モンスター対策課

 空が茜に染まる頃の事。


 エアレザの中央付近にあるエアレザ警察署にて。


 2人の警官が屋上でぼんやりとしていた。


「……暇だな」


「……暇っすね」


 1人は、やけに甘ったるそうなコーヒードリンクを片手に。


 もう1人は、スクエア型の黒縁メガネを掛け直す。


 彼らはエアレザ警察署に設けられたモンスター対策課に属する警官たちだ。


 ご覧の通り、街がモンスターに襲われるか、他部署から仕事を押し付けられるかしない限り暇な課である。


「まぁ、俺らが暇って事は、エアレザは平和って事だな」


 と言ってコーヒーを飲んだのは、レイ・スィンスィアという男。


 無造作な黒髪に大柄な体格。鋭い相貌も相まって、近寄りがたい風貌だ。


「そーっすね……俺もルーゼとのんびりできるし」


 メガネをかけた彼はネクロ・ディーレ。


 彼も黒髪で、レイと比べると随分細身に見える。


「お前……少しはルーゼさんから離れろよな」


 「嫌です」とネクロは上司であるレイの命令を一蹴する。


「放っておけないんで」


「ルーゼとのんびり……って、ただお前が彼女の邪魔してるだけだろーが」


 ルーゼとはネクロの恋人の事だ。


 彼らは人間向けの魔法学校に通っていた頃から付き合っているらしい。


「いやぁ、見かけると、ついつい声かけたくなるんすよ」


「……声かけるのは良いが、邪魔はしないようにな」


 ネクロはやる気の無い返事をした。


(多分、こいつ言う事聞かねーな)


 レイは心中で溜息を吐く。


 微かに階段を登る足音が聞こえる。やや駆け足で、どうにも忙しない。


 屋上と警察署内部を繋ぐ扉が勢い良く開かれた。


「……あっ、いた!」


 と大声を出し2人に駆け寄るのは1人の婦警だ。


 肩まで伸びる黒髪をそのまま下ろし、円な碧眼をもっている。


 華奢な体格と童顔のせいで年齢よりも幼く見えるが、ネクロと同じ年だ。


「あっ、ルーゼ! 俺に会いに来たの?」


 とネクロは心底嬉しそうに微笑んだ。


「違う!」


「……はい」


 いとも容易くルーゼ・ナイトに一蹴されたネクロは落胆した。


「課長、偵察隊から連絡が入りました。大型の兵器がエアレザ周辺に現れたとの事です」


 ルーゼは簡潔にレイにそう報告した。


「大型の兵器? 世界大戦の兵器か?」


「恐らくは……はい」


「恐らく?」


 「恐らく」という曖昧な返事に、レイはルーゼに更に尋ねる。


「兵器の写真は撮れたのか?」


「えぇ、偵察隊が魔道カメラで撮影をしました」


 「これです」とルーゼはレイに写真を手渡した。


 遠くの被写体を拡大し撮影できる魔道カメラで捉えられた兵器を、レイは凝視する。


 ネクロは上司の背後から覗き込むように写真を見て「何だこれ?」と怪訝そうに呟いた。


 絨毯のように一面に広がる森の中に、異質なモノが混じっている。


 下半分が木々に覆われている為どうなっているのか分からないが……上半分を見る限り、奴は島のような形をした人工のモンスターのようだ。


 くすんだゴールドの歯車やパイプが剥き出しになっており、所々から生えている煙突から煙が立ち上っている。


 また、大型モンスターの周りに小さい兵器が羽虫のように飛行しているようだ。


「レイさん、この兵器見た事ありますか?」


 ネクロはレイの横顔を窺った。


「……無い。俺も初めて見た」


 眉根にシワを寄せながらレイは呟く。


「過去の情報は? 調べてくれたか?」


「調べましたが……そのモンスターに合致する資料はありませんでした」


 レイは一考した後、再び口を開く。


「いずれこの街を襲うかもしれないし、に聞いてみる。この写真借りるぞ」


 レイが言う討伐屋とは「黒い仮面」の事だ。


 モンスター討伐課は昔から討伐屋とは縁がある。


「全員アクマなんだ。誰か1人は知っているだろう」


(しかし……またマティウスと話さなきゃならねーのか)


 コーヒーを飲み干し、レイは屋上を後にした。

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