~飛行機部との出会い~
ついに念願の東英大学に合格した。
若干、まだ肌寒さを感じる3月初旬、合格発表の1時間前から全裸待k、、、正座をして、家にあったかなり世代遅れのノートパソコンの前で待機していた僕は、パソコン上に表示された合格という字をみて、喜びとこれから始まる一人暮らしに胸を膨らませていた。
1年間、好きだったゲームや、動画配信の視聴を封印し、家はもちろん、休み時間、通学時間、果てはトイレの時間まですべて勉強につぎ込んだ甲斐あったというものだ。思えば、時間があれば、単語帳なり、数学の参考書なりを開いていたので、昔はあれだけ勉強、勉強とうるさかった両親が、「たまにはなにも持って行かずにでれば?」というほどであった。
僕の名前は、高倉和也。この春から東英大学1年生となる。中学生の時に図書館でふと見つけた戦闘機の本をきっかけに飛行機が好きになり、高校時代に入っていた科学部では、顧問の先生からの言葉を、あの手この手で言い逃れ、大会のための研究そっちのけでグライダーをよく作っていたものだ。高校時代で最も学んだことは、この言い逃れの能力なのかもしれない。先生、あのときはご迷惑をおかけしました、、、。
僕が合格した東英大学は、航空関係の研究で有名で、もちろん僕はそこにひかれてこの大学を志望した。残念ながら、僕の出身県からはかなーり離れていることもあり、おかげで高校から同じ大学へ進学した友達は一人もいない。
まあとりあえず、よく頑張ったよ自分!この1年間封印した分、大学は、めちゃめちゃ遊ぶぞー。
とか思っていたのもつかの間であった。
「あー、全然遊ぶ時間ねえー。」
大学は、ぜんぜん遊べなかった。大学は人生の夏休みという話は嘘だったのだろうか。単純に、授業が難しいし、参考書に答えは書いてないし、レポートがきつすぎる。すべての運命は理系を選んでしまったときに決まっていたのだと、自身の選択を恨んでいると、机の上の電話が鳴った。
「レポートの進捗どんな感じ?」
電話先の声が発した。
「うーん、いまんとこ実験方法まで書いたところー。そっちは?」
「俺はいま考察だな。」
「はやっ。負けたわ。」
やはりこいつにはどうにも勝つことができない。少々負けず嫌いな僕は、少しパソコンのキーボードをたたくスピードをあげた。
今さっき、僕が進捗において敗北を喫した相手は、水谷流星という。まだ、入学して2週間ぐらいしかたっていないが、割と気が合い大学では基本流星と一緒に行動している。
気が合うといっても、大学で競い合うという存在ではなく、すべてにおいて流星は僕のスペックを上回っていた。大学の授業で課題が出ると、いつの間にか終わらせているし、今のようにレポートの進捗も負けるし、聞いた感じ運動もできるらしい。僕が勝っていたのは、これまで僕がマロンブックスで買ったり、コミケで買ったりとせっせこ集めた同人誌の数ぐらいである。
流星の出会いは、入学式のあとのガイダンスであった。
大学は全くといっていいほど、土地勘のない場所にあったため、僕は緊張と不安とワクワク感に従って、高校時代ではありえないぐらいの余裕をもって家を発つことにした。
かなーりゆっくり歩いていたつもりであったが、会場付近に到着したのはなんとガイダンスが開始される時間の1時間も前であった。
これはまずい、どうにかして時間をつぶさねばと思い、とりあえず会場の下見でもするかと思って、会場の入り口まで行くと、驚くべきことに僕と同じ時間に着いている人がいた。
そこにいた相手は、まさにスポーツ男児という体格をしており、まるで夏の甲子園でエースをはっていそうな爽やかさをはなっている。
会場であるホールの玄関口まで行き、しばらく少し離れたところでスマホをいじっていた。しかし、誰もいない場所に2人しかいないという状況である。やはり、この状況には気まずさを感じるようになってきた。
それから少し考えて、勇気を振り絞って話かけてみることにした。こんな早くに着くようなやつなどなかなかいないし、外からはわかんないけどなにか自分と同じ匂いを感じるような気がする。類は友を呼ぶ!こいつは間違いなく“るいとも”だ!適当に流れてきた動画にも、大学では自分から話しかけることが大事って言ってたしな!
「すみません、ガイダンスに参加する1年生の方ですか。」
さっきまで、心の中であんなに意気込んでいた様子からは想像できないような響きが、僕の口から発された。
「はい、そうですけど、あなたもですか?」
少し怪訝そうな顔をして相手は答えた。
「はい!こんなはやい時間にくるなんて奇遇ですね。」
僕は苦笑いしながら答えた。
「いやー、まさかこんな時間に着くとは思っていなくて!誰もいなくて少し不安だったので、人がいて安心しました。名前を聞いても?」
「僕は高倉和也といいます!僕も不安で、高校ではいつもギリギリだったのにすごく早く家をでたら、こんな時間に着いちゃって。」
「俺も同じですわ。俺の名前は水谷流星といいます。せっかくなんで、そこらへん回りながら話しませんか。」
それが、流星との出会いであった。
この後は、メッセージアプリのRINEの交換をしたり、大学内の博物館にいったり、適当に周辺をぶらついたりしてガイダンスの時間まで暇つぶしをし、ガイダンスで学科長とかいろんな教授の話を聞いて、その日は家に帰ったのであった。
僕が、あのときも来る時間の早さで負けてたなと回想にふけっていると、
「そういや、和也はサークルとか決めた?」
と、突然流星が聞いてきた。そういや、大学ではサークルに入ることがかなり重要らしい。人間関係、過去問、あわよくば彼女もできるかもしれないという話を聞いたことがある。
「うーん、まだ特に決めてないかな。流星は?」
「俺も、まだかなー。一応Towwiterで新歓の案内をみる用のアカはつくった感じだな。」
「ほへー。そういや、まだなんもやってなかったわ。いまから作ります。」
そういって、急いで新歓用のアカウントを作ることにした。正直こういう感じのSNSは全然やってこなかったので、勝手がよくわからなかったが、適当に案内にしたがってアカウントを作った。それから、適当に東英大学のサークルを調べていると、
「東英大学人力飛行部 Riih ~一緒に飛行機をつくりませんか~」
という投稿を見つけた。
少し見てみると、毎年夏に行っているダイダロスコンテストというものに出場しているサークルらしい。あまりがっつり見ていたわけではないけど、テレビでやっているのを見つけたときはちょくちょく見ていた。
飛行機好きとしては、このサークルは外せない。しかも、見学はいつでもやっているそうだ。
「流星、Riihっていう飛行機作っているサークルがあるらしいんだけど、いってみない?」
「飛行機をつくるサークル?」
流星が、ほんとにそんなの作れるのかとでもいうようなテンションで聞いた。
「なんか毎年夏にやってる大会に出てるらしくて、一から飛行機を設計して、制作してるらしい。」
「ふーん、正直サッカーとかアメフトらへんが気になってはいたけど、せっかくだし行ってみるとするかな。」
「そうこなくっちゃ、ちょっとDMおくってみるわ。」
そういう感じで人力飛行部の見学をすることになった。正直、DMを送るという経験はこれまでもちろんやったことがなかったので、短い文をなんども見直し、意味もなく部屋の中を歩いたりしたのち、深呼吸をして送信ボタンを押した。飛行機をつくるサークルとは、果たしてどんなサークルなのだろうか。
湖上の飛行機乗り @Horosawa
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