。
でも、そしたら手当たり次第仕合を挑む奴が現れるんじゃないのか?
そんな疑問はすぐに解消された。
「しかし、それではやたらめったら仕合を挑む馬鹿者が現れるだろう。
そういう輩が出てこないように、リスクが設けられている。
上級生が下級生に挑まれた場合は、無条件でその決闘を受けなければいけない。
下級生が上級生に挑まれた場合、挑まれた下級生は上級生に対して、何か一つ条件や報酬を要求することが出来る。
そして、同学年での仕合の場合は任意に要求できる」
確かに条件を加えるのは良い手だろう。
そうする事で、受ける側にもメリットが生まれ、簡単には仕合を挑めなくなるだろう。
「とりあえず、恒常の特別なシステムはこんな所だ。
また、その時々のイベントに合わせて特別なシステムが明かされることがあるから、それを頭に入れておいてくれ」
そう、言って締めくくり次の話に移る。
「次はみなお待ちかねの寮の相部屋発表だ」
臥薪がそう言って何処からか、くじの箱を取り出す。
するとクラスが湧き立つ。
「フューー!?」「よっしゃあ!待ってました!!」「楽しみだぜ」「このくじに俺の三年間が懸かってる」「頼む、いい奴であってくれ」「田宮以外で頼む」「山田とがいい!」
早速、嫌われてるやつと好かれてる奴がいるらしい。
「静まれ、お前ら。やするぞ。まずは111号室。
ジャガジャガジャガジャガジャガ、ジャン!!」
箱に両手を入れて掻き回す。
その際に、臥薪は自分で効果音をつけていた。
その様は子供みたいで、見てるこっちがちょっと恥ずかしかった。
臥薪、意外とノリいいんだな。
「まず一人目は………デン!!西園寺」
お決まりの効果音の後に、名がよばれる。
「そのパートナーは……………デン!!夢咲」
なんとなく、そんな気がしたわ。
これまでの西園寺との絡みが盛大なフリになってた気がしたのだ。
正直、俺としては幾ら臭いだの汚いだの不潔だの言われようと、全く気にしない。
ぶっちゃけ誰でもいいのだが、向こうは違うようでーー
「はぁ!?チェンジでお願いします。1番ありえない人選だ」
おそらく西園寺の中では、1番嫌であったろう人物とマッチングし、抗議を申し立てる。
しかし、ここは男子校。
そんな生ぬるい事は通用しない。
「無理に決まってんだろ」「おもんな」「シラけるようなこと言うな」「受け入れろや」
生徒たちから中々に酷い否定をされる。
なんだか、当たり強くないか?
まぁ、さっきの噂が関係してるんだろうがな………。
「まぁまぁ、西園寺のやつも照れてるのさ、俺とペアになって」
席から立ち上がって、西園寺を擁護する。
すると、途端にーー
「何言ってんの?キモすぎだろ。おまえホモかよ」
なかなかに、エッジの聞いた事を言ってきてくれる。
「確かに、今のキモい」「あっぶねぇーあいつじゃなくて良かったわ」「な、ケツの穴がやばかったぜ」
めちゃくちゃ勘違いされているが、まぁ狙い通り西園寺のへの悪口が止まったからいいが。
しかし、言う事は言っとかないとな。
「しばくぞ、クソカスどもが」
悪態をつきながら、ちょろっと西園寺を盗み見ると悔しそうに俯いていた。
俺の視線に気づくと、西園寺は俺の目を見てーー
「くれぐれも俺の気に障るようなことはするなよ」
そう言って、席に座った。
ほう、何とも気が強いやつだ。
##################
「この125号室で最後だ。
まだ、名前を呼ばれてない奴いないな?
