キャプテン・ブレネンとぬいぐるみ
聖域の快晴に巨大な魔法陣が現れる。
「わわッ! 帰ってきタ!」
それを見上げていたのは、1体の……ぬいぐるみ?
茶色いファー素材の寸胴な体と、ベージュの大きなマズル。
半円の耳と丸い尻尾が特徴的で、つぶらな瞳と鼻が刺繍で表現されている。
「キャプテン・ブレネン!」
ぬいぐるみは興奮し短い手足をバタバタとさせた。
このぬいぐるみは、正義のヒーローキャプテン・ブレネンの大ファンなのだ。
「トウッ」という声と共に船から飛び降り着地したブレネン。
「おかえりなさイ!」
ぬいぐるみはブレネンにトテトテと近寄る。
星が入っているかのような輝きを纏った尊敬の眼差しを、ぬいぐるみはヒーローに向けた。
「やぁ、良い子の『おはよう』君」
このぬいぐるみの名は「おはよう」。
「おはよう」は、ぬいぐるみの主人が、自分の友人から教わった言葉だ。
友人の国で使われる挨拶らしい。
「ブレネン! 帰ってきタ!」
おはようは丸い尻尾をブンブンと振り、ブレネンに抱きつく。
「相変わらず元気だね、おはよう君」
ブレネンから頭を撫でられ、おはようは気持ちよさそうに笑い声を上げた。
「うン! オハヨってば、とっても元気!」
「うんうん。やはり犬はそれくらい元気でないと」
犬という単語を聞いた途端に、おはようは悲しそうに目を細めた。
「あのォ……オハヨってば犬じゃなくてクマなんだけド」
(あぁ、可哀想に。この子は相変わらず自分の事をクマだと勘違いしているらしい)
仮面で顔を覆っているお陰で、ブレネンが何を思っているのか、おはようには伝わらなかったようだ。
「なーんデ、みんナ、オハヨの事、犬とカ、タヌキとカ、サルとかっテ、勘違いするのォ?」
と耳を垂らし落胆する。
「あぁ、そうだったね。君はクマだったね」
クマと呼ばれたおはようは耳をピョンと立たせた。
「うン! オハヨってバ、かわいいかわいいクマの抱き枕!」
「さぁおはよう君、そろそろ帰ろう。ご主人様も心配しているよ」
「うン!」
草原を進んだ先にある巨大な城が、天使達が住む場所なのだ。
1人と1体は城に入り廊下を進む。
途中である人物を見かけたおはようは「あッ!」と声を上げた。
「オハヨのママ!」
おはようが指差した先にいたのは、桃色の長い髪と碧眼が印象的な女性ヴェーラ。
ランドール討伐を企てた張本人だ。
「あぁ、確かヴェーラ君が君の体を作ってくれたのだったね」
適当に返事しながら、ブレネンはヴェーラの様子を伺う。
彼女は美しい相貌を不安そうに歪ませ何処かへと走り去る。
随分と焦っている様子だった。
「……? どうしたノ? キャプテン・ブレネン?」
「ん? あぁいや、何でもないのだよ」
おはようは首を傾げながらも「うン」と返事した。
「ヴェーラ、どこへ行くのかナ」
「心配かね?」
「うン……キャプテン・ブレネンごめんネ、オハヨ、ヴェーラの事見に行ク」
「分かった。君が元気付けてあげるんだ」
「はーイ!」
おはようは短い足を懸命に動かし、ヴェーラの後を追う。
キャプテン・ブレネンはおはようの背中を見送ると、適当な会議室に入り変身を解く。
星屑のような光に包まれたブレネンの姿が、一瞬でスーツを着たオールバックの中年男に変わる。
キャプテン・ブレネンの正体はゲッペルスだったのだ。
「さて、これからどうするべきだろうか」
ヴェーラの思惑を阻止する事ができたが、次なる悪魔狩りの手がランドールを襲うだろう。
「これからも見張らなくてはならない。その為には……」
もっと仲間が必要だ。
信頼できる仲間が……
「またマキタ君に声をかけてみるか」
ゲッペルスは会議室の扉を少しだけ開けて廊下の様子を窺う。
誰もいない事を確認し、ゲッペルスは廊下に出て、何事も無かったかのように帰路についた。
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