ソルダードその2(残虐表現あり)

 牛小屋から、茂みから……様々な形のソルダードが現れた。


「全く、研究者様はもっと別な事に力を入れようと思わなかったのかな? 兵站の質を上げるとか……」


 戦時中の食事の不味さを思い出し、ランドールは舌打ちする。


「……いけないいけない、舌打ちなんかしたらエミールに怖がられる」


 自身の行動を戒めながら、ランドールは敵陣へ特攻した。


 顔中にガラスの目を埋め込まれた者。


 腕同士を縫合され、腕を倍以上に伸ばされた者。


 自らの首を抱えた者。


 人間をおもちゃのように扱えたのは、研究者の人間性のせいだろうか。それとも、混沌と化した戦争のせいなのだろうか。


 ランドールはまず、腕の長いソルダードの懐へ突っ込んだ。


 全ての敵に言える事だが、リーチの長い敵は近距離による攻撃に弱い。


 遠距離にいる敵を狙うのが得意な分、近距離にいる敵を狙うのがやや不得手なのだ。


 実際、ソルダードはランドールに向かって手を伸ばそうとするが、腕を折り曲げるのに苦労している。


 ランドールは剣を振り上げ、奴の胴体を縦に真っ二つにした。


 血を模したオイルが溢れ、ランドールは真っ赤に染まる。


 このオイルも、敵の戦意を削ぐ為の作戦なのだろう。


 まだ生きているように錯覚させる為か、やけにオイルが生暖かい。


 2等分されたソルダードが、地面に崩れ落ちた。


 生物なら致命傷だろう。だが奴は敵兵を震え上がらせた兵器の1つ。


 この程度で殺せる相手ではない。


 奴の息の根を止めるには、埋め込まれたコアを破壊する必要がある。


 しかも、すぐ破壊されぬようランダムな位置に埋め込まれているのだ。


 頭か、胴体か、腕か、足か……


 コアの手応えが無かったので、このソルダードはまだ生きている。


「君だけに構っている暇はないんだよ。『シューヴェルト』!」


 ランドールの周りに5本の剣が浮遊する。


 その内の2本が、切り伏せたソルダードへ向かって滑空する。


 1本は右半身の。もう1本は左半身の胸を貫き、奴を地面に固定した。


 押さえつけられたソルダードの右半身が腕を遮二無二動かし、掠れた叫び声を上げ続ける。


 口端でオイルを泡立たせ、赤い飛沫を飛ばす。


 一方、左半身は全く動かない。


 つまり、このソルダードのコアは右半身にあるという事だ。


 腕長のソルダードを無視し、ランドールは顔中に目がある敵兵に飛び掛かった。



 馬車の隣にいるマティウスが、バリア越しにランドールの狙っているソルダードを指差す。


「『ビトリーブ操作!」


 マティウスが唱えると、百目鬼のようなソルダードが橙色の光に包まれふわふわと宙に浮かび上がる。


 ビトリーブは筋力依存だが、遠くにあるの物を持ち上げるという魔法なのだ。


「ふんぬぬぬぬっ!!」


 マティウスは額に汗をかきながら、ソルダートを少しだけ持ち上げてみせた。



 マティウスの援護により生じた隙を突き、ランドールは奴の体を腹を掻っ捌く。


 詰め込まれた綿の中から、傷の付いたコアが溢れ落ちる。


 真珠のように輝いていたコアが急速に光を失い、空中でボロボロと崩れた。


 奴のコアは腹の中にあったのだ。運良く一発で仕留める事ができた。



 ランドールが狙いを変えたのを見て、マティウスは魔法を解除した。


「ぜぇ、ぜぇ……」


 「疲れた」とマティウスは額の汗を拭うような所作をとる。



 次のソルダードは頭を抱えた者。鎧を着込んでおり、マティウスの背丈より長い大剣を片手で軽々と扱う。


 これは他のソルダードのようにはいかないぞ。


 ランドールは意を決し、奴の前に立ちはだかった。

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