特別な事情がない限り、変更は無しだ」
臥薪は教室を見回して、特に声が上がらないことに頷く。
「そしたら、お前ら教室から出て、グラウンドに行け。
お前らの剣を見る」
臥薪がそう言って、俺たちは教室から出た。
ぞろぞろと臥薪を先頭に、生徒たちがついていく。
俺も最後尾に続いた。
グラウンド。
山をいっぱいに使った、だだっ広いグラウンド。
それを囲むように立つ緑色の木々。
俺たちはそれぞれ刀を持つ。
「そしたら、俺はお前らの実力がどんなものか知りたい。
一人ずつ、出席番号順に俺と打ち合いをしてもらう。足立!こい」
そう言って、足立は臥薪の前に立つ。
「どこからでも、かかってこい」
臥薪は余裕そうに言う。
「お言葉に甘えて」
そう言って、足立は右上段から剣を振り下ろす。
それを臥薪は受け止めて、スナップを軽く回転させる。
すると、足立の刀が巻き上がり宙を飛ぶ。
「つぎ!」
足立が下がり次の人物が前に出る。
「よろしくお願いしまっす!」
一人、また一人と臥薪に向かっていった。
それが5人、10人、20人と積み重なって行くうちに、俺の心は荒んでいく。
こんなものなのか、この学園は?
低すぎる。あまりにも程度が低い。
こんなの俺の同胞の奴らの方が、まだマシだ。
パワー・スピード・スキル、全てにおいて劣っている。
わざわざ、こんな所まで来たと言うに、ろくに俺を満足させられないとは、本当にしょうもない奴らだ。
が、しかしまだ見込みのある奴はいる。
山田と田宮のみだ。
「つぎ、西園寺!」
「はい!!」
鋼を打ち鳴らしたような美しい声を響かせて立つ。
西園寺は日本の刀を持っていた。
ほう、二刀流か。
「ふん、小賢しい」
おそらく、教師にはあるまじき発言だろうに、誰も指摘しない。
俺は全く知らないが、どうやら西園寺流はかなり悪名高いらしい。
「行きます」
西園寺は腰を低く落とし走り出す。
細くしなやかな身体を活かしたスピード。
西園寺は臥薪の視界外から二刀を振り上げる。
臥薪はそれを後退する事で回避する。
しかし、西園寺は逃がさない。
さらに、距離を詰めて、臥薪に一切隙を与えない。
左手のうちにある刀を足元に向けて右から左に一閃、右手のうちにある刀を臥薪の顎に向けて振り上げる。
「悪くない」
呟く。
この学園に来て、初めて笑みが浮かぶ。
しっかりと殺意が籠っている。
剣士たるものそうでなくては。
「フン」
「ハァッ!」
臥薪は足元に迫る凶刃と地面からの一刀を跳躍して回避する。
臥薪は着地すると、一瞬で距離を詰める。
弾丸のように一直線に西園寺に迫る。
西園寺はそれを回避せず、受け止めようとした。
しかし、それは悪手。
「ぐはッうう!」
まるで、大の大人にタックルされた子供のように吹き飛ぶ。
ザラザラな地面に背中から着地。
まぁ、そりゃそうだ。
「見るからに非弱そうだからな」
辛うじて刀を片手で振り回す力はあるようだが、ふんばりは無さそうだ。
しかし、見所はある。
「なかなか、悪くない」
西園寺と相部屋になった時はガタガタ五月蝿い奴だとウザったらしかったが、面白くなりそうだ。
その後、何人かのあとに俺の番が回ってきた。
俺は適当に手を抜いて、やり過ごした。
それから、数時間ほど剣術の鍛錬を行い、寮に帰った。
寮はグラウンドから歩いて数分の場所にコンクリート張りの近代的な様相を呈していた。
正直意外だ。
ハッキリ言ってこの学園はボロい。
校舎や体育館の床はボコボコで偶に底が抜けていたりする所もある。
だから、寮もカスいと思っていた。
しかしーー
「何でこんな綺麗なんだ?まぁ、いいか。ラッキー」
気分ルンルンで寮に入った。
適当に地図を見て、自分の部屋番号を探す。
「見つけた」
エントランスを抜けて、右に曲がる。
俺の寮部屋である111号室は一階の東館の端にあった。
「ただいま………ってなんじゃこりゃ」
上機嫌で扉を開いたら寮部屋の惨状に驚く。
板張りの部屋はボコボコに抜けておりカビまみれ、天井は空いている。
信じられず部屋から出て廊下を見比べる。
「廊下はめちゃくちゃ綺麗」
廊下は質のいい気張りの床でピカピカに磨かれている。
コンクリート張りの壁はとても高級感がある。
だと言うのに、部屋はボロボロ。
「意味わからん」
まぁ、取り敢えず受け入れて部屋に上がるとーー
「靴を脱げ靴を!」
キレられた。
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