勧誘
「で? 今度は何だよ?」
ゲッペルスの部屋に訪れたマキタは、勝手にベッドに寝そべりながら尋ねる。
「今度は何して欲しいんだい?」
マキタは花魁のように、上品で艶美な笑みを浮かべた。
「まずはベッドから降りたまえ」
「……んだよ、もう! せっかくオレから誘ってやってんのによぉ」
「誘いに乗ると思っているのかね? いいからさっさと降りたまえ」
ゲッペルスはマキタの細い腕を掴み無理やり起き上がらせようと試みる。
「やん♡」
「やん、じゃない」
「はいはい、分かったよ、降りますよっと……で?」
マキタは大義そうにベッドから立ち上がった。
「単刀直入に言おう。マキタ君、私の仲間になってくれないか?」
「仲間……悪魔狩り妨害のか?」
ゲッペルスは頷く。
「私は悪魔狩り自体には反対していない。だが、無闇やたらに悪魔を倒す事には賛成しない」
「よく考えてみたまえ」とゲッペルスはマキタの双肩に手を置いた。
「この前助けたランドールは、確かに戦争で大勢の人間を殺したのかもしれない。だが、彼は家庭を持ち、街の人々を守る為モンスターを倒す仕事をしている。彼は正義への道を歩み始めているのだよ」
「ほんとーかぁ? 本当に正義の道を歩いてんのかぁ?」
唇の間から八重歯を覗かせたマキタは続ける。
「1度殺人を犯したんだ。もし次の戦争が起こったら、奴は躊躇なく敵を殺すだろうよ。1人殺しゃあ、100人だって1000人だって殺せるさ」
自分と比べ随分と小柄な青年に言葉で圧倒され瞠目する。
(もしかしたら、マキタ君は私が思っている以上に暗い過去を持っているのかもしれない)
「確かに前はおめぇさんに手を貸したよ。それは金っていう分かりやすい報酬があったからだ。そうだな……もし、俺の力が欲しいってんならーー」
正直、マキタの変身能力は欲しい。
彼の能力があれば、悪魔狩り達の混乱を容易く引き起こせるだろう。
「金かおめぇさんの体か。どっちか払ってくれりゃあ、おめぇさんの仲間になってやってもいいぜ?」
ゲッペルスは顎に手を当て考え込み、やがて大きな溜息を吐く。
「仕方ない。お金を支払おうではないか」
それを聞いたマキタは柳眉を逆立てゲッペルスの胸ぐらを掴む。
怒りの表情すら美しいのだから恐れ入った。
「なんでその2択で金を選ぶんだ!? そんなにオレと(検閲済み)したくねぇのか? こんなにオレ可愛いのに!?」
まさか自分の事を「可愛い」ときたか……
「断固として拒否する」
ゲッペルスは毅然とした態度で断ると共に、マキタを哀れに思う。
「んだよもう……天使ってのはさ、皆どっかブッ壊れた元人間共の集まりだろうがよ……貞操観念もブッ壊れてると思ってたのに」
「誰も彼も、皆性格が破綻している訳ではないだろう? 天使は神に認められて、聖域で生まれ変わった人間達なのだよ」
ゲッペルスはマキタの手を払い除けた。
「そうかい? 一歩間違えたら神になりそうな人間共だと思うけどなぁ」
人間が神になる。
モルゲンレーテの国教神フェリスもそうなのだが、人間が神になるという事も無くはない。
2つの内どちらかの条件を満たすと、半強制的に神となる。
①生前に他の人の信仰を集め、死後に人々により神格化される
②世界を変えるような出来事を起こす
「……あぁもう、そんな事ァどうでも良いんだ……仕方ねぇや、金で許してやるよ」
「当たり前だ」
肩を降ろし残念そうな表情を浮かべるマキタを、ゲッペルスは見下ろしていた。
(よし、これで2人目の仲間だ)
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