ソルダードその1(残虐表現あり)

 戦争は人々を狂わせる。


 アナログ時計のように、ゆっくりと。だが、確実に狂うのだ。


 後に「2人の英雄」に数えられる1人の魔道開発者が、コアという魔道具を作り出した。


 コアは掌サイズの水晶玉のような形で、人形に埋め込むと、人形がまるで生命を与えられたかのように動き出すのだ。


 その性能に目を付けた別の研究者が、恐るべき兵器を作り出した。


 研究者は兵士を集め、こう命じたのだ。


「敵兵の死体をできる限り集めるんだ」


 意味も分からぬまま、兵士達は敵兵の死体を集めた。


 研究者は集められた死体を解体、縫合し、人形を作り出す。


 人間の体を材料とした人形だ。


 それにコアを埋め込み、敵兵を殺すようプログラミングした研究者はこう言った。


 「こちらで用意するのはコアと防腐剤だけで、実に経済的だろう? それに、人形とは言え、かつて仲間だった者を再び殺せるかね? これは最強……いや、最恐の兵器なのだよ」


 戦争が終わってから、ソルダードはただ周りの生物を殺し回るだけのモンスターと成り果てたのだ。


 今、討伐屋の前にいるのは、最悪な環境と追い詰められた人間の精神によって造り出された……まさに悪魔と呼ぶべき存在。


 人間の胴体に、6本の腕が縫合されている。クモのように這い回り、虚なガラス玉の瞳で新たな獲物の姿を捉える。


 クモ型と呼ばれるソルダードだ。


 先程まで無意味に牛の肉を咀嚼していたのだろう。口の周りが血で汚れている。


「『ヴァント』」


 マティウスが詠唱すると、青白い光でできた半球体が馬車を包み込んだ。


「御者よ、貴様の馬車をバリアで包んでやった。これで貴様らは奴らの攻撃を受けない」


 マティウスは錯乱している御者を宥めるよう説明した。


「マティウス、僕が奴の気を引くよ」


 とだけ言い残し、ランドールは背負っていた2本の剣を構えソルダードに飛び掛かる。


 ソルダードは前足を上げて、装着された鋼鉄の鉤爪で剣を受け止めた。


 ツンとした腐臭が鼻を刺す。もう200年以上も前の死体なのだ。防腐剤が使われているとは言え限度がある。


「久しぶりだね、ソルダード」


 まだいたのかい? とランドールは微笑んだ。だが、その瞳には一切の憐みも同情も無い。


「君もまだ、戦争を忘れられないみたいだね……僕もなんだ。名前は忘れたけれど未だに仲間の幻影を見るんだよ」


 ランドールは攻撃を次々と繰り出す。その華麗で無駄のない動きは踊り子のよう。だが……かつて敵国を震え上がらせた兵器は一筋縄ではいかない。


 ソルダードは攻撃を見切り、両前足で攻撃を受け止める。


 コアを使った兵器が数多く存在するが、ソルダードだけは人間を材料として使っているせいか性能が高いのだ。


「『ゲフリーレン・ツァ・アシュテールング氷結・破壊』」


 マティウスはバリアを展開しながら、ソルダードに掌を向け2つ目の魔法を詠唱する。


 クモ型はたちまち氷漬けになり、ビシビシと音を立てて氷と共に砕け散った。


「あ……ああぁ、あ……」


 御者は項垂れ安堵の溜息を吐く。


「御者よ。落ち着くのは良いが……まだ安心はできぬようだ。新たな敵が来る」


 牛小屋から、茂みから……


 様々な形のソルダードが討伐屋の前に立ちはだかる。

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