天使編
キャプテン・ブレネンとダイモニアの悪魔
ここはダイモニア。
かつての国教神ディアカルの死により暗黒に堕とされた世界。
悪魔がコウモリのような翼を翻し、空を駆け獲物を探す。
痩せこけた犬が人骨にかぶり付く。
残された人々が暗がりに集い神に祈る。
そのような退廃した世界の曇天に、巨大な魔法陣が現れた。
その中からオーケストラ調の壮大なテーマ曲と共に1隻の船が現れる。
青と黒を基調とし、ゴールドを差し色として使った豪華な帆船だ。
船を操っているのは、ミッドナイトブルーを基調とした、西洋の甲冑に似た仮面ヒーローのコスチュームを身に纏う正体不明の男。
「キャプテン・ブレネン! 銀河の果てよりここに見参ッ‼︎」
と彼が決めポーズをすると、何故か彼の背後で特撮ヒーロー特有の爆発が起こる。
「待っていろ! 子供達ッ!」
ブレネンは舳先に立つと……
「トウッ!」
地上から約4,000m離れた船から無謀にも飛び降りた。
飛び込み選手のように空で舞い、なんとパラシュート無しで無事に着地する。
着地した場所は、なんと悪魔の群れの中。
悪魔の数は約100匹。
四面楚歌とも呼ぶべき状況にありながら、ヒーローは呑気に再びポーズを取る。
「キャプテン・ブレネン! 銀河の果てより見参ッ! 良い子のみんなを悲しませる悪魔には、正義の鉄槌を下してやろうッ! ……さぁッ! どこからでもッ! かかって来いッ‼︎」
知能が無いはずの悪魔共も、この男には困惑しているようだ。
しばしの沈黙の後、群れの中の1匹が咆哮を上げヒーローに襲いかかった!
「ムッ!」
ブレネンはようやくファイティングポーズを取り、悪魔の
悪魔は口から青白く光る液体を吐き出す。
悪魔の身体中に黒い稲妻が走った後、謎の爆発を起こし体が四散する。
青白い液体があちこちに撒き散った。
「血は検閲済みだッ! 良い子のみんなには見せられないからなッ!」
検閲……?
まさか、この男は!?
「さぁッ! 来いッ!」
悪魔共が鬨の声を上げ、一斉にキャプテン・ブレネンへ襲いかかった。
ブレネンは奴らをちぎっては投げちぎっては投げ、圧倒的な強さを見せつける。
頑張れ! キャプテン・ブレネン!
負けるな! キャプテン・ブレネン!
良い子達の未来は君にかかっている!
雑魚共を退治していると、巨大な影がブレネンに忍び寄った。
「ム……貴様が悪魔の親玉かッ!」
問われた悪魔は答えず、憎悪に満ちた悍ましい形相で両手の骨を鳴らす。
背丈約4m。筋骨隆々な緑の肌がヌラヌラと光っている。
周りの悪魔共は、突如現れた悪魔を恐れ道を開けた。
今まで素手で戦っていたブレネンは、遂に武器を手にする。
右隣に現れた魔法陣に手を突っ込み、未来的なデザインのレーザーガンを取り出した。
銃口を親玉に向け、トリガーを引く。
銀河を思わせる色合いのレーザービームが親玉の肩を貫いた。
だが、親玉は怯まずブレネンに襲いかかり、ブレネンの胸元に爪による攻撃を喰らわせる。
「グウッ!!」
人間であるはずのブレネンに刻まれた3本の創傷から、青白い液体が噴き出した。
この機を逃すまいと、親玉がブレネンの体を何発も殴る。
十数発ものラッシュを喰らわせた後、親玉はブレネンにアッパーをお見舞いした。
「グァァァァァッ‼︎」
鳩尾に重い一撃を貰ったブレネンの体が宙高く飛び上がる。
ボロ雑巾のようになったブレネンは、口から液体を吐き出しながらゆっくりと立ち上がる。
「ガハッ……ァ、な、なかなかやるな……ッ! こうなったら……必殺技を出すしかあるまいッ!」
現れた魔法陣から取り出したのは文庫本。
「これは良い子達に見せられないような残酷な表現が使われている小説だッ!」
文庫本を天高く掲げると、なんと本が燃え始めた。
その炎が次第に強くなり、巨大なエネルギーの球となる。
「くらえッ! 『ブック・バーニング』ッ‼︎」
エネルギーの球がブレネンの手から発射された。
エネルギーに包まれた親玉が、骨すら灰と化す程にこんがりと焼かれ、塵となり消え去る。
衝撃的な光景を目の当たりにした雑魚共が、一斉に逃げ出す。
「ああッ! 待てッ! 待ちたまえッ! 『ギャラクシー号』ッ!」
ブレネンは単身で空を飛び、帆船ギャラクシー号に乗り舵を握る。
「逃がすものかッ! これ以上、良い子達に悲しい思いはさせないぞッ!」
ギャラクシー号は一目散に逃げる悪魔の群れに照準を合わせて……
「『ギャラクシー・ビーム』ッ‼︎」
舳先から銀河を思わせる色合いのレーザーを発射した。
悪魔共は回避しようと試みるが、レーザーの速度に追いつけず、親玉と同じ末路を辿る。
辛うじて狙われなかった残党共は、得体の知れない帆船から逃げ続けた。
「1匹も逃しはしないッ!」
ブレネンは舵を握りしめる。
全ては、ダイモニアの平和の為に!
1匹も、骨すら残さぬように焼き尽くさん!
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