アクマ編
エアレザ警察署にて
エアレザ警察署に付属した射撃場に2つの人影がある。
1人は黒髪に黒目のどこか気怠げな男ネクロ・ディーレだ。
愛用している黒いスクエア型のメガネを外してケースに入れると、訓練用のゴム弾を込めたライフルを構えた。
1~10までのスコアが割り振られた、ターゲットペーパーと呼ばれる的を狙い迷い無く引き金を引く。
5発撃ち終わった後、ネクロはチラリと横を見る。
2つの人影のうちのもう1人。
肩まで伸びる黒髪と円な碧眼をもつ華奢な婦警ルーゼ・ナイトだ。
耳当てやら射撃用ゴーグルやら仰々しい装備を身に付けた彼女は、不安感を周りに抱かせるような手付きでライフルを構え引き金を引いている。
ネクロが怪我しないか見守っているうちに、ルーゼも5発撃ち終わった。
ルーゼはほっと溜息を吐く。
「今回は上手く撃てた……はず」
「本当か?」
ネクロの訝しみの視線を振り払うように、ルーゼは大袈裟に明るく振る舞う。
「本当だよ、ほら早く見に行こ!」
2人は各々が狙った的を確認する。
中心が10点で、そこから離れるにつれて点数が低くなっている的の得点を数える。
(合計……45か)
ネクロは高得点を何でもない事のように何か受け入れる。
一方ルーゼは「あっれー!?」と素っ頓狂な声を上げ様々な角度からターゲットペーパーを凝視する。
しばらくそうしたのち、ルーゼは「もう1回!」と拗ねたように声を上げた。
新しいターゲットペーパーをセットしてスタスタと射撃台へ戻る。
彼女の幼い一面を愛おしく思いながら、ネクロはルーゼの後を追った。
ルーゼはちんたらとゴム弾を込め、ターゲットペーパーに狙いを定める。
「銃、重いのか?」
遂に見ていられなくなったネクロは声を掛ける。
「へ?」
「自覚ないんだろうけどさ。構えているうちに徐々に銃口が下がってるんだよ」
ネクロはルーゼの手に自身の手を重ね、補助をしてやる。
スナイパーとして鍛えられた大きな手に触れられて、ルーゼは自身の鼓動が高鳴るのを感じた
「銃を撃つ事を怖がらない。反動や音にビビって目を瞑ったりなんかしたら当たらないぞ」
ルーゼはこくりと頷く。
「呼吸も重要だからな。酸素不足になったらマトモに撃てないからな」
ターゲットペーパーが焦げるのではないかと思うほど、ルーゼの視線は鋭くまっすぐだ。
「止まっている獲物を狙う時は、引き金はゆっくりと引く。……緊張し過ぎ。もっと肩の力を抜いて狙う」
ネクロはゆっくりとルーゼの手を離し、彼女から離れる。
ネクロの助言を意識しながら、ルーゼは引き金を引いた。
銃声が射撃場内に響き渡る。
「……うまく当たったな」
残響も鳴り止まぬ内にネクロは呟いた。
「ホント!?」
ルーゼはトテトテとターゲットペーパーの前へ駆け寄る。
10点……つまり、円の中心に風穴がひとつ空いていた。
「10点! ネクロ、真ん中に当たった! こんなの初めてだよ!」
嬉々としてルーゼはネクロに向かって走り、そのまま抱き付いた。その姿はまるで子犬だ。
(なんだこの可愛い生き物……)
内心で彼女の振る舞いに悶えながら「そうだな、良かったな」とネクロはルーゼの頭を撫でた。
***
彼女とネクロ・ディーレの出会いは魔法学校の射撃部と呼ばれる部活動だった。
新入部員には先輩が1人付く事になっており、ルーゼに付いたのがネクロだったのだ。
ルーゼ・ナイトに射撃の才が無い事はその頃から見抜いていた。
銃に触った事はあるようだったが、撃ち方がメチャクチャなのだ。
部活終わりにネクロはこのような事を訊いた事がある。
互いに敬語を使っていた頃の話だ。
「なんで射撃をやろうと? こんな事やらなくたって、ルーゼさんには魔法があるじゃないっすか」
「だって……私が銃を使えないなんて、示しがつかないじゃないですか」
銃に刻印された『ナイト製』という文字が彼女にのしかかる。
世界大戦前から銃を製作し続けているナイト。その代表の娘であるという事実が首輪となり、彼女に強制的に射撃の道を歩ませている。
***
(まぁ、あの部活で出会えたからこそ、俺たちは今一緒にいられるのか)
射撃場の
「あーやっと見つけた……ってお前らどうした」
黒髪に鋭い相貌をもつモンスター討伐課課長のレイ・スィンスィアは、抱き合っている2人を見かけるなり困惑の表情を浮かべる。
「あ、課長! 見てくださいよ! 10点ですよ10点! 凄いでしょう!?」
ルーゼはいつもの真面目な調子を崩し、ターゲットペーパーを指差しながら早口で喋る。
「お、おぉ……? 凄いな、うん」
ルーゼの圧に引き気味になりながらレイは頷く。
「なぁ、お前ら。先日起こった未確認兵器の討伐の事について聞きたいんだが、いいか?」
ネクロとルーゼは顔を見合わせた。
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