魔王討伐後

 エーデルワイスとマオ・シエンの2人は辺りを見回す。


 白と青で統一された近未来的な場所だった。


 ややこしそうな機械が並んでおり、窓からは赤黒い大地が見える。


「おぉ、2人ともッ!」


 2人は声がした方を……背後にあるロフトを見た。


 そこにいたのは、ミッドナイトブルーを基調とした、西洋の甲冑に似た仮面ヒーローのコスチュームを身に纏う男。


「キャプテン・ブレネン! 銀河の果てよりここに見参ッ‼︎」


 室内であるにも関わらず、彼の背後で小規模の爆発が起こる。


「とうっ!」


 そして何故か階段を使わずロフトから2人がいる場所まで飛び降りた。


 シュタッ! と見事に着地したキャプテン・ブレネンは2人に近付く。


 麗しき勇者エーデルワイス。


 テレビからそのまま出てきたかのようなヒーローキャプテン・ブレネン。


 (ここまで世界観の違う2名が揃うと滑稽だな)と、マオ・シエンは自分を棚に上げた。


「無事に魔王を倒したようだな! 魔王城が燃えているのが見えていたぞッ!」


「えぇ、……後は、この世界の人次第よ。さぁ、帰りましょうか。キャプテン、お願いできるかしら」


「もちろんだとも! とうっ!」


 飛び上がったキャプテン・ブレネンは甲板にある舵の前に降り立った。


 虚空に巨大な魔法陣が浮かび、ブレネンはそれに向かって船を進める。


 ゆっくりと前進し、船体が魔法陣に飲み込まれてゆく。


 船が魔法陣の中へ消えた後、魔法陣も空に溶けるかのように消滅した。


   ***


 ここは聖域にある草原。


 青々とした草花を、雲ひとつない空が包み込んでいる。


「……なんだ、あの茶色いのは」


 窓から草原を見下ろしたマオ・シエンは、草原にいる物体に目を奪われる。


 船が草原に着陸しようと高度を下げ始めた為、物体の輪郭が徐々にはっきりと見え始める。


 着陸の風圧に飛ばされそうになりながら、茶色いぬいぐるみは船の着陸を待った。


「おはよう君!」


「キャプテン・ブレネンだー!」


 甲板から草原へ飛び降りたキャプテン・ブレネンは、目を爛々と輝かせるぬいぐるみの「おはよう」を抱っこした。


 船内から普通に下船したエーデルワイスとマオ・シエンは、喋るぬいぐるみに注目する。


「あら、可愛いじゃない」


 魔王討伐で荒んだ心が洗われてゆくような気分になり、エーデルワイスはおはように微笑みかけた。


「ン、オマエ誰?」


「エーデルワイスよ。よろしくね、ネコちゃん」


 ネコと呼ばれたおはようは不機嫌そうに鼻に皺を寄せた。


「ネコじゃない」


 「へっ?」とエーデルワイスは頓狂な声を出す。


 ブレネンはおはようを下ろしそっとエーデルワイスに耳打ちする。


「この子は自分の事をクマと思い込んでいる犬なんだ。クマという事で話を合わせてくれないか」


「……どう見たってネコちゃんでしょ?」


「いや、犬だろうどう見ても……」


 そのような2人を他所に、おはようはマオ・シエンに「オマエ誰?」と話しかけている。


「ほぉ……これは」


 マオ・シエンはおはようを抱き上げる。


「ワワッ……ン、なんかオマエくさいヨ」


 先程まで魔物の体液を雨のように浴びていたせいなのだが……あまりにもストレートな悪口をマオ・シエンはさっと聞き流し、おはようの体を潰したり引き伸ばしたりする。


「いっ! いぃいぃ~~ん!!」


 奇怪な声を上げながら手足を遮二無二しゃにむに動かし無礼な男の手から逃れようとする。


「枕に丁度良さそうだな」


「ン? 確かにオハヨってば抱き枕だけド」


 「ほう」と興味深そうに呟いたマオ・シエンは、更にこのぬいぐるみを研究すべく小脇に抱えて自室へ持ち帰ろうとしたので、他の2人が全力で止めた。

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