ハイパフォーマー思考 高い成果を出し続ける人に共通する7つの思考・行動様式

文献情報


・Author

 増子 裕介, 増村 岳史

・ISO Code

 ISBN-13 978-4799329207


感想


 実のところ、特にないです……。


 まずはじめに言っておくと、私はハウツー本をあまり好まない。多くの場合、肯定的に読めば論理的に見えても批判的に読めば反例がポロポロと出てくるか、多くの書籍が同様の結論に着地するためである。もちろん、新しいモノの見方が得られるという点では面白いし、考え方が参考になることもあるのだが、ハウツー本からしか得られないものでもないので「手法」に主眼をおいた本としてのハウツー本は興味が薄い。そして、意図を「正確に」伝えるという点では筆者の主張を補強するために行われる舵取りが腹立たしいものも多いから、その点では少し好きではない。


 とはいえ、書痴と呼ばれるほどではないにせよ、本を平等に読んでおきたいという思想の下で、電子書籍の読み放題に上がってきたものをたまに読んだりするのだ。そのため、感想文である以上は好評不評に関わらずハウツー本の感想も書いておくべきだろう。そう思い、Amazonが提供するKindle Unlimitedから適当に一冊選んで感想を書くことにした。そのため、この話に関しては特に共有したいというわけでもなく書いたことをここで明言しておく。


 さて、内容について触れる前に、この本の刊行年が2022年であることに注意されたい。この本で何度かコンピュータ(あるいはAI)と人間の比較が出てくるが、現在となってはかなり時代遅れの認識であることは覚えておくべきだ。AIはクリエイティブなタスクが苦手である(あるいは連想が苦手である)から、そのような能力を鍛えるべきであるという論調であるが、もはやこのような意見は一笑に付されるであろうことは様々な大規模機械学習モデルが示している(そもそも本質的に「創造的」であることが良定義されていない状況であるが)。とはいえ、連想や思考の能力が必要でないということもないであろうから、その実現の一つの手法として読むのが良いだろう。


 この本の論理展開は次のようなものである。まず、仕事に対する能力について専門的能力である知識などの「アプリ」と使い回しが可能な能力である行動様式などの「OS」に分けることができると主張する。次に、各環境(ここでは「会社」)において成績が良い個体(社員)から共通項を抽出することが可能であると主張する。ここで、成績の良い個体(ハイパフォーマー)の共通項としてモチベーションの所在を述べ、非好成績個体群の有意な量が(少なくとも部分的に)ハイパフォーマー化するためにはこのモチベーションを利用して「OS」をアップデートすることが重要であると述べ、その方法論を展開する。そして、著者の観測から7つの行動様式が多くの環境で優勢であると述べ、実際のハイパフォーマーのインタビューを例示しながらその行動様式の具体化を行う。最後に、環境に強く依存した場合の各論を例示し、その他トピックスをいくつか紹介した後にこの本は「チェックリスト」を与えて終わっている。


 述べられている主張については否定する材料も特にないが、2024年現在となってはだいぶ陳腐化した主張に思える。7つの行動様式についてはここに述べることはしないが、やはり陳腐化したものであるように見える。この本がパイオニア的位置付けであるかは私の預かり知らぬところではあるが、実例による納得を求める場合は例示が豊富であるこの本は適すると言えるだろう。


 実例や各論に興味がない場合はこの本の主張は以下のようにまとめられるだろう。すなわち、「行動や立場を固定化せず、問題を自分事として受け止め、自分以外の視点を持つことを心がけ、周囲の好成績の個体を真似ることで、自らも成績を向上できる可能性がある」と言うことである。あるいは、もっと単純には以下の通りである。すなわち、「心を尽くし、いのちを尽くし、知性を尽くして」「隣人を自分自身のように愛」するのだ。


 総じて、新規性のある話題ではなかったが、自身や所属組織の行動原理を見つめ直すための入口としては手堅くまとまっている印象を受けた。また、構成上インタビューが類書に比べて多いため、インタビューを読む事が好きな方にとっては比較的面白いと言えるかもしれない。この本の性質上、どうしても細分化された要素から限られた(つまり普遍的に思われる)要素を紹介しているため、これ以上内容に大きく触れずに書くことはできないのだが、読みどころは事例集(適用事例、インタビュー)のあたりだろうか。正直なところ、感想文の対象としては選択を間違えた気分が否めないが、そんな失敗も含めて「感想文」としておきたい。


 最後に、この本の本筋と関係ない部分について触れて感想文を書くことを諦めよう。私はKindle版を読んでいるため紙の書籍ではどうなっているかわからないのだが、この本の最後に同出版社から出たビジネス本の広告が載っている。この本の内容に、「インタビューの分析にAIを使おうとしたが失敗した」という体験談が乗っているのだが、その本の広告一つ目が「AI分析でわかった トップ5%社員の習慣」(ISBN-13 9784799326084)であった(こちらの本は申し訳ないが未読である)。しかも、出版日がこの本よりも前であった。筆者が実際に分析を行ったのが具体的にいつのことなのかは不明であるが、なかなか「挑戦的」な広告の打ち方に思える。白状すると、この本で一番笑ったのはこの広告であった。細部に至るまで「アップデートの大切さ」を主張するこの本に敬意を捧げて、潔くこの話からは手を引くことにしよう。

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