ソルダードその3(残虐表現あり)

最後のソルダードは頭を抱えた者。


 鈍く光る鋼鉄の鎧を着込んでおり、マティウスより大きな剣を片手で軽々と扱っている。


 デュラハンを思わせる敵が、剣を振り下ろし空を斬る。


「ッ!」


 まともに攻撃を受けてはいけない!


 ランドールは危険を察知し、攻撃を躱す。


 死して尚強烈な闘志を感じさせるこの男は、かつては誇り高い戦士だったのだろう。……そして、鎧の胸部分に施された紋章が彼の信仰深さを示している。


 ランドールは残っていた3本の魔法の剣をソルダードに放つが、いとも容易く剣で跳ね返されてしまった。その内の1本がランドールを襲う。


「うわっ! ……と」


 自分の魔法を躱せず、咄嗟に左腕で体を庇う。


 腕を貫かれたが、辛うじて顔へのダメージは避けられた。人間と同じ赤い血が、刀身を伝いポタポタと垂れる。


「痛いなぁ、もう」


 紙でちょっと手を切ったかのような反応。


 魔法の剣が数多の光の球となり空に溶けるのと同時に、傷の治癒が始まる。ものの数秒で傷が塞がり痕すら消えてしまった。


 この恐るべき治癒能力は、アクマなら誰でも持っている。


「どうする? 僕を殺すには首をちょん切るか、失血死させるか……悪魔を殺すのは得意でしょ?」


 ソルダードが剣による攻撃を次々と繰り出す。


「昔の事なんてすっかり忘れたけど、胸に描かれてる紋章の事は覚えてるよ」


 攻撃を見切り、最小限の動きで躱し、双剣で受け流す。


「それ、悪魔狩りの印でしょ?」


 懐に潜り込む。


「父親がさ、僕が生まれる前に悪魔狩りに殺されたみたいなんだ」


 鎧の守りが脆弱な関節部分を狙い、頭を抱えた手を切り落とす。


「僕の友達も悪魔狩りに襲われた事があってね。今でもトラウマを抱えてる」


 ソルダードの頭が地面に転がる。


 胴が目標を見失い明後日の方向に向かって剣を振るう。


「今の僕の家族の為にもさ、君には苦しんでほしいなぁ」


 軽い口調とは裏腹に、モンスター討伐屋の瞳に非情な炎が灯る。


 生憎、複数詠唱ができるほど魔力を持ち合わせていないランドールは、剣の魔法を解除した。


アシッド


 ランドールの双剣が黄色い光を纏う。剣を振るい鋼鉄の鎧に攻撃を加えると、鎧が腐食し始め、カビが生えた肌が露わとなる。


「その鎧邪魔なんだよね。胸のマークもムカつくしさ」


 やがて丸裸になった敵は、未だに自分の頭の場所すら分からないようだ。辺りをキョロキョロ見回したり、めちゃくちゃな方向へ剣を振り回したりしている。


 酸の魔法を解除し、再びあの魔法を使用。


シューヴェルト


 5本の剣がソルダードに襲いかかり、奴の体を何度も斬る。


 鮮血を模したオイルや肉片が飛び散っても尚、容赦無く斬る。


 何度も、何度も、何度も……


 かつて人間であった肉をミンチ状になるまで切り刻むつもりだ。



「……うぅむ」


 離れた場所でマティウスはその様子を見ていた。


「あの男らしいな」


 長年共に戦ったマティウスが呟く。


 ランドールは家族の事を何よりも大切にする男だ。


 家族以外には殆ど興味を示さず、家族に害を為す者は徹底的に踏み潰す。


 あまりに自己中心的。


 だからこそ、世界大戦を生き抜いたのだろう。


 だからこそ、人間とアクマが繋がるきっかけを作ったのだろう。


「ランドール……」


 マティウスは彼の名を呼んだ後、口を固く閉ざした。



 辺りに肉塊が転がり、腐臭と酸が混じった臭いが漂う。


 臭いのもとはカビが生えたミンチ。


 ネズミもこの肉は喰わないに違いない。


 血塗れの魔法の剣が空に溶ける。


「……まーた」


 返り血をシャワーのように浴びたランドールは、天を仰ぎながら呟く。


「まーた、エミールに『パパ、くさーい』って言われるんだろうなぁ……」


 イヤだなぁ。嫌われたくないなぁ。


 これ以上臭いがこびり付かないように、早く仕事を終わらせなければ。


 血の海からコアを見つけ出す。


 真珠のように光るコレが、殺戮の道具だとは誰も思わない。


 ランドールは魔道具に向かって剣を突き立てる。


 ガシャン! とガラスのように砕かれたコアは、光を失い黒い塊に変わってしまった。

